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「はいはい急ぐよ野郎ども~」
「エミ! お前もやれよ!」
「私は応援係よ。掘る道具も足りないでしょ」
エンシャさんとクナさんが穴を掘っていく。
交代交代で掘っていく。今回は前回のこともあったからスコップを持参して来ている。と言っても2本しかないので僕も応援しかできない。
「ジャネット達の応援しかできないんだよな」
エンシャさん達を見ながら村のウィンドウを見つめる。彼らは僕の手伝いができるけど、僕は彼らを手伝うことができない。悲しいな。
「ルーンは攻撃もできるんだな。降り注ぐ光の雨って感じか」
魔法主体の攻撃をするルーン。さっき見せてもらった魔法の支援効果の他にもできるみたいだ。まああれだけじゃ防衛者とは言えない。攻撃もできて当然か。
「……ルーンみたいにみんな前世があるんだよな」
僕が返せるものはその人に会わせること? でも、それってとても悲しいことなように感じる。
だって、彼らは忘れてしまっているんだ。それがどれほど彼らに傷をつけるか。僕だったら……。
「考えたくないな。失ったと思った人が目の前に現れて『誰ですか?』なんて言ってくるんだろ……」
「ん? どうしたんだムラタ?」
「あ」
思わず呟いているとルーザーさんが隣にやってくる。僕は俯いて口ごもる。
「なんだ? 俺に言えないことか?」
「あ、いや……」
僕は悲しいと思う。だけど、それがルーザーさんもそう思うとは限らない。……彼らの為になるなら。ジャンやジャネットに聞いてからの方がいいか。
「おいおい、内緒な話かよ。お前ってどれだけ秘密を持っている男なんだ? 謎な男だな~」
「あ、ははは。そうなんです。ちょっと秘密で」
今は誤魔化しておこう。肩に手を回す彼に誤魔化しておく。ジャンが嫌がったら意味がないもんな。
「ふう~終わった。飯だ飯だ!」
「やっと食べれるか」
穴を掘ってオークを埋めていった。エンシャさんとクナさんは一番頑張ってくれた。土だらけだ。まあ、僕もだけど。
「穴を掘る魔法とか覚えたらいいかもな」
魔法を覚えられたら穴を掘る魔法がいい。改めてそう思った。
「は~い。ここからは私の出番。焼きあがってるよ~」
『おお!』
エミさんは穴を掘らずに焚火を焚いていた。食材はもちろんオークだ。ん~、いい匂いだ。
「あ! エミ! お前つまみ食いしたな!」
「ふふん! 調理者の特権よ! 先に味わいました~」
エクスさんが呆れて声をあげるとエミさんは胸を張って得意げに話した。
でも、凄いなエミさんは。スープも作ってる。ただ焼くだけじゃない。白いパンも添えられていて中々外ではできないぞ。
『赤い夜に勝利しました。報酬が得られます』
「あ、終わったんだ。早速呼んであげよ」
赤い夜の報酬は【4500ラリ】と【ダガー】。鉄のナイフ? ルーザーさんのナイフより切れそうだな。
まあ、彼を見習って使ってみようかな。僕はすぐにジャネット達を呼び出す。オークはみんなで倒したんだから楽しまないとね。
「おかえり。いつもありがとね」
「あ、はい。すみませんでした」
「え? 何で謝ってるの?」
ジャネット達を迎えるとなぜか謝ってくる。首を傾げて聞くとみんなを一瞥して頭を下げる。
「後始末が出来なかったので。大変でしたよね」
「あ、ははは。大丈夫だよ。慣れてるもん。そりゃあ人が多ければ楽できるんだけどさ」
ジャネットがそう言って頭を更に下げていく。みんなエミさんを見つめると彼女は申し訳なさそうに説明していく。
「えっと、帰った時も声は聞こえてるのかな?」
「え? みなさんの声ですか? 聞こえないですよ」
「あ、そうなんだ」
