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「おお、でかいな」
地響きと共にこちらに向かってくる魔物を前に、
私は独り言のように感想を述べる。
それは私の知識からすれば、一番近いのは
マンモス―――
さらにそれに角を生やした存在だ。
そしてそのサイズたるや、体高六メートルほど。
ゾウを上回る巨体が突進して来ていて、
「そろそろかな」
私は近くの茂みに視線を配ると、
「今だ、メル!!」
「りょー!!」
魔物と私との距離が十メートル以内になった
ところで、妻であるアジアンチックな童顔の
女性が飛び出し、
「ブフウゥウッ!?」
下から噴水のように水が噴き出し……
魔物を空高く浮き上がらせ、
「アルテリーゼ!!」
さらにそこへ、一体のドラゴンが飛んで来て
魔物をキャッチする。
「ブモーッ!? ブフーッ!?」
魔物はドラゴンに抱えられるようにして、
しばらく暴れていたが―――
あの高さから落ちたらどうなるか理解
したのだろう、やがて大人しくなり、
そしてそのまま地上に降ろされ……
魔物は捕縛された。
「角象ですね。
確かに受け取りました。
しかしまた大物を―――」
王都・フォルロワに到着した私たちは、
さっそく王家直属の研究機関に魔物を
納品する。
例の、『養殖用』候補の魔物を集める依頼で、
私たちは適度に魔物を狩り……
すでに数体ほどを納めていた。
「それではしばらくお待ちください。
また後ほど、他の担当者が参りますので」
そう言うと納品受付の担当者であろう青年は、
生け捕りにした角象の運搬をテキパキと現場に
指示を出し始め、
私たちは部屋へと案内され、そこでいったん
一休みする事になった。
「お疲れ様。メル、アルテリーゼ」
部屋のソファに腰掛けた私は、ひとまず
妻たちを労う。
「でもだんだん息ピッタリになって来たよねー」
「そうじゃのう。
こうまで上手くいくとは」
二人は満足そうな顔で飲み物に口をつける。
数回、捕獲作戦を行うにあたり―――
確かに彼女たちの言う通り、分担やする事が
決まって、効率良くなってきていた。
まず魔力がほとんど……
いや一切無いと言っていい私がオトリとなり、
近くに魔力封じの腕輪を装備したメルが待機、
私に魔物が近付いたら腕輪を解除して、得意の
水魔法で空高く吹き飛ばす。
そこでドラゴンの姿で上空待機していた、
アルテリーゼが魔物を捕獲―――
という流れになっていた。
「しかしこの作戦……
あまり自分が役に立っていないというか」
私がそう言うと妻二人は苦笑して、
「だってシンの能力じゃ仕方ないじゃん」
「確かに殺しはせぬが、前足と後ろ足を
折ってしまうからのう。
なるべく傷付けずに捕らえるのであれば、
ああするしか無いと思うぞ」
メルとアルテリーゼの指摘に―――
そうなんだよなあ、とため息をつく。
今までも大型の魔物を相手にしてきた事は
何度もあるけど、
巨大化した魔物は、四肢のサイズ的に自分の
体重を支えられるであろう、こちらの『常識』を
超えていて、
それは魔力で補っているのだが、それを
無効化すればもちろん、重力と自重に従って、
前足と後ろ足が折れるという結果になって
しまうのだ。
こちらや研究機関としても、なるべくなら
無傷で捕獲したいわけで……
そんなわけで、私の能力は今のところ
出番が無い状態となっている。
「そう考えると不便な能力だよなあ。
まあ、万能な力なんて無いのかも
知れないけど」
私もそう言って飲み物を口に含むと、
「あの力を不便っていうの、多分シンだけだと
思うよー」
「普通に考えれば無敵に近い力だからのう。
まあそれを攻撃に使おうとせず、いろいろな
使い道をしているのがシンらしいというか」
