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自分から聞いておいて、それ以上話さないで、と叫びそうになった。
本当に自分から話をふったくせに、聞くも耐えない、考えたくもない事が頭をよぎる。ダンスを踊れば、そう言った考えが頭から消えていくだろうか。いや、一度考えてしまったら、何度だって思い出してしまうだろう。
(洗脳系の魔法は、脳にダメージを与える……)
治癒魔法ですら、毒となるのに、洗脳魔法は人間の大事な部分にダメージを与えてしまう。やはり、魔法がある世界において、魔法というのは悪にも善にもなるもの……使い方を誤れば、人を殺すことができる兵器。
リースも、魔法は兵器になり得るし、何十人もの歩行兵を一人の魔道士が全滅させることも出来るっていっていたくらいだから、相当――
魔法の危険性についてはよく理解していたはずなのに、改めて本当に改めて考えてみると、魔法を簡単に使ってしまっていいのだろうかと不安に駆られる。しかし、魔法に頼る生活に慣れてしまったせいで、それが無くてはならないもの、インターネットみたいな感じになっているのだ。今更取り除くことも、危険だから使わないで下さいとも言えない。
「じゃあ、リースたちは……その」
「長い間洗脳にかかってたら不味いかもな。そもそも、記憶が世界全体で書き換えられているからそこまでダメージはないかも知れないが……いや、イレギュラーは考えられるからな。世界中の奴らが廃人になるとか」
「……ッ」
ガタッ、と椅子が倒れた。想像したら恐ろしすぎて、ガタガタと身体が震える。それを見て、アルベドは心配そうにしつつも少し首を傾げ、その首に手を当てる。
「お前は繊細だな、ステラ」
「そんなこと言ってる場合!?私が、こうやってちんたらしている間に、リースの身体が悪くなっていったら……他の人だって!」
「まあまあ落ち着けよ。可能性の話だ。そんな、あの偽物が全て掌握していて、好きなときに好きなヤツの脳を破壊できるような話じゃねえだろうしな」
「……できたら?」
「禁忌の魔法を使っている時点で、それなりに体力と魔力は消耗しているはずだ。俺達に干渉できないのは、魔力不足だからじゃないのか?」
「じゃあ、今は魔力を蓄えているってこと?」
私の魂を引き替えに、禁忌の魔法を発動させたが、それでも足りなかったのか、彼女は自分の魔力を使ったってことだろうか。原理は分からないが、確かに私達に干渉してこないのは、魔力が減ってしまったから? うかつに手を出して、やられるくらいなら……と考えているのか、それともただたんに私達の存在に気づいていないのか。
(いや、でもアルベドがおかしいってことはエトワール・ヴィアラッテアなら気づくはず……だから、何かが違うってことくらいは、もう気づいているのかも)
本来であれば、アルベドも自分の手中に納めれているはずなのだ、とエトワール・ヴィアラッテアは考えるだろう。でも、アルベドは記憶を保持しているからそうもいかなくて。まあ、アルベドが上手くやっていれば、エトワール・ヴィアラッテアを騙すことはできるのかも知れないけれど。エトワール・ヴィアラッテアの性格から考えて、それはあまり期待できそうにないし。
「ま、んなこと今から考えても仕方ねえだろ」
「仕方ないって。もしそうだったとしたら、私は無駄な時間を過ごしたことに」
「本当に無駄か?」
「え?」
「焦っても仕方ねえだろ。それに、フィーバス卿とか、俺との時間は無駄だったって言いたいのかよ」
「ある、べど……」
「無駄か?」
と、アルベドは私に問いかけてきた。そうだ、ここで否定したら、今まで、この世界に戻ってきて積み上げてきたものが全て台無しになる。台無しというか、全てを否定することになる。アルベドの思いとか、フィーバス卿だって、こうやって時間をかけて家族になっていきつつあるんだし、時間をかけることが無意味なわけない。無駄な時間ではない。
気が動転して、また人を傷付けるところだった。何度やれば私は学習するのだろうか。そう思うくらいには、アルベドに救われている。教えられている。
もっと大人にならなきゃ、成長しなきゃ……少しのことで狼狽えない余裕を。
「ごめんアルベド。無駄じゃない。アンタの思いも、行動も…・ ここで積み上げてきた新しい人達との関係も、全部時間と努力あってのことだから……無駄じゃない」
「だろ?」
「うん。ほんと、アンタはしっかりしてる。その余裕が欲しいくらい」
「俺だって余裕はねえよ」
なんて、アルベドは肩をすくめた。どう見たって余裕たっぷりじゃないかと私は思うのに、彼の満月の瞳の奥を見れば、少し不安そうにしている彼を見てしまうので、もしかしたら同じなんじゃないかと思った。
アルベドだって、色んなこと悩んでいるし、抱えているし……余裕ぶっているのは、私を落ち着かせるためだろう。そして、自分が余裕であると自己暗示をかけることで、対処している。その領域まで私だって行けたらいいのに。
「そうだね……まずは、皇宮でのパーティー!そこで、しっかりしなくちゃ。皆くるだろうし」
リースもきっと、参加する。エトワール・ヴィアラッテアと一緒に――
「いい、ステラはそれでいいんだよ」
「何よ改まっちゃって」
「別に改まってねえし。ステラは、そう言うところがいいよなあ、っていっただけだろ。あ」
「あって、何」
「いや、忘れてくれ。はずい」
「はあ?」
アルベドは耳を真っ赤にして顔を逸らした。あ、照れてる、と瞬時に分かったけれど、何に対して照れているのか、イマイチ分からなかったので、私は突っ込もうとした。すると、アルベドは嫌だと避ける。
たまに分からない。自分に向けられる数多の感情が。それらを正しく理解しくみ取ることが私にはできないなと思った。だから、人を傷付けてきたんだろうけれど、それにしても、皆わかりにくいんだもん。もっと素直になってくれれば、と思うけど、私も素直じゃないし、気づくのに何年も時間を要してしまったからお互い様なのだろう。とくに、リースに関しては。
「まあ、アンタが言ってくれてる言葉、全部励ましてるってのは分かったから、ありがとう。アルベドがいてくれてよかった」
「ほんと、お前そう言うところだよな。人のことなんだと……」
「今は、婚約者でしょ?それ以上でもそれ以下でもない。何ていうの……ビジネスパートナー」
「ビジネスパートナー」
「あ、ごめん、悪い意味じゃなくて……ううん、言葉って難しいな」
「なんだそりゃ」
「まあ、兎に角、アルベドがいてくれるおかげで、頑張れそうって話。パーティーのこと怖いけど、やるしかないってのは分かったし。もう少し、ダンスの練習付合ってくれる?」
私がそう聞くと、アルベドは驚いたように目を丸くした。あれ? と首を傾げていれば、アルベドはフッと笑うと、私の肩を叩いた。
「弱音を吐かねえなら、続けてやるよ。やるんだろ?」
「なんか、それグランツみたい」
「はあ?なんで、第二王子様と一緒なんだよ。どこが」
「私、前にグランツに剣術教えて貰っていたときがあって、その時、今アルベドがいった見たいな事言われたから。途中で投げ出すのはなしだって話」
「……まあ、確かに彼奴ならいいそうではあるが」
「でしょ?だから、逃げ出さないよ。逃げ出したら、アルベドにも悪いもんね」
私はそういって一度背伸びした。その様子をアルベドは長めながら、まあいっか。と呟く。彼に手を差し出され、私はその手を取った。もう一度練習する。もしかしたら、ダンスでリースの視線を奪えるかも知れないから。
そんな下心もありながら、私はなれないダンスで足を痛めた。