僕は思わずエミさんの話を聞いていたのかな、と思って聞いてみたけど、違うみたいだ。みんながエミさんを攻めるように見つめたのは関係ないってことね。
「それじゃみんなでオーク肉を楽しむぞ! 持ち帰れそうな分は埋めずに確保してあるから存分に楽しむように!」
ルーザーさんがそう言って肉を頬張る。僕も続いて肉を食べてみるとほっぺが落ちた。
「な! なんだこれ! 初めての肉の味だ!」
僕は思わずほっぺを抑える。塩の味しかしないのに舌の奥から鼻へと登る香りがだしを思わせる香り。再度その香りが下ってくるとうまみを連れてくる。これは豚の香りと牛の香りか、凄い食材だ。
「ははは、あんな奴らを食べるなんて初めて考えた奴らはすげえよな。毒のあるキノコでも食べて調べる奴らがいたんだ。感謝しねえとな」
「確かに」
もぐもぐと口を動かしながらルーザーさんの話を聞く。納豆とかにも言えることだよな。糸を引いていたら口には入れないよ、普通は。僕は大好きだから感謝しかない。って納豆を思い出してしまった……はぁ~、白米に納豆が懐かしい。
オーク肉を頬張りながら皆を見回す。エンシャさんとクナさんも美味しそうに食べてる。エミとエクスは二人仲良く食べてるな。ん? ジャネット達……。
「あれ。食べないの?」
「マスター。私達は食べ物を必要としません」
「え? そうだったのか……」
ジャネット達が僕らを眺めるだけで突っ立っていた。僕は彼らに食べるところを見せるために呼び出してしまったわけか。
「なんだかごめんね」
「いえ……。皆さんが楽しそうでよかったです」
「ワンワン!」
僕が謝るとジャネットが笑ってみんなを眺める。ルドラも許してくれて尻尾をフリフリ。ルドラは思わず撫でてしまうな~。
あ、そうだ。ジャンに前世の話の件を聞いておこう。
「ジャン。ちょっと聞きたいことがあるんだ。みんなにも確認を取りたいことなんだけど、ジャンに聞いてからみんなにも話す予定」
「マスター? はい、なんでしょうか?」
ジャンに前世の記憶があるかを聞いて、それを相手にも伝えるかを聞く。すると彼は無言で俯く。
「……僕も姉さんもうっすらと前世の記憶を持っています。鮮明ではないそれは夢のようで。自分のこととは思えないんです。ルーザーはそんな僕を弟と迎えてくれるのでしょうか」
「……やっぱりそうなんだね」
「……はい」
ジャンは話してくれた。彼はルティなんだ。覚えていたけど、夢の中の話のようで言い出せなかった。恥ずかしそうにしていたのは前からなのかもな。
「ルーザーを兄とは思えません。僕の中ではマスターが兄で守るべきものになっています」
「……それってまさか」
「未練を持って死んだときに守りたかったものがあった。その守りたかったものがマスターになると思います……」
そうか……、ちょっと考えていたことではある。でも、考えたくなかったな。誰かの代わりに守られているなんて情けないから。でも、力がないのは自覚してる。今は素直に彼らに守られていたい。
「ありがとうジャン。話してくれて」
「いえ……」
ジャンにお礼をすると彼は力なく頷いてくれる。少し申し訳なく思っているんだろう。彼らの僕を守りたいという気持ちは、作られたものみたいになっているから。
それでもいいんだ。君たちがいてくれたから僕はこの世界でも生き抜けているんだから。
「ルーザーには話した方がいいかな? 感動の再会になると思うけど?」
「……僕はいいです。僕は死んだんです。それが生き返ったなんて。それに彼はうすうす勘づいていますよ。そんなに鈍い人じゃないから」
「そうか……。君は僕よりもルーザーさんを知ってるんだね」
ジャンはルーザーさんを知ってる。僕なんかよりも深く彼を知っているんだ。気づいているのにしつこくしないルーザーさんも凄いな。僕だったら思いっきり甘やかしてしまうかもしれない。