するとそこにノックの音が聞こえて、
「はい、どうぞ」
と私が返事をすると、
「む、本当に来ていたのだな。
シンの名前を聞いた時、もしやと
思ったのだが」
そこへ、ドラキュラのコスプレ衣装を着たような
格好の―――
七・八才くらいに見える少年が、青と白の
中間色のような髪を揺らして入って来て、
「あれ? フェルギ様?」
「どうしてここにいるのだ?」
亜神である彼の登場に、妻二人も
きょとんとして、
「何やら各研究で膨大な魔力を消費すると
言われてな。
それで協力してやる事にしたのだ」
そして彼のすぐ後ろには、付き人のような
研究者の姿があり、
「今や魔力を大量に貯められる、大型の
魔力動力源用の魔導具がありますからね。
それにフェルギ様は、魔力の提供だけでなく、
吸収する事も出来るそうで……
魔力過多や暴走時にも対応して頂けるので」
「へえ」
確かに公都で供給しているバッテリーのような
魔導具も、緊急時には彼が補充する手筈と
なっているので、
魔力量が尋常ではない亜神ならば、ここは
うってつけかもしれない。
「ではな、シン」
「お疲れ様です。
まだお仕事があるんですか?」
あいさつに来ただけなのか、来るなり
退室しようとする彼に思わず声をかけると、
「いや、もうこちらでの仕事は終わりだ。
ラファーガと一緒に酒を飲む約束を
しているのでな」
ラファーガさん―――
ウィンベル王国で唯一のドワーフにして、
ミスリルを扱える鍛冶師。
そして大の酒好きだ。
そういえばフェルギ様もお酒が好きだった
ような。
それで気が合ったのかな。
そして二人が出て行くと、入れ替わりのように
私たちの担当者が現れ、
依頼達成の書類をもらい、冒険者ギルド本部へと
向かう事になった。
「あれっ?
ティエラ王女様?」
「お久しぶりです、シン殿。
大ライラック国の件……
そして『スタンピード』の解決、本当に
ありがとうございました」
冒険者ギルド本部の本部長室に通されると、
そこにはパープルの長髪をした、前髪を
眉毛の上で揃えた女性―――
ランドルフ帝国の王女様がいて、
「わざわざお礼を言いに来たの?」
「律儀なものよのう」
メルとアルテリーゼも礼儀として会釈するが、
「もちろん、それもありますが……
大ライラック国についてお伝えする事が
ありまして」
彼女の言葉に、私たち夫婦は顔を見合わせた。
「なるほど。
そういう事ならまあ……」
一通りティエラ様から話を聞いた私は、
うなずいて納得する。
「何でもよ、その鉱山から『スタンピード』の
原因である、『食い尽くす者』とやらを
片付けたんだろう?
で、その魔物どもの巣で、めちゃくちゃ
大きな鉱脈を発見したらしい。
そりゃ礼の一つもしたくなるだろうさ」
グレーの短髪に細マッチョ風の、ギルド本部長が
補足するように語り、
「ましてや、対応ではなく解決ですからね」
「長年の懸念が無くなったと同時に、
膨大な資源を手に入れられたんですから、
褒美も出したくなるでしょう」
金髪ロングの童顔の女性・サシャさんと、
黒髪セミロングに秘書風の眼鏡をかけた
ジェレミエルさんが―――
本部長の背後で語る。
要は、『スタンピード』解決の功績により、
褒美を出すから来い、という事のようだ。
「う~ん……
でもそれなら、基本中心となってくれたのは
ランドルフ帝国のワイバーンたちですから。
お礼なら彼らに」
そう私は申し出るも、
「もちろん、彼らにも報酬は送られております。
その上で、軍王ガスパードはシン殿に
お礼をしたいとの事で」
「あ、先に報酬は渡されているのね」
「でもどうしてシンだけが?」
妻たちも不思議そうに首を傾げると、
「その彼らのシン殿に対する報告や評価が、
すごく高かったらしくて―――」
「あー、そりゃそうかもな。
