第三章:図書室と汗とすれ違い
放課後の教室は、いつもより賑やかだった。
文化祭の準備。クラスでは「脱出ゲーム」をやることになっていて、班分けと役割決めの真っ最中。
「じゃあ、田中と佐藤、謎解きの仕組み考える係でー」
誰かが適当に言ったその言葉に、翔太と芽は無言でうなずいた。
気まずさはない。けれど、どこかぎこちない沈黙が流れる。
「じゃあ、明日の放課後、図書室でいい?」
芽が声をかけたのはその日の帰り際だった。
「おっけー、練習終わったら行くわ!」
翔太はそう言って、軽く手を振って廊下を駆けていった。
だけど——
次の日の図書室に、翔太の姿はなかった。
芽は、窓際の席でずっと待っていた。
時計の針が、一時間を過ぎたとき、彼女はそっとノートを閉じて席を立った。
その頃、翔太はまだグラウンドにいた。
「よっしゃ!今日はフルスイング全部当たったな!」
矢口の声が響く。翔太はバットを担いだまま、空を見上げる。
(……あれ? なんか忘れてね?)
スマホを開いた瞬間、芽からの未読のメッセージが目に飛び込んだ。
「ごめん……!」
思わず声が出た。けれどもう遅かった。
次の日、芽は何も言わなかった。
ただ、少しだけ表情が冷たかった気がする。
「昨日、ほんとごめんな」
翔太が謝っても、芽は「大丈夫」とだけ答えた。
だけど、翔太にはわかっていた。
その「大丈夫」が、本当は大丈夫じゃないことくらい。
心のどこかに、小さなヒビが入ったのが、はっきりとわかった。
コメント
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投稿頻度えぐぐぅ 早すぎんだろ(小並感)