「……うるさい。泣いてないし」
「嘘つけ。鼻すする音、ここまで丸聞こえなんだよ」
私はカッとなって、壁を拳で叩き返した。
「プライバシーって言葉、知らないの!? 芸人なら、もう少しデリカシー持ったらどう?」
「デリカシーあったら芸人なんてやってないって。それより、その千円、明日までに使えよ。使わなかったら呪うからな」
あいつの適当すぎる返しに、なんだか毒気を抜かれてしまった。
「……明日、あんたライブあるんでしょ。検索したんだから」
「え、怖っ。ストーカー? 俺のこと好きなの?」
「バカ言わないで。返しに行くだけ。……チケット、余ってるなら行くから」
壁の向こうが一瞬、しん、と静まり返った。