何せお前さんは彼らの女王である、ヒミコ様と
懇意の仲だ。
それに食生活を劇的に改善した人物でもある。
それで軍王ガスパードが興味を持った可能性も
あるなあ」
ランドルフ帝国の王女様とウィンベル王国の
前国王の兄の言葉に、私は頭を抱える。
しかしクアートル大陸の四大国トップからの
お達しだ。
拒否するという選択権自体無さそうで、
「『ゲート』がありゃいいんだが……
今のところ、あちらの大陸にゃ帝国と
ドラセナ連邦にしかねーしな。
モンステラ聖皇国はこれからの予定だしよ」
「と、とにかくランドルフ帝国までは
『ゲート』で来て頂いて―――
そこから先は共同開拓地区の森経由で、
大ライラック国まで行って頂きます。
ワイバーンをご用意しますので、
移動はそれほどかからないかと」
夫婦のように説明するライさんとティエラ様に、
私は頭を下げて、
「何から何まですいません。
それでは、そのように……」
「い、いえ。
無理を言っているのはこちらですから」
そのやり取りが終わると、
「それで今回はこのまま公都まで戻られるの
ですか?」
「そだねー。
依頼は日帰りって事を条件にしていたし」
サシャさんの質問にメルが答え、
「お買い物などは?」
「あー、養殖されているお肉を研究機関で
頂いたからのう。
それをお土産に持って帰るわ。
凍らせてもらっているとはいえ、
この暑さじゃし」
と、日常的な会話になっていき、
「つーか、他に肉購入していかないのか?
乗客箱持ってきてんだろ?」
という本部長の問いには私が、
「んー、肉自体は実は公都でも足りているん
ですよね。
魔物鳥『プルラン』がありますから―――
ただ他の肉も食べたくなる時があるので、
お土産にはそれを指定しています」
そう返すとティエラ王女様が、
「お肉なんて、少し前までは帝都でも、
庶民なら1ヶ月に1度くらいのご馳走
でしたのに……」
「プルランって雌雄同体のためか、
それなりに保護して世話するだけで、
自然に増えるんですよね。
卵も多産ですし、あれと貝の養殖は比較的
簡単ですから」
「王都の児童預かり施設の子供たちも、
あれだけは腹いっぱい食えるようになった
からなあ」
と、とりとめのない会話にそのまま移行し、
しばらく雑談した後、私たちは公都へ帰る事に
なった。
「結構、大所帯での移動になりましたね」
一週間ほどして、私はランドルフ帝国を経由し、
共同開拓地区の森へと来ていた。
同行しているのは、シンイチ・リュウイチを含め
私の家族、
そしてライさんとティエラ様も参加しての、
大ライラック国訪問となった。
「お前さんは存在と知識が最高機密だからな」
「それに、大ライラック国はランドルフ帝国を
通じ、辺境大陸との同盟を急いでいます。
なので両国の王族に連なるわたくしたちが、
同席していても問題はありません」
宿屋、というかホテルと言っていいくらいの
規模の宿泊施設に私たちはいて、
「まあ私たち平民組だもんね」
「確かにお目付け役は必要であろう」
メルとアルテリーゼはそれぞれ、自分の
息子を抱きながら、
「確かにボクたちじゃ、何を話していいか、
そして話しちゃダメなのかわからないし」
黒髪ショートの、紅い瞳の娘―――
ラッチが両手を頭の後ろに回し、伸びを
するようにして語る。
「それに、今回は俺たちのためでも
あるしな」
「?? と言いますと」
本部長の言葉に私が聞き返すと、
「わたくしとライオネル様の結婚は、ほぼ
決まっているようなものですが……
未だに両国のために何かした、という
実績が弱いのです。
ですがこれなら、ランドルフ帝国と
ウィンベル王国の代表として―――
大ライラック国との事前交渉や調整に
向かったと言えますから」
ティエラ様がそう言うと、私を含め
