コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「なんでなん……。」
街を行く人達は涙を流す私を見て驚いたり、不思議そうな顔をして通り過ぎていく…
中には嘲笑する人もいる
ミナミの街で女が涙流してるのなんて日常茶飯事でそんな珍しい事やないやろ…
私の顔をジロジロと見ながら通り過ぎていく人達、人の不幸を餌にされているようで強い嫌悪感を抱いた
正直なところもうこの大阪には帰ってきたくなかった…
でも約束を破ってしまった あの萬田くんにもう一度会いたい。
その心残りを晴らす事が出来るかもしれん…
そう決意して5年前、大阪に帰ってきた
だけど…やっぱりそれが間違いやったんかな…
また20年前のあの時と同じ悲しみが押し寄せる…
20年前…
萬田くんとあの約束をしたあの日
私が家に帰ると見知らぬ男たちが訪ねてきていた
何故か母はその男たちに必死に頭を下げていた。
後から知った事、母を囲っていた父親が経営している会社が多額の負債を抱えており、切羽詰まった父親はあちこちに借金を残したまま計画倒産。
多額の負債を残したまま残っていた会社のお金を持ち逃げした
あの日、家に訪れていた男たちは…
恐らく父親の会社の人間、債権者、それか金融屋だったのだろう。
母と私はその日のうちに家を追い出され、 母は他に作っていた男の家にさっそく転がり込んだ。
さらに私を疎ましく思ったのかその後、私は施設に預けられた。
その後、母はその男にも捨てられたらしく自ら命を絶ち、母を囲っていた父親は結局、自己破産したらしい。その後の事は何も知らないし、一度も会っていない。
それから私はずっと一人で生きてきた。
“お前は全然あかんことなんかない。”
ずるい大人ばかりに囲まれて生きてきて、あの時の萬田くんの言葉だけはほんまに信じられる、そう思って…
それを小さな希望にして生きてきた。
あの時、約束を守られへんかった自分を許してもらいたい…
もしかしたら、萬田くんにまた会えるかもしれん…そんな淡い期待を抱いて最悪な思い出しかない大阪に舞い戻ったのに…
「勝手に期待した私がアホやったんか…。」
私はとことんこの街に求められてないんかもな…はは…。
残りのお金を支払ったらこの街を出よう…
「ふふん…ふん…ふ〜ん♪ん……? あ!あんたぁ!さっき事務所来てたクラブの姉ちゃんやないか!」
は……?
「あ……。あんたは萬田く… “さん”とこの舎弟……。」
もう…
まためんどくさい奴に捕まってしもうた…
「なんやぁ、そないにしょぼくれた顔してぇ!あ!兄貴にきっっっつい事言われたんやろぉ?ワシなんかそんなん毎日のことやからもう慣れてしもうたわ!!!ははは!!!」
凄いポジティブマインド…
めちゃくちゃうざいけど…
なんか悪い人ではなさそうな気が…する…。
「あんた毎日あんな鬼みたいな人の側におって、ようそんな明るくおれるなぁ…」
「ええ?そうやなぁ…こないに明るくおれる理由知りたいか?」
「え…?い、いや…そんなん別に…」
「あら?知りたそうな顔してるな?よっしゃ!ほな、ワシに一杯付き合ってもらおか!」
「はぁ!?なんで私がそんなんに付き合わなあかんの…!」
「ワシ、ええ店知ってんねやー!ほな!行くでぇー!」
ぐい…!
「ちょちょちょ…!待ってよ!ほんまに調子ええなぁあんた」
「あんたみたいなべっぴんさんがそないにしょぼくれた顔してたらワシほっとかれへんのや♪」
「ふふっ。 もーうしゃあない!一杯だけやで! あと同伴代もしっかりいただくからな。」
「えぇ?そらきついわぁー!
あんたも抜け目のない女やのぅ
しゃあない!今日は特別やぁ!」
やっぱり悪い人ではないみたい。笑
「ほら!ここや!」
ガラガラガラっ!
