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第八章 闇が還る月夜
第十四話 黎明の月
辺りがが少しずつ白み始めていた。
東の空へ淡い朝焼けが滲んでいく。
帝都を覆っていた咆哮も、もう聞こえない。
残っているのは、疲弊した騎士達の荒い呼吸と、戦いの痕跡だけだった。
崩れた石畳。
焦げた地面。
黒く焼けた城壁。
けれど帝都は、まだ立っている。
ハヤトは静かに周囲を見渡した。
騎士達は疲れ切っていた。
それでも、その視線は何度もジントへ向けられる。
恐れている者。
戸惑う者。
感謝している者。
様々だった。
当然だ。
今夜、彼らは見てしまった。
世界が恐れてきた黒髪黒眼の存在が、帝都を救う姿を。
ハヤトはゆっくり息を吐く。
これで終わりじゃない。
むしろ、ここから始まる。
教会。
帝国。
民衆。
月蝕の子。
真実が広がれば、世界は必ず揺れる。
その時、自分達はどう動くのか。
黄金の瞳へ静かな決意が宿る。
その隣で、ダイチはまだジントの肩を支えていた。
離さないように、確かめるように。
ジントはそんなダイチを見上げ、
少し困ったように笑う。
「もう、ちゃんと歩けるって」
「信用ならん」
即答だった。
シュンタが思わず吹き出す。
「過保護すぎやろ」
「うるさいわ!」
ダイチが即座に睨み返す。
そのやり取りへ、ジュウタロウが小さく目を細めた。
ほんの少しだけ空気が緩む。
すると、近くで待機していた騎士の一人が、恐る恐るハヤトへ近付いた。
「殿下」
若い騎士だった。
戸惑いの表情。
けれどその目には、先程までとは違う感情が宿っていた。
「……あの方は」
視線が、ジントへ向く。
迷い。
戸惑い。
そして。
「本当に……恐れるべき存在なのですか」
静かな問いだった。
その瞬間、周囲の空気がぴたりと止まる。
騎士達が固唾を呑んでハヤトを見る。
ジントも小さく目を伏せた。
すると、ハヤトは静かに空を見上げた。
雲の隙間から、最後の月光が薄く差し込んでいる。
長い沈黙。
やがて黄金の瞳が、真っ直ぐ騎士達を見渡した。
そして
「……俺にも、まだ分からない」
静かな声。
けれど続く言葉には、確かな意志があった。
「だが少なくとも」
「今夜、帝都を救ったのはジントだ」
その言葉に。
騎士達は誰も反論できなかった。
皆、見ていたから。
黒い闇が、静かに還っていく光景を。
その時、ふわりと朝風が吹き抜ける。
ジントの黒髪が、静かに揺れた。
そして夜の終わりを告げるように、遠くで朝の鐘が鳴り始めた。
◇
しばらくすると、城外は再び慌ただしさを取り戻していた。
負傷者を運ぶ兵士達。
崩れた城壁を確認する技術班。
各地の被害状況を報告し合う騎士達。
怒号と足音が、絶え間なく飛び交っている。
夜は終わった。
けれど帝都にはまだ、戦いの痕跡が色濃く残っていた。
その中心でハヤトは既に、騎士団長として動き始めていた。
「西地区の被害確認を急げ」
「結界班は休ませろ。無理をさせるな」
「教会側とも連絡を取れ」
次々と指示を飛ばしていく。
黄金の瞳には、もう迷いは無かった。
その姿を、ジントは少し離れた場所から静かに見つめる。
やっぱり、すごいな。
自然とそう思った。
すると
「……戻ろか」
シュンタが、ぽんと軽く肩を叩く。
赤い瞳は疲れ切っているのに、軽い笑みが浮かんでいる。
ダイチも小さく頷く。
ジュウタロウも静かに視線を向けた。
やがて、皇城へ戻るための馬車が到着する。
ジント達は静かに乗り込んだ。
馬車の中は、しばらく誰も口を開かなかった。
窓の外では、割れた石畳、崩れた建物、慌ただしく行き交う人々、
戦いの跡が朝日に照らされている。
けれどその表情には、確かに安堵もあった。
生き延びた。
帝都はまだ、残っている。
長く恐ろしい夜を越えた。
そんな空気が、街全体へ漂っていた。
ジントはぼんやり外を見つめる。
不思議だった。
昨日まで。
この帝都は、怖い場所だった。
自分を拒絶する場所だと思っていた。
なのに今は、胸の奥へ小さな温もりが残っている。
ふと隣から、小さく欠伸する音が聞こえた。
シュンタだった。
「……眠すぎる」
「オレもう限界や……」
ぐったり座席へ沈み込む。
ダイチが思わず笑った。
「昨日からずっと動いとるもんな」
「そらそうやろ……」
シュンタが半目で睨み返す。
「腹も減ったし、今すぐご馳走食いたいわ……」
「飯食う元気はあるんやな」
そのやり取りへ。
ジュウタロウが小さく肩を震わせた。
静かな笑い。
それを見て、ジントは少しだけ目を丸くする。
ーーなんだろう。
まだ会って、数日も経っていない。
それなのに、ずっと前から一緒にいたみたいだった。
不思議な感覚だった。
やがて、馬車は皇城へ到着する。
大理石の大きな廊下を歩き。
見慣れ始めた客間の前へ辿り着く。
ジュウタロウが扉を開けた。
中には、朝の光が静かに差し込んでいる。
つい半日前までここで過ごしていたはずなのに、ひどく懐かしく感じた。
「……ただいま〜」
思わず、ダイチがそんな声を漏らす。
すると即座に
「ここ、お前の家ちゃうやろ」
シュンタが突っ込んだ。
「いやでも、なんか帰ってきた感あるやん!」
「図々しすぎやろ」
そのやり取りへ、ジュウタロウがとうとう吹き出した。
静かな笑い声が、客間へ響く。
その空気へ触れながら、ジントは小さく目を細める。
帰ってきた。
その言葉が、胸にじんわりと染みる。
そして気付けば、自然と頬が緩んでいた。
コメント
3件
ちょっと忙しくて読めてなかったので満月前夜からここまで一気見しました...!やっぱりすごい!面白いです!続きも楽しみにしてます!
うわああ第34話読み終えたよ…!!😭💕 「今夜、帝都を救ったのはジントだ」ってハヤトが言ったシーン、マジで震えた… それまで恐れられてたジントが、ようやく認められ始めた感じがしてじーんときたよ🥺✨ あと馬車の中でのみんなのちょっとしたやり取り、特にダイチの「ただいま〜」にシュンタが突っ込むとこ、ほっこりした〜!笑 仲間感が出てて好きだなあ…まだ出会って数日ってのにもう家族みたいな空気、尊すぎる…🌸
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