TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

感情飴玉

一覧ページ

「感情飴玉」のメインビジュアル

感情飴玉

1 - 感情飴玉 第1話

♥

150

2022年02月01日

シェアするシェアする
報告する


私が悪いってことくらい分かってる。


でも、こんなに働いても時給890円しかくれないうちの店もどーなの??


『人手が足りない。バイトできる子いない?』って聞いてくるくらいなら、うちらの時給を上げて、辞められない努力しろよって話!!


私の名前は栄田ミナミ、22歳。


その日、私はバイト先の飲食店の売上金をそっと抜いた。


はじめてのことじゃなかった。


もう何度かしてた。5000円くらいをちょくちょく。


でも、毎回バレなかったから、今回はちょっと……調子に乗ってかなり盗んだ。


その額、10万円…。


ま、大丈夫だよね…。うちの会計ザルだし。


『新しい浄水器買いました~』って言えば、10万円くらい余計に経費が計上されててもバレないと思うんだよね。


「お姉ちゃん、お金困ってるの?」


突然の声に、私はギクッとした。


お金──まさに10万円を店からパクった帰りのことだった。


警察??いやいやまさかね。


こんな秒でバレるわけないよね…?


恐る恐る振り返ってみると、そこに立っていたのは小学5年生くらいの男の子だった。


白いロングTシャツにデニムのサロペット姿。


青い帽子を目深にかぶっていて、目はほとんど見えていない。


「お金がないの?」


男の子ははっきりとそう言った。


「お金…な、なかったらなに??私、急いでるんだけど」


「お金あげようか」


???


何言ってんの?この子。


けれど、私が考えている間もなく、男の子はポケットからぐしゃぐしゃの1万円札を出し始めた。


いち、にい、さん…じゅ、10万円…!


「感情飴玉舐めてくれたら、10万円あげる」


男の子は感情のない声でそう言う。


かんじょうあめだま…ってなに?


男の子は今度はポケットから飴玉をひとつ取り出した。


「この飴玉舐めてくれたら10万円」


うわー、めんどくさあ。


子供の遊びかよ。


「ハイハイ。どーせその10万円、子供銀行のものなんでしょ」


「触ってみていいよ。本物だよ」


男の子はくしゃくしゃの万札を私によこした。


じっと見てみる。


たしかに…透かしも入っているし、本物の諭吉だ。


え、この10万円…本物なの??


「この10万円本当にくれるの?」


「感情飴玉舐めたらね」


「舐めるからちょーだい」


男の子から感情飴玉とかいう飴玉を受け取ると、私はしげしげと飴玉を眺めてみた。


何の変哲もない…飴に見える。ちょっと怖いけど。


ぺろ…。


舐めてみた。


グレープ味みたいな味がする。


ちょっと怖かったけど、なんてことのない飴だ。


けっこうおいしい。


「ねえ、この飴玉舐めたら感想でも言やあいいの?…え??」


次の瞬間、私は目が点になった。


さっきまで目の前にいた男の子がいなくなっていたのだ。


目の前には寒々とした道路。道は見通しもよく、隠れられそうなところもない。


私はあっけにとられてあたりを見回した。


「あ…え…??」


10万円は手の中にしっかりと握りこんでいる。


感情飴玉はいつの間にか口の中で溶けてなくなっていた。





変なの。こういうのを狐につままれた気分っていうのかな。


ま、10万円手に入っちゃったから、全然いいんだけど。


家に帰ると、私はすぐにスマホをいじりはじめた。


ショウタ君のSNSを見るのだ。


おっ。更新されてる!更新されてる!!


ショウタ君というのは、私が最近ドはまりしている地下アイドルだ。


ミーチューブ活動もしていて、毎週金曜日にはライブ配信も行っている。


私はショウタ君に認知されたくて投げ銭を投げまくって、絶賛金欠というワケ。


そう、今日お店からパクってきた10万円も、さっき変な男の子からもらった10万円ももちろんお布施に使うつもりだったんだ。


『ママほしーーーwwwwww』


ふいのショウタ君のつぶやきに、私は目を見開いた。


ママ??


ママって…。


ママ活のことだよね??


ママ活って、おばさんが若い子にお金を払ってデートしてもらう契約…のことだ。


もしかしてショウタ君。お金を払えば会ってくれるの…?


今、手元には20万円ある。これだけあれば一回くらいデートしてもらえる…???


妄想が始まると止まらなかった。


ショウタ君とリアルデート。2人だけの空間。


ソフトクリームを食べさせあったり…そんなことができたら夢みたいだ。


『ショウタ君、ママになるにはいくら必要ですか?』


気が付くと私はそんなメッセージを送っていた。


ショウタ君からのメッセージはびっくりするほど早かった。


『2時間デートで5万円くらいもらえたら嬉しいです!』


5万円…!!


余裕でデートできるじゃん!!


『あと、裏オプありますwwww』


裏オプ…??


裏オプってなんだろう。裏オプションの略…だよね??


お金を払えばデート以上のことができるってこと…?


それって何をしてくれるんだろう…。


『裏オプってなにがあるんですか?』


『それはメッセージ画面では言えないです。でも、お金はずんでくれたら、きっと楽しいことができると思いますよー』


『えー、気になります!!そしたらデートの日を楽しみにしてます!!』


うわ、うわ、うわ!!!私、ショウタ君と直接つながれちゃったよ!!!

どーしよーーーー!!!!


リアルデート確定だ~~~~~~!!!!!!


「あはははははははは!!!!!!!!!!!」


感情が高ぶったそのときだった。


私の口から信じられないボリュームの笑い声が飛び出たのは──。


loading

この作品はいかがでしたか?

150

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