「毎度ー!おっちゃーん!繁盛しとるかー!」
「いらっしゃーい!おっ!竜一やないかぁー
ぼちぼちいうとこやなぁ!今日はえらいべっぴんさん連れてるやないかぁ!」
「そやろー!今日はええ日やー!美人連れてワシ機嫌ええねん♪おっちゃん、特上うな重2つと、生2つな! 」
「はいよー!どこでも好きなとこ座ってやぁー」
「はいよー!よいしょっと!ここのうなぎはほんっっまにうまいんやー!!食べたらびっくりすんでー♪」
「あ、ありがとう…でもこないに高そうなお店ほんまにええの?」
「あったりまえやがなぁ!これでも金貸しの端くれやでー♪それなりに遊べる小銭くらい持っとるがなぁ」
「へぇ~…。そないに金回りええもんなんやね金貸しいうんわ」
「金は天下の周りもんや!賢う稼がんとな!金貸しが貧乏やなんて世間に示しがつかんやろ。あ、そうや!ちゃんと自己紹介してなかったな!わしは辰巳竜一や、よろしゅう!」
「私は店では明香いう名前でやってる。ほんまの名前は桜子。好きに呼んでくれてええよ。竜一さんな、しっかり覚えとくわ!」
「桜子ちゃん!なんやかわええ名前やなぁ!ええ名前や!なんやあんたとは長い付き合いになりそうな気がすんなぁ。」
「ちょっとやめてよ!金融屋と長い付き合いなんかごめんやで。」
「はは!そりゃそうや!そういえば、さっき事務所で兄貴の事、前から知ってるような感じで話してたけど、桜子ちゃん兄貴と知り合いなんか?」
「え?あぁ………。実は小学生の時の同級生なんよ……まさかこんな形で再会すると思ってなくて、感情が抑えられへんくて…声荒げてもて、さっきはほんまにごめんなさい。」
「いやいや!そないな事、全然気にせんでええ!!兄貴きっついからなぁ…そりゃあ同級生がミナミの鬼言われるようになってたら誰かてびっくりするわ!ははは!それより!小学生の時の兄貴ってどんな子供やったんや!?」
「う〜ん…。萬田くんは…小学生の時から周りと群れんと一匹狼で賢くて強い子やったわ…。なんか他の子と違うと思ってた。私は途中で引っ越したからそれからの事は全く知らんねんけど…」
「へぇーー!やっぱりさすが兄貴は昔から兄貴やなぁー!」
「竜一さん萬田くんの事ほんまに慕ってるんやね。そもそも竜一さんなんで金貸しになろう思ったん?」
「はい!先に生2つお待ちどおさまですー!」
「おっちゃんありがとうー!とりあえず先に乾杯しよか!」
「そうやね!」
「乾杯!」
カンッ!
ぐびっぐびっ……
「かぁー…!!うまい!やっぱり美人と一緒に飲む酒は格別やな!」
「ふふっ。竜一さんってほんまに調子ええ事ばっかりいうよな…笑」
「ふざけた奴に見えるかもしれんけどな、ワシはいつでも真剣!ほんまに思ったことしか言わへん!」
「またぁ…笑。」
「そや、ワシが金貸しになろうと思った理由やったな!それはな…兄貴に惚れたからや。」
「は………?」
「あ!そういう意味の惚れたと違うで!そっちの気やあらへん!ワシ…兄貴に憧れとるんや。
何もかも失っても兄貴みたいに這い上がって、ミナミの街を肩で風きって歩けるくらい金貸しの道極めたい。こんないい加減な俺にそない思わせてくれた人なんや…ふざけた奴に見えるかもしれんけど、この気持ちだけは本気やて胸はって言える。」
「そっか…そんなけ自分を本気にさせてくれる人に出会えて竜一さんは幸せ者やな…。」
「そや!兄貴はどうしようもないチンピラやったワシを拾ってくれた恩人なんや。鬼みたいに見えるかもしれんけど、自分も地獄見てきた分、人の弱さや痛みもほんまは分かっとる人なんや…。」
「地獄見てきた?」
「えぇ?なんや桜子ちゃん!兄貴と同級生やったのに何も知らんのかいな?」
「小学生の時、途中で大阪から離れたし、萬田くんもそない詳しい話色々してくれへんかったから。借金があるって事は知ってたけど…。 」
「確かに兄貴は自分の事ベラベラ話すような人と違うからなぁ…ワシも兄貴がなんで金貸しになったんか直接教えてもろた事ないしなぁ。まぁワシが知ってる話は…」
「はい!特上うな重2つ!お待ちどおさまぁ!」
「うおぉぉ!これやこれやぁ!そないな話は置いといて、出来たて食べよか! うっほー!美味そうやぁ。」
「そ、そうやね。せっかくやし出来たていただこう!」
「いただきますっ!!!」
はむっっ…
