数分前
ピロンッと小さく音が鳴る。
外の皆の声で聞こえないと思っていたが案外聞こえるものだ。
ちらりと目を向けると公式LINEからの通知。
少しだけ、残念に俯くとタイミングバッチリにまたもや通知音が鳴った。
その画面を見ると、見慣れたアイコンが目に入る。
すぐさま俺はその所をタップした。
『新発売のかんかってきて。』
『り』
変換をするのを忘れたのか…。
そう思うだけで胸が締め付けられる。
「…変なとこで、馬鹿な奴…。」
はぁ…好きだなぁ。
恋人に…なれて…よかったかも。
いや、なれてよかったんだ。
あー…もう、俺何考えてんだろ。顔、あっつ。
そして俺は軽い足取りで、早歩きをしながら近くのスーパーに向かうのだった。
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『いらっしゃいまっせー。今日は…』
店内の冷えた空気を浴び、スピーカーから音が流れる。
広いスーパーへと来たので、新発売コーナーも設けられている。
新発売の商品がまとめられているとやはり、見やすいものでどこに何があるかが瞬時に分かった。
「新発売か…。どれだろう…。」
缶詰のコーナーには三つ置いてありどれも違う種類ものだった。
俺はそれをゆっくりと眺めることにした。
──────────
「ん?」
一つはサバ缶。
こんなものあの人は絶対に食べないであろう。
もう一つは蟹缶。
あー、多分これだろう。
そう思いその蟹缶に手をかけた。
その時、俺は目を見開いた。
「もしかして、これ?」
──────────
『ピンク色のやつ?』
『うん。』
質問にすぐに答えてくれた。
よほど楽しみにしているのだろう。
だが、今はそれよりもこっちだ。
俺は何度もそれを見た。
だって、嘘かと思ったから。
「こ、これ…。」
俺は多分今、口角が上がって気味悪がられているだろう。
けど、止まんないんだもん。
レトさんがこれを選んだ意味を考えると
ヤバい。にやけの歯止めがきかない。
これであってるよな。
蟹缶もピンク色っぽいけど赤だし。これしか、ピンクないしさ。
俺は蟹缶を持っていた手をくるりと回した。
カコンッと缶と缶がぶつかり、軽い音が鳴る。
その缶を見るだけで微笑んでしまう。
ピンク色で
黒猫のマークで
ちょこんとしたデフォルメの蟹のキャラクターがその隣に小さくあって。
猫缶なんだけど何処か俺達に似ている。
「あぁー………。」
俺は会計を済まし、小さな缶を袋に詰めた。
あぁ、余計に会いたくなってしまった。
ふわふわした考えを頭に浮かべ、小走りで愛する人の元へと向かった。
「かんちがい?」 end
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