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ランディリック自身は、船内で出会うまで赤毛バーガンディー色の髪を持つ少女――リリアンナのことを認識していなかったのだが、そんなランディリックへ、幼いリリアンナが話しかけてきたのだ。


「お腹が……空いたの?」


それは、慣れない船旅でランディリックが体調を崩し、客室へと続く通路の片隅で暗闇へ紛れるようにしてうずくまっていた時のことだった。


リリアンナは公用語であるリュセント語ではなく、イスグラン帝国とマーロケリー国の共通言語――かつて両国がノルディア王国として一国だった頃の流れを汲んだ【ルディア語】で話しかけてきた。


それは、彼女がまだ六歳くらいの年端のいかない少女だったからかも知れない。貴族令嬢ならば、恐らくは両親からリュセント語も教えられていただろう。だが、咄嗟の時に普段使っているルディア語が出てきてしまうのが彼女の未熟さを表しているようだった。


幸いランディリックも普段はルディア語を使っていたから難なくそのまま会話が続けられたけれど、あそこで自分が小首をかしげたなら、もしかしたらリリアンナはリュセント語に切り替えていたのかも知れない。


そのくらいリリアンナという少女は、幼さのなかにどこか大人びた雰囲気をも兼ね備えた子だったのだ。


そんなリリアンナがランディリックを気遣って出してくれたのが真っ赤な林檎ミチュポムの実だった。


林檎りんご。さっきお母様に頂いたの。甘酸っぱくて美味しいのよ? 貴方にあげる」


差し出された果実を見て、ランディリックは少し困ったのを覚えている。ランディリックは友ウィリアムと違って、果物全般が苦手だったからだ。


ランディリックの戸惑いを、皮つきで齧るのが躊躇ためらわれているためだと判断したリリアンナが、傷だらけの指先を見せながら照れ臭そうにナイフを取り出してくれた。


「私は練習中で……まだ上手く剥けないのだけれど」


自分で剥いて? と言いたかったんだろう。

林檎とナイフを差し出す、まだ血のにじんだ小さな指先。そこからは、林檎の実よりはるかに甘やかな〝血の芳香〟が漂ってきた。


一瞬、理性がその匂いを〝危険〟と告げた。だが、心臓の方が早く反応していた。


果実よりもそこへ釘付けになったことへ危機感を覚えたランディリックに、

「林檎は嫌い?」

小さくて愛らしい唇が泣きそうな顔をしてそんな言葉を紡いだ。


「頂こう」


リリアンナに悲しい顔をさせたくなくて、食べられもしない癖についミチュポムの実を受け取ってしまったのは不可抗力だっただろう。



結局用が済んでも立ち去ってくれないリリアンナとの会話を楽しんでしまったランディリックだ。


鈴を転がすような柔らかな声音で「ランディ」と名を呼ばれるたび、胸の奥に危うい感情の火が灯るようだった。


のちに合流したウィリアムへ、もらったばかりの小さな実を渡せば、彼は嬉しそうに瞳を細めた。


「これ、マーロケリーの特産品じゃないか。イスグランにいたらなかなか食べられない逸品だよ」


ウィリアムがその果実を食べ終えたあと、ランディリックは小さな種を指先に摘み取った。


「この種、もらってもいいか」


「へえ、何するの? まさか……植える気?」


「……あの子がくれたものだ。いつか花を咲かせるなら、領地ニンルシーラの庭で見てみたい」


「食べられもしないものを育てるとか酔狂だね。っていうか……あんな幼い子相手に……ちょっと気持ち悪いぞ?」


「うるさい」


その言葉は、若い男の気まぐれのようでいて、どこか祈りにも似ていた。


ミチュポムの白い花が咲く頃には、あの幼い少女もきっと、立派な淑女レディへと成長していることだろう。



夕陽を受けた海面が黄金に光り、ランディリックは遠い水平線を見つめながら、掌の小さな種を失くさないようギュッと包み込んだ。



***



――十年後、その種はやっと花を咲かせた。


そして同じ夜、少女は一人の〝女性〟へと開花した。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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開花!? どういうことだろ?

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