撮影開始
ノックと共にスタッフが顔を覗かせる。
「準備、できました。お二人ともお願いします」
その声に、ないこは呼吸を整えようと必死だった。
(……やるしかねぇ。無依としての俺を、演じきるんだ)
一方のまろは――いや、「威風」は、普段通りの余裕ある笑みを貼り付けていた。
だが心の奥では、さっきの動揺と苛立ちがまだくすぶっている。
照明が落ち、カメラが回る。
「無依」と「威風」――二人の名前が呼ばれる。
最初は台本通りの流れ。
互いに視線を交わし、距離を詰める。
観客に見せるような演技のはずが――。
(……っ、なんだ……これ)
ないこの体が、今までに感じたことのない熱に包まれていく。
ただの興味で始めたはずだった。
「俺なら割り切れる」「仕事としてやれる」と思っていた。
だが、まろの触れ方、視線、吐息。
どれもが違っていた。
(やばい……こんなの……演技じゃ……)
胸の奥から込み上げる感覚に抗おうと、必死に歯を食いしばる。
(……っ、ないこ……お前、ほんまに初めてやないんか?)
(いや、違う。こんな顔……俺、見たことない、)
まろの中に抑えきれない興奮が芽生える。
グループで見てきた「冷静で頼れるリーダー」ではなく、
快感に必死に抗おうとする――脆い、無防備なないこ。
それが逆に、まろの理性を削いでいく。
(あかん……興奮してもうてる……)
「……っ……」
(声を漏らさないよう唇を噛み、必死に耐える)
(なんでだよ……俺はただ、興味で……どんな世界か見てみたくて……)
(それだけだったのに……なんで、こんな……っ)
抗おうとすればするほど、体は逆に反応してしまう。
カメラの前なのに、抑えきれない震え。
その様子を見たまろの瞳は、次第に熱を帯びていく。
スタッフの目には「最高の演技」に見えている。
だが二人にとっては――演技と現実の境界が溶けていた。
(……ないこ……お前がそんな顔するんや、っ……このままやと、俺、もう止められへん)
(ちがう……これは、俺じゃない……無依としての演技だ……)
(……なのに……どうして……)
視線が絡む。
互いの中に隠しきれない本音が滲み出す。
コメント
2件
初💬失礼致しますෆ 密かに最初の頃から愛読してました...ෆ 高頻度な青桃供給が堪らなく幸せです😖🎶 今回のパロも青桃さんの繊細な表現が尊敬です...✨✨ これからも愛読します🥹🫶🏻️💓フォロ失です💘💘