テラーノベル
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「正直に言う」
視線を逸らさず、尊さんは続ける。
その瞳には、嘘偽りのない真っ直ぐな感情が宿っていた。
「お前のその気持ちは、決して自己満なんかじゃない。なんなら、その言葉だけで救われる」
ぐっと、喉の奥が熱くなる。
「俺はずっと、自分の過去も、今の問題も、全部自分で片をつけるもんだと思ってた。誰かに心配される立場になるのも、守られる側に回るのも、正直慣れてない」
少しだけ自嘲するように苦笑してから、でもこれ以上ないほど真剣なまま言う。
「だが……これでお前に弱さを隠すのは逆に失礼だろうな。そんな無下なことはできない」
握られた手に力がこもる。尊さんの指先が、俺の手の甲を優しく一度、なぞった。
「だからな、恋」
名前を呼ばれただけで、全身の細胞が震える。
「お前の気持ちは、ちゃんと俺が受け取る」
「……それでも、恋。お前は俺にとっても何よりも大切な人間だ。お前を危険から遠ざけるのも俺の役目だ」
尊さんは少し姿勢を正し、先ほどまでの柔らかさを残しつつも、冷静な口調で付け加えた。
「……薫が会社前で待ち伏せたのも、あいつがここで元々働いていたからだ。だが、当時アイツは度重なるトラブルで左遷され、最後は自主退職という形で追い出された身。もうこの場所に居場所なんてないんだ。だから、万が一次に会うことがあったとしても俺は大丈夫だ」
「なにより、お前一人で対処しようとはするな。すぐに警備員か、俺を呼べ」
淡々と語るその声は、かつてないほど冷静なのに
奥底には俺を絶対に守り抜くという鋼のような意志が感じられた。
「お前が誘ってくれた熱海旅行のおかげで、凝り固まってた気持ちもリフレッシュできた。だから、そんなに心配しないでくれ」
そうは言われても、この人のことが何よりも大切だから、嫌でも不安になるし、些細なことでも心配になる。
けれど、今の尊さんの言葉には、それを受け止めてくれる器の大きさが感じられた。
握られた手の温もりを確かめるように、俺もギュッと力を込めて言い返す。
「……分かりました。信じます。でも、約束してください。何かあったときは、一人で抱え込まずにちゃんと俺にも教えてください」
「俺だって尊さんの力になりたい……そのために、隣にいるんですから」
「ああ、分かってる」
尊さんは少しだけ、参ったなという風に苦笑した。
「恋は見た目に反して鋭いし、一度決めたら頑固だからな。隠したところで、すぐに見破られてしまいそうだ」
そんな軽口に含まれた深い信頼が、冷え込み始めた秋の空気の中で
俺の心をあたたかく、そして強く包み込んだ。
二人で交わしたその言葉と手の温もりは
ねむ
昨日までの旅の思い出よりもずっと力強く、明日への希望として身体中に満ちていく。
「ごちそうさまでした」
最後の一滴までお茶を飲み干し、手を合わせる。
空になったお膳を下げると、俺たちは軽くなった足取りとともに、席を立った。
店を出ると、秋の空はどこまでも高く、澄み渡っていた。
コメント
3件
もう〜なにこの2人大好きなんだけど(*^ω^*) ルイさん神な作品ありがとうございます!!
いいっすね