テラーノベル
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M_Yuzu
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大型家具店に岩本と阿部はいた。
阿部の隣には目黒もいた。
「…だからさ」
仕事終わりで待ち合わせ場所に到着した岩本は、頭を抱えて声を絞り出した。
「目黒は、何でいるわけ?」
岩本が来た時、阿部と目黒はテイクアウトのコーヒーを片手に話し込んでいた。
親しげに、まるで恋人同士のような距離感で。
今日は共有スケジュールへの誤爆はない。
なのに、1番来て欲しくない奴がピンポイントで来ている。
「…阿部が誘ったの?」
「そこで会ったんすよ」
尋ねると目黒が答えた。
——そこで会った。
にわかには信じられず、岩本は阿部に視線を向けた。
「いや、ホントに。コーヒー買おうとしたら、目黒がいたの」
俺もびっくりした、と阿部は言った。阿部の様子から、嘘ではないことはわかったが、目黒がいるという状況に変わりはない。
何でよりによって目黒なのか。彼は岩本にとって、一番厄介な相手だった。
「まさか偶然、阿部ちゃんに会うなんてね。これって…運命だね」
目黒は淡く微笑んで、阿部の肩に手をかけた。
「触んな」
すかさず岩本は言って、2人の間に割って入る。阿部は苦笑し、困ったように小首を傾げた。目黒は黙って、阿部の反対側に移動して隣に並ぶ。
「今日、何見に来たの?」
岩本がまだ何か言いかけるのを遮って、目黒は尋ねた。
「えっと…、ソファとベッド」
阿部が答える。
「了解。じゃ行こ」
「いや、ちょっと待て」
当然のように同行しようとする目黒を、岩本は引き留めた。
「おかしい、おかしい」
懸命に仕事を片付けて急いで来たのに、何が悲しくて新居の家具を、3人で見なければいけないのか。ここは何としても、阿部と2人で選びたい。岩本が目黒を帰そうとした時、目黒がスマホを取り出した。
「俺がついてくるの嫌なの?じゃあ、全員呼ぶ?」
グループLINEの画面を見せて言う。あからさまな『脅迫』に岩本は固まった。
残りのメンバーが集合した状況を想像する。絶対に収集がつかないのは、目に見えている。
そして内見の時の、静かに怒っていた阿部を思い出した。
「俺だけじゃなきゃいいでしょ?」
目黒の言葉に岩本は、阿部を見る。阿部は無言だったが、その目は『全員はダメだ』と圧をかけていた。
岩本の脳内で、全員合流ルートと目黒と3人ルートの検証が瞬時に行われる。結果、選択されたのは、『阿部の機嫌を損ねるよりマシ』な目黒と3人ルートだった。
「………チッ」
岩本は舌打ちを漏らし、目黒にスマホを下げさせた。
「お前、ホント…覚えとけよ」
鼻先に指を突きつけると、目黒は人懐っこい顔で笑う。
「じゃあ、公認って事で。行こ、阿部ちゃん」
岩本の不機嫌などものともせず、彼は阿部を促し店の入り口へと歩き出した。
「あ、ほら、ひかるも行くよ」
阿部が慌てて岩本の腕を掴む。
岩本と目黒が、ぴったり阿部の両脇に張り付いて入店する形になった。
「…俺、連行されてるみたいになってんだけど」
阿部はぽつりと呟いた。
「ちょっと離れない?2人とも」
このままではエスカレーターに乗れない。
「だってよ。岩本くん」
「何で俺だよ。お前が離れるんだよ」
2人は互いに言い合って、結局阿部から離れなかった。阿部は一つため息をつく。そして意を決して、目黒を見た。
「あ、あのさ、目黒」
阿部が切り出すと、目黒は穏やかな視線を彼に向けた。
「何?」
「あの、ひかるはさ、その…俺にとって、『旦那さん』的な、立ち位置で、だから…えっと」
なんて言えば伝わるか、と阿部は懸命に言葉を探す。
岩本は、阿部が自分を『旦那さん』と称したことに口元を緩める。その一言にさっきまでの不機嫌が、一時的に和らいだ。
辿々しく言葉を繋ぐ阿部に、目黒は笑った。
「分かってるよ、阿部ちゃん。岩本くんは阿部ちゃんの旦那さんだよね」
目黒の言葉に阿部は、伝わったか、と表情を明るくする。
「そ、そう、だからさ——」
ちょっと離れようか、と彼は言いかけた。が、
「だから俺は彼氏で良いよ」
目黒は笑顔で言った。
——数秒、誰も言葉を発さなかった。
「………え?あ…?…そっか、目黒は、彼氏で…」
「阿部!」
岩本が肩を掴んで阿部を揺さぶった。
「納得するところじゃないから!」
言われて阿部は我に返る。
「はっ…、だ、だよね」
あまりにも堂々とした斜め上の発想に、脳が処理落ちした。
「危なっ…」
岩本は小さく呟く。
「え、な、なにが?」
「あと三秒遅かったら、お前に彼氏が一人増えるところだった…」
言われて阿部も、自分の不可解な思考に戸惑った。 確かに一瞬、そうかそれで良いのかと、思ってしまった。
「さ。というわけで、早く行こ」
目黒は阿部の混乱も意に介さず、阿部の背中に手を添えて、エスカレーターに誘導する。
もはやどこまで本気で、どこからが冗談なのか分からず、岩本は空恐ろしくなりながら2人の後に続いた。
ソファ売り場に着いて、まず目に入ったのは3人掛けのファブリックソファだった。
シックな色味で、大きさ的にも新居のリビングに合いそうだ。
「…これくらいのサイズが良いかも」
阿部が、持参した間取り図と寸法表を出して言う。更に懐からメジャーを取り出し、テキパキとソファを測った。
「数値的には悪くないね」
測った寸法をスマホにメモして、彼は写真を撮る。
「座ってみなよ」
目黒が促した。そうだね、と返し、阿部はソファに腰を下ろした。意外と座面は柔らかく、深く体が沈んだ。背もたれに身体を預けると、包まれるような安心感があった。
「思ったよりフワフワ」
傍らに立つ岩本に阿部は伝える。
岩本は隣に座ろうとしたが、 しかし一瞬早く、目黒が阿部の隣に腰掛けた。
「………」
先を越されて岩本は立ち尽くす。
目黒が勢いをつけて座ったせいで、座面が大きく沈み、阿部と目黒の肩が触れた。
反射的に阿部は目黒を見る。そしてその端正な横顔を改めて意識した。
「………」
岩本は無言で阿部と目黒を見ている。そんな岩本の視線に気づかず、阿部は目黒の横顔に釘付けになった。
(近い…目黒…相変わらずイケメンだな…)
目黒は出会った頃から美少年だったが、歳を重ねて、すっかり男ぶりが上がっていると感じた。
男から見ても格好いい男だ。
(本当…反則だろ。この顔)
阿部は至近距離で目黒蓮を目の当たりにして、赤面した。
「ん?」
阿部が見ているのに気付き、目黒は首を傾げる。微笑まれて阿部はどぎまぎした。
「………阿部」
その時、頭上から声が降ってきた。冷ややかな、岩本の声だった。
阿部はハッと我に返る。
岩本は無言のまま阿部の隣に座った。反対側の座面が沈んで、阿部が少し岩本の方へ傾いた。
「あの、ひかる…」
「俺はもう少し硬い方が好みだな」
弁解しようとした阿部を遮って、岩本は感想を述べる。彼の硬い声音に、阿部は焦った。
「そ、そっか。そうだね」
阿部はサッと立ち上がる。阿部がいた空間が空くと、目黒が岩本を見てちょっと笑った。岩本は、すぅ…と目を細めて、一応笑顔の体裁はとったが、機嫌を損ねているのは明らかだった。
「あー、えっと、一旦ソファは保留にして、ベッド見に行かない?」
阿部が焦りながら切り出した。
「わかった。ベッドね」
目黒が返して立ち上がる。
「ひかるも、ね、行こ」
岩本は阿部に促され、無言のまま腰を上げる。
「…阿部、後で話そうな」
ぼそっと彼は呟いた。
「えっ!?」
阿部の声が裏返る。それ以上岩本は何も言わなかったが、うっすらと微笑まれ、阿部は背中に冷たいものを感じる。
不穏な空気を纏いながら、3人は連れ立ってベッド売り場へ移動した。
広いベッド売り場には、シングルサイズからキングサイズまで、様々なベッドが整然と並んでいた。
「寝心地は大事だから、サイズ感とマットレスの硬さを確かめないとね」
少しこわばった笑顔で、阿部は言った。
「阿部ちゃん、あれは?」
売り場を見渡して目黒が指したのは、売り場の真ん中に置いてある、キングサイズのベッドだった。
シックなグレーのフレームが、ホテルのような高級感を漂わせている。
「へえ、いいね」
阿部はベッドに歩み寄り、まずはサイズを測った。
「2人で寝るなら、やっぱりこれくらいがいいかな。ね、ひかる?」
スマホにメモを残して、岩本を振り返る。2人で、と言う言葉に、岩本の仏頂面が少し和らいだ。
「ちょっと寝てみたら?」
阿部はそれを見て、少しホッとして言う。
そうだな、と呟いて、岩本は分厚いマットレスに寝そべった。
「寝返りしやすい。これいいな」
左右に転がってみて言う。それから彼は端によって、自分の隣をぽんと叩いた。
「試してみな」
そう促す。阿部は岩本の隣に横になってみた。背中と腰を支える、丁度いい硬さ。
「寝心地良さそう」
阿部は岩本を見て微笑む。岩本もまた彼を見て目を細めた。
その時、
「じゃ、俺も」
声がして、阿部の隣に目黒が横になる。まるでそのまま、腕枕でもするかのような近さで、彼は阿部を見た。
「っ!ちょっ、めぐ、近い…っ」
阿部は、間近にきた整った顔に狼狽えて、顔を赤くして身体を起こす。
(やべ。阿部ちゃん可愛いな)
思いの外、阿部が反応したので、目黒はいたずらっぽい笑みを浮かべて、阿部を見た。
「………阿部」
低い声が再び阿部を呼んだ。阿部は慌てて岩本を見る。岩本は横になったまま、冷めた目で阿部を見ていた。
「ひかる、あの、誤解だよ?違うから。近かったから」
「違わねえだろ。ときめいてんじゃん」
阿部の言い訳を一刀両断に切り捨て、岩本は身体を起こす。
「覚悟しとけよ」
真顔で低く囁いた。阿部は青ざめる。
(やばい…ひかるが本格的にご機嫌斜めに…!)
岩本は阿部の胸ぐらを掴み、顔を近づけた。
「…今夜、ちゃーんと話そうな?」
口の端に笑みを浮かべて言う。彼はすぐ手を離して、阿部から離れた。
「俺、照明見てくるわ」
そして1人、歩き出す。
「ひかるっ、待って、違うって!」
阿部は慌てて岩本を追った。
(ちょっとやりすぎたかな…)
岩本に追い縋って、懸命に彼を宥めすかす阿部を見て、目黒は思った。
待ち合わせ場所に岩本が来た時点から、若干のヤキモチもあったのだが、調子に乗って煽りすぎた。
(いや、でも、阿部ちゃんがときめいちゃうのも悪いよな)
赤くなって狼狽えていた阿部を思い返す。
そして思わずニヤけた。
阿部が自分にドキドキしたのだと思うと、シンプルに嬉しい。
顔が整っていて良かった、と目黒はこの顔に産んでくれた親に感謝した。
阿部はまだ岩本の機嫌を直そうと奮闘している。
『岩本はヤキモチを妬くと強引でイジワルになる』と阿部は言っていたな、と思い返した。
(…阿部ちゃん、ガンバレ☆)
目黒は心の中で無責任に応援する。
(ま、8割くらいは俺のせいだけどさ)
自覚はあるけど悪びれず、目黒は相変わらずマイペースだった。
明日の阿部の腰が無事でありますように、と一応祈って、彼は2人を追いかけた。
コメント
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🖤はほんとは何がしたいんだ??笑純粋に💚のことが好きなだけ…?💛をからかってるだけなのかな?
🖤は💚の事好きすぎですね。🖤のわるさが良いですね。💛の嫉妬も可愛い。最高のお話ありがとうございます。

誤ってコメント(スタンプ)を消してしまいました💦すみません。 にゅうひん⭐︎さんが書くお話が大好きです。言葉の紡ぎ方がとても繊細で素敵です。 続きを楽しみにしています。