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#前世
shima7a
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第93話 「届かなかった夏」
2024年7月。
夏の福岡大会。
柳城高校は再び甲子園を目指していた。
全国制覇を果たした双子世代はもういない。
だが。
甲子園優勝校という看板は残っていた。
対戦相手はどこも全力で向かってくる。
主将の黒木翔太は、それを誰よりも感じていた。
試合前のシートノック。
相手校の選手たちの目が違う。
「柳城を倒したい」
そんな気持ちが伝わってくる。
福間監督は変わらない。
「一試合ずつです」
いつもの言葉。
だが。
その言葉が選手たちを落ち着かせた。
柳城は勝ち進む。
二回戦。
5対1。
三回戦。
7対2。
準々決勝。
3対0。
派手さはない。
しかし。
守りを中心にした柳城らしい野球だった。
そして迎えた福岡大会決勝。
相手は創成学園高校。
春の県大会王者だった。
試合は接戦になる。
七回終了。
2対2。
互いに譲らない。
八回裏。
二死二塁。
黒木がレフト前へ運ぶ。
勝ち越し。
3対2。
最後はエースが締めた。
ゲームセット。
柳城高校。
二年連続夏の甲子園出場。
スタンドから大歓声が響く。
だが。
黒木は優勝旗を受け取りながら思っていた。
「ここがゴールじゃない」
去年。
塁たちは日本一になった。
その背中を見てきた。
だからこそ。
甲子園へ行くだけでは満足できなかった。
8月。
夏の甲子園。
一回戦。
柳城高校 6対1 松山商工高校。
快勝。
二回戦。
柳城高校 4対3 北海道栄高校。
九回逆転勝ち。
三回戦。
柳城高校 5対2 白鷺学院高校。
ベスト8進出。
選手たちの勢いは増していた。
黒木は試合後のインタビューで言った。
「優勝を目指しています」
その言葉に迷いはなかった。
そして準々決勝。
相手は関東の強豪。
横浜東陵高校。
今大会優勝候補の一角だった。
試合開始。
序盤から投手戦。
三回。
柳城が先制。
1対0。
アルプススタンドが沸く。
しかし五回。
同点。
1対1。
さらに七回。
逆転を許す。
1対2。
それでも柳城は諦めない。
八回裏。
二死三塁。
黒木のタイムリー。
同点。
2対2。
再び試合は振り出しに戻る。
甲子園が沸く。
延長戦。
十回。
十一回。
どちらも譲らない。
選手たちは限界だった。
それでも走る。
それでも声を出す。
そして十二回表。
横浜東陵が勝ち越す。
2対3。
柳城最後の攻撃。
十二回裏。
一死一塁。
打席は黒木。
主将として。
チームを背負ってきた男。
スタンドの応援が響く。
初球。
ストライク。
二球目。
ファウル。
追い込まれる。
それでも黒木は下を向かない。
三球目。
渾身のスイング。
打球は高く舞い上がる。
センター方向。
全員が見上げる。
伸びる。
伸びる。
だが。
センターのグラブに収まった。
ゲームセット。
柳城高校 2対3 横浜東陵高校。
ベスト8敗退。
甲子園の土に膝をつく選手たち。
黒木は空を見上げていた。
涙が止まらない。
悔しかった。
全国制覇を目指していた。
届くと思っていた。
だが。
あと一歩届かなかった。
試合後。
ロッカールーム。
誰も声を出せない。
そこへ福間監督が入ってくる。
監督は静かに選手たちを見た。
そして言った。
「お疲れさまでした」
選手たちが顔を上げる。
「皆さんは」
「甲子園ベスト8のチームです」
「胸を張ってください」
黒木は涙を拭う。
監督は続けた。
「優勝した代と比べなくていい」
「皆さんは皆さんです」
「私は誇りに思います」
その言葉に。
選手たちの涙があふれた。
夕方。
甲子園を去るバスの中。
黒木は窓の外を見ていた。
甲子園球場が少しずつ遠ざかる。
全国制覇には届かなかった。
だが。
この夏は決して無駄ではなかった。
柳城高校。
黒木翔太世代。
彼らの夏は。
ベスト8という結果と共に幕を閉じた。
しかし。
その戦いは確かに次の世代へ受け継がれていく。
第91話 終
コメント
1件
読了したよ〜!!😭💕 黒木の「ここがゴールじゃない」って決意から始まって、最後の甲子園ベスト8敗退まで、もう腺決壊不可避だった…。福間監督の「優勝した代と比べなくていい」が本当に沁みるよね。誰かの背中を追いかけるのも、自分たちの道を歩くのも、どっちも尊いんだって思わせてくれるエピソードだった✨ この夏が次に繋がっていくのがもう楽しみすぎるよ!🔥