家族も『なるほど』とうなずく。
二人とも、両国のためにはいろいろと
影に日向に様々な局面で動いてはきたけれど、
今回、外交という事で結果を残せば……
その実績はより盤石なものとなる。
「ただシン、お前さんも言動に注意しなけりゃ
ならんというのは本当だからな。
特に数学知識は有料で各国に提供して
いるんだ。
そっち関係は本気で気をつけてくれ」
そうライさんから釘を差され―――
私は気を引き締める。
そして翌日、私たちはワイバーン便で、
大ライラック国まで運ばれる事となった。
「よくぞ来られた。
先日における、我が国での『スタンピード』の
解決と、それの活躍は承知している。
それについて心から礼を述べる」
大ライラック国、首都・マルサル……
その王宮で私たちは、この国のトップである
六十代くらいの老人―――
軍王ガスパード様の前で跪いていた。
(ラッチとシンイチ・リュウイチ子供組は、
別室で待機)
「もったいなきお言葉」
「我が国はあくまでも大ライラック国の要請を
受けたまで……
礼ならば、それを引き受けてくださった
シン殿へ」
と、ライさん・ティエラ様からこちらに話が
振られる。
「おお、貴殿がシン殿か。
噂は聞いておる。
『万能冒険者』と呼ばれているそうだな?
『スタンピード』の時は、『食い尽くす者』を
率いる主を倒したとか」
「いえ、あれはワイバーンたちの攻撃ですでに
弱っていたものを、仕留めたに過ぎません。
それより、鉱山に被害を出してしまい、
申し訳ありませんでした」
私から謝罪の言葉が出たからか、周囲から
どよめきが聞こえ始めるが、
「謙遜するでない。
本来であれば、『スタンピード』と引き換えに
廃坑にする事も覚悟していたのだ。
それが『食い尽くす者』を一掃してくれた
おかげで、魔物のいた巣まで鉱脈として使える
ようになった。
それについての褒美を取らせよう。
何なりと申すがよい」
そこで、予めライさんたちと相談して
決めていた希望を口にする。
「それでは―――
ここの王宮の厨房に入れてもらえる事は
可能でしょうか?」
「厨房?」
意外だったのか、軍王様がきょとんとするが、
「私どもの夫は、料理に非常に興味を
持っておりまして」
「出来れば王宮の料理を教えてもらえれば、
幸いかと」
メルとアルテリーゼも私に続く。
そこでウィンベル王国とランドルフ帝国の王族の
男女が、
「各国に輸出されている、マヨネーズや
タルタルソース、麺類や甘味を作ったのは、
ここにいるシンでございます」
「帝国の料理人も、彼からいくつか料理を
教授されておりますれば」
そこで周囲は『あれが?』『もしや料理神?』と
ざわめく。
「そういう事であればむしろお願いしたい。
余から許可を出そう。
出来れば何か1つ作ってくれ」
「ははっ!!」
ガスパード様からそう言われ……
私たちは何とか謁見を終える事が出来た。
「やれやれ、緊張しました」
自室への廊下をみんなで歩きながら、
雑談に興じる。
「これで終わりかな」
「あっさりとしておるのう」
妻たちも無事終わった事で力が抜けたのか、
軽口になる。
「こっちはこれからだがな」
「そうですね。
ウィンベル王国とランドルフ帝国の
王族が来たのです。
これ幸いにと、向こうから接触してくると
思いますよ」
対照的にライさんとティエラ王女様は、
政治モードの顔となる。
この二人はこれからが本題か、大変だなあと
思いつつ―――
自分も厨房へ向かうため、まずはラッチたちの
待つ待機部屋へと向かっていると、
「何をしているのです!
早くドラゴンの姿になりなさい!
そしてわらわのペットとなるのです!!」
「で、ですからお嬢様!
今日来ているのは他国からの使者で……!」
と、何やらトラブルを起こしているみたいで