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「それに、そもそも、この視察は完全に俺たちの主観で報告するんだ。思い違いがあっても責められたりしない」
「そう……ですか?」
「うん。それに、俺たちは相棒だろ? まずはお互いを信頼しよう」
前を向いていても、横から乾さんの熱い視線を感じる。が、明らかに異性に向ける好意のそれとは違う。
「極上イケメンが相棒だなんて!」
俺は、ちょっとふざけて声色を変えて言った。
「なーんて思ったり――」
「――すごい! どうしてわかったんですか!?」
半分冗談、半分本気で言ったのだが、がっつり当たりだったようだ。
自分で言っておきながら、当たっていたことが恥ずかしい。
ゴホンッとわざとらしく咳払いをする。
『目的地周辺に到着いたしました』
タイミングよく、ナビが言った。
目の前に看板は見えたが、店舗が見えない。
「あ、店舗は裏側みたいですね」
乾さんが指をさし、俺は街路樹に隠れていた『P』の矢印を見つけた。
駐車し、店舗に入る。
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか」
すぐさま対応したのは、五十代と思しき男性。ネームプレートには『店長 畠山』とある。
案内された窓際の席に座り、渡されたメニューを開く。
さすが店長とあって、期間限定のおすすめメニューの説明も完璧だ。すすめられたのはもちろん、メロンフェアの目玉であるメロンパフェ。
乾さんはさっきの俺を見つめる視線より熱く、パフェに見入っている。
実に複雑だ。
パフェに負ける極上イケメンなんて、ただのイケメンではないか。
ともあれ、俺と乾さんはメニューを決め、呼出しボタンを押した。と、ほぼ同時に、先ほどの店長がやって来てオーダーを取る。
店内には店長の他に三名のスタッフがいるが、あまりテキパキと動いている様子はない。
客の入りがまばらだからか。
三人とも学生のようだから、不慣れなのか。
「では、少々お待ちくださいませ」
店長はにこやかに去って行った。
「そんなに雰囲気が悪そうじゃないけど、なんで人の出入りが激しいんだろうな?」
俺は小声で言った。
「今の店長さんは、閉店した他店でも店長をしていたんですが、とにかくお店に立つのが好きだそうです。なので、事務仕事や裏方は副店長さんが――」
言いかけて、乾さんが俺の背後をじっと見た。
俺も、振り返って見る。
客が入店してきて、またも店長が対応している。
乾さんがキョロッと辺りを見て、俺に視線を戻した。
ピーンポーンとコールが入る。
突っ立っていたスタッフが対応した。
その間に、別のスタッフがキッチンから料理を運んできた。
さらにコールが入り、三人目のスタッフが対応しようとして、足を止めた。
店長が既にテーブルについている。
「――店長か副店長に問題があるのだとしたら、副店の方じゃないかと思ったんです。店長に関しては、前の店舗のフロアを一人で回していたような人ですし。副店は今の店長の異動と同時に昇格したんですが、学生アルバイト時代からなので、この店舗は長いんです」
「長いだけあって、自分の店的な感覚があると?」
「まぁ、はい。でも――」
コールが入り、見ると、また店長が対応している。
いくら店に立つのが好きでも、店長ばかり動き過ぎではないだろうか。
見る限り他のスタッフは料理を運ぶ以外していない。
一組の客が立ち上がった。
女性の手にバッグがあるから、帰るのだろう。
突っ立っていた女性スタッフがレジへと向かうが、途中で足を止めた。
見れば、既に店長がレジに立っている。
その間に、別の男性スタッフがテーブルを片付けている。
結局、女性スタッフは手持ち無沙汰になり、キッチンに行ってしまった。
「――原因は店長かもしれません」
「え?」
「すみません。私、お手洗いに行ってくるので、店長の動きを見ていてもらえませんか?」
言いながら、乾さんが立ち上がる。
「何となくでいいので」
「うん、わかった」
トイレはキッチンの出入り口の奥だ。
キッチンの前では男性スタッフが二人、フロアを見ながら話していた。
乾さんは二人のそばではなく、遠回りして奥の通路を行った。
俺は彼女に言われた通り、店長を見ていた。
彼はキッチン前で立ち話している二人をじっと見つめている。が、お客様の様子を窺うのも疎かにしない。
しばらくして、店長が二人に近づき、いくつか言葉を交わして、コールに応じた。
スタッフが行こうとしたのを止めていたように見える。
スタッフはムッとした表情で店長を睨んでから、キッチンに入って行った。
すぐに、ワゴンを押した男性スタッフが出てくる。と同時に、乾さんも席に戻って来た。
俺たちの料理が運ばれてきて、俺と乾さんは食事を始めた。
俺はヒレステーキセットとアイスコーヒーで、乾さんはオムライスとアイスティー。
経費だから高いものを頼めばいいと言ったのだけれど、オムライスが好きだからと乾さんは笑った。
時刻はすっかり夕食時で、店内も徐々に混み合い、俺たちは純粋に食事を楽しんだ。
一度目同様に、乾さんはとても美味しそうにオムライスを頬張った。
時折、スタッフの様子を見ていたが、やはり店長は走り回っていて、他のスタッフは片付けや配膳ばかりしていた。