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「言われている間に、車庫入れが終わっちゃったんですけど」
運転が下手な真似をして車庫入れを頼んだのに、スムーズにやってのけた恋人。これはちょっとした罰を与えようと、橋本は策をこっそり練った。
自分を見ている宮本の視線を意識しながら、わざとらしく絡めて口を開く。
「俺の考えを読めない、おまえの鈍感なところが愛しくて堪らない」
「あ、はい……」
後ろにいるふたりが、いつの間にか腕を組んでいるのを、さっきチラッと振り返ったときに見てしまった。榊たちに見せつけてやろうと、愛の告白めいたことを言ってみる。
「周りの空気を読めないおの代わりに、俺がセンサーになって読んでやってるんだぞ」
「すみません……」
恐縮しまくりの宮本の躰に、軽く体当たりしてやる。
いつの間にか濃厚なスキンシップをしている榊たちに負けたくないと思って、普段は言わないことを口走ったのに、宮本のテンションがどんどん下がってしまった。
(くそっ! さっきから、雅輝と感情がすれ違ってばかりだ。アイツが喜びそうなことを言ってやってるのに、どういうことだよ!?)
「そのまま、さっきの国道に出てくれ。当然だけど、両側の安全確認を怠ったら減点だぞー」
教官らしいことを言った橋本に、宮本はハンドルを切りながら小さく頷く。言われたことをきちんと守って、滑らかな運転で国道に出た。
「陽さん、このまま三笠山に向かいますよ?」
「ああ。そうしてくれ」
「宮本さん、ちょっといいですか?」
日曜の午後の国道は当然、平日よりも車の流れが激しい。中には変な運転をする車もいるのに、そんなことを感じさせない運転を宮本はしていた。
「なんでしょうか?」
後部座席からなされた榊の質問を聞いた途端に、仏頂面に近い顔だった宮本が柔和な笑みに変化させて返事をする。その様子を黙ったまま、橋本は見つめた。
「橋本さんが演じていた、優男教官と俺様教官。どっちがいいかなって」
榊としては、宮本の答えはわかっていたが、さりげなく訊ねてみた。
すると助手席にいた橋本が、笑いをかみ殺した顔で振り返り、こっそりピースサインを作って、人差し指と中指をふにふに動かす。
目の前でなされたそれの意味がわからなくて、榊が首を傾げると、橋本は運転席を指さしてから、頭の上でツノを作る仕草をした。
それを見てようやく納得した榊たちの前で、宮本がいきなり橋本の頭をグーで小突く。
「痛っ」
「陽さん、いい加減にしてくださいよ。キョウスケさんたちがいて、はしゃぎたくなる気持ちはわかりますけど、安全運転している俺に、これ以上の無茶ぶりはしないでくださいね!」
「宮本さん、あまり叱らないでください。俺たちが後ろでこっそりイチャイチャしていたせいで、橋本さんを煽っちゃった感じなんです。なっ、和臣?」
「そ、そうなんです! 橋本さんが僕たちを見ていたのを知っていたのに、堂々と腕を組んじゃったりしていたので……」
後部座席にいるふたりの言葉に、そうなのかという視線を宮本が橋本に飛ばした。
「べっ別に、恭介たちのイチャラブに負けないように競うとか、全然考えてなかったって。ただ、この場が盛り上がったらいいなと思ってさ」
榊たちの手前、自分の心情を認めたくなかったのもあり、しれっと嘘をついた。それを見破っているはずがないのに、またしても宮本がグーパンチをしてくる。
「痛いー! 雅輝こそ、いつもより突っかかってきてるじゃないか」
「当たり前です。他の人にこれ以上、かわいいところを見せないでください」
ぴしゃりと言い放つなり、思いっきり顔を背けられた。
「橋本さん、かわいい~!」
「うんうん、確かにかわいい!」
榊たちまで宮本の言葉に乗っかり、ギャーギャー騒ぐせいで、橋本は身の置き場がなくなってしまった。
結局三笠山に着くまで、お口チャックを決め込むことにしたのである。