「んーーー!!!最高やぁ…おっちゃん!!あんたやっぱり天才や!ここのうなぎは日本一やぁ!!」
「はは!!そないに褒めてもお代は安ぅならんでー。」
「あったりまえやがなぁ!!逆にこのうなぎにやったら、100万でも200万でも払うたるぅ!」
「アホかぁ、ほんまに竜一は調子ええなぁ!」
ほんまに…こんなに美味しいうな重を食べたのは初めてやし、本来ならもっと味わって感激するはずやのに…
さっきの話の続きが気になりすぎて、正直なところ早く食べ終わって話の続きを聞きたい気持ちのほうが今の私は勝っていた…
ごめん…おっちゃん。
でもうなぎはめちゃくちゃ美味しい。
「はぁー!美味かったぁ!お腹いっぱいやぁ…ごちそうさまでした!」
「私も…ごちそうさまでした。こないに美味しいうなぎ初めて食べたわ!ええ店連れてきてくれてありがとうね、竜一さん。」
「かまへんかまへーん!感謝せなあかんのは、ワシやのぅておっちゃんの腕の良さや!ははは!」
「ふふっ!ほんまやね♪あ…竜一さん、さっきの話の続き…。」
「ん…?さっきの話……あぁ!兄貴の話なぁ!」
「うん!そうそう!なんで萬田くんが金貸しになったんか…」
「はぁ…。この話は、兄貴と昔からの付き合いでお世話になってる人から聞いた話なんやけどなぁ…
兄貴がまだ小学生の時、父親があくどい輩に騙されて借金作ってしもて。それに愛想つかせた母親は男作って兄貴と妹おいて家出ていったんやて…その後、父親は家に火つけて自殺して…その火事に巻き込まれて兄貴の妹まで亡くなってしもたそうや…。」
「そんな…そ、そんな話…全然知らんかった……。それやったら尚の事、全てめちゃくちゃにされた金貸しなんかになんで…」
「そやなぁ… この話にはまだ続きがあってな。 その後、追い込みかけてきた金融屋に全て奪われた兄貴はなんて言うたと思う?」
「そ…そりゃあ萬田くんの事やから…あの剣幕で”帰らんかい!”とか……?」
「 “親父が借りた金は何年かかっても俺が必ず返す。そやから、俺に金融道教えてくれ”
追い込みかけてきた金融屋に兄貴はそない言うたそうや…その言葉に惚れてその人は兄貴を弟子にしたんや。要はその時追い込みかけてきた金融屋が兄貴の金融の先生なんや。」
…………!
「自分から全て奪った銭から目逸らさんと、一生向き合おうて生きていく。兄貴はその時に覚悟決めたんや…。」
「銭の鬼への道選んだんやね…
やっぱり……萬田くん強いわ…
私なんかあの頃から何にも変われてない…はは。」
「あー…またそないしょぼくれた顔されたらワシ困るやないかぁ…。
でもな!兄貴は自分が賢うて特別やなんて思ってないんやで。
“事情言うたらどんな人間かて事情はある。
事情の塊が人間っちゅうもんや。
個々の人間が事情を数字に変えてやっと五分に行き来する…それが銭っちゅうもんや”
こない兄貴が言うてたんや…
この世の中、地獄みたいな人間の事情は探せばそりゃ嫌というほどある…。けどなぁその分そっから這い上がる方法も同等にある…それが銭で解決できるんやったらその方法逃げんと探したらええ、兄貴は人間の底力…信じてるんやなぁってワシその言葉聞いて思ったんや…」
「竜一さん……。」
「そやからそんな兄貴の元で一緒に働けてワシ幸せなんや!だから毎日こない明るぅおれんねん。」
「幸せになるのも不幸になるのも…
結局は自分次第言う事やね…。
竜一さん、そんな貴重な話聞かせてくれてほんまにありがとう…。なんか…元気出てきたわ。」
「そない改まって言われたら照れるがなぁ!ちょっとはワシの事見直したか?」
「ほんっっっっまにちょっっっっっとだけな!」
「なんやそれぇー!そのうちびっくりするほどええ男になったるさかい、後から後悔しても知らんでぇー!
ま!ワシも兄貴が小学生の時どんな子やったか少しだけでも聞けて嬉しかったわ!ありがとうな、桜子ちゃん!」
「ううん!竜一さんのおかけでなんや元気出たわ!こちらこそこない美味しいうなぎまでごちそうになって話も聞かせてもらって、ほんまにありがとうね。」
「よぉーし!そしたらこの後ホテルにでも…」
「い か へ ん よ !」
「ですよね~!!!」
「調子乗ってたらバチ当たるで。」
「はい…すんません…。
おっちゃーーーん!お会計頼んますぅ〜!!」
ふふ…。ほんまにおもろい舎弟もったなぁ…萬田くん。
きっと…ええ人達に囲まれてるんやろうな…。