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コメント
2件
まじで好きです…最高です
第7話:光り輝くパジャマパーティー
涼架side
元貴の部屋は、僕の家の整然としたリビングとは正反対だった。
床には楽譜や雑誌が散らかり、壁には好きなアーティストのポスター。そして何より、部屋全体が「誰かの生活」の匂いで満ちていた。
「よし!涼ちゃんの脱出成功記念、ジュースで乾杯ー!!」
元貴がコーラのペットボトルを勢いよく掲げる 。
僕と滉斗、そして後から合流した高氏は、元貴が貸してくれたバラバラのパジャマを着て、ベッドや座布団の上に円になって座っていた。
「ぷはぁー!いやぁ、あの時のお兄さんの顔、動画に撮っておきたかったぜ!『えっ、腹痛?』みたいな、あの戸惑った顔!」
高氏がコーラを飲み干してゲラゲラと笑う。
「高氏の演技、大根すぎて逆に面白かったよ。…涼ちゃん、顔色良くなったね」
元貴が僕の顔を覗き込んで、にこっと笑った。
「うん。…なんだか、あんなに怖かったお兄ちゃんから逃げるのが、あんなに簡単だとは思わなかった」
「簡単なんだよ。お前が『逃げる』って決めさえすればな」
滉斗は僕の隣で、元貴から借りたTシャツをいじりながら不愛想に言った。
「……ねぇ、みんな。僕、実はずっと言えなかったことがあるんだ」
ふとした沈黙の中、僕は膝を抱えながら呟いた。コーラの泡が弾ける音だけが響く。
「…将来のこと。お兄ちゃんは、自分と同じ国立の医学部に行けって言ってる。それが僕のためだって。僕も、それしかないんだって思ってた」
「…涼ちゃんは、本当は何がしたいの?」
元貴が、優しく問いかける。
「僕…。本当は、フルートを続けたい。中学の時にやめさせられちゃったけど……。音楽をやってる時だけ、僕はお兄ちゃんの弟じゃなくて、ただの僕になれる気がするんだ」
初めて口に出した「自分の願い」。
誰かに話せば、お兄ちゃんに否定される時みたいに笑われるんじゃないかと怖かった。
けれどーー。
「フルート!?かっけぇじゃん!涼架、似合いすぎだろ!」
高氏が身を乗り出して、僕の肩を叩いた。
「俺なんて将来の夢、『世界征服』とか言ったら親に本気で心配されたんだぞ!それに比べりゃ、フルートなんて最高に高尚な夢じゃないか!」
「高氏はただのバカだけど、涼ちゃんのフルートは聴いてみたいな」
元貴が目を輝かせる。
「僕、曲作るの好きでしょ?いつか涼ちゃんのフルートに合わせて、僕が歌うの。…ねえ、それ、最強にワクワクしない?」
「元貴…」
「いいんじゃねーの。…お前にしか出せない音、あるんだろ」
滉斗が、そっぽを向いたままボソッと言った。
「兄貴の引いたレールの上走って、兄貴のコピーになるより、下手くそでも自分の足で歩くほうがマシだ。…お前がフルート吹くなら、俺ギターでついてやってもいいし」
「えっ、滉斗、ギター弾けるの!?」
「…少しだけだよ。お前に教えてやるくらいならできる」
滉斗の不器用なエールに、視界がじんわりと滲む。家では、「将来」とは「義務」だった。
でも、この散らかった部屋で、みんなと話す「将来」は、キラキラした宝石箱みたいに見えた。
「僕……フルート、もう一度やりたい。お兄ちゃんに何言われても、今度は隠さずに、やりたいって言ってみる」
「その意気だ!もしお兄さんが何か言ってきたら、俺たち三人がフルートケース持って、お兄さんの周りで演奏してやるからな!」
「それ、ただの嫌がらせじゃん、高氏!」
みんなで笑い転げる。
窓の外は深い夜。お兄ちゃんがどこかで怒っているかもしれないけど、今はそんなことより、明日みんなで何を話そうか、ということの方がずっと大切に思えた。
「…ねえ、みんな。大好きだよ」
「わっ、涼ちゃん告白!?僕も大好き!」
「俺も!むしろ俺が一番愛してるぜ!」
「…うるせーよお前ら。…俺も、まあ、嫌いじゃねーよ」
照れ隠しに布団を被る滉斗の横で、僕は初めて、自分の未来という地図に、小さな、けれど確かな一歩を書き込んだ。
次回予告
[猫が綴る、宛先不明の独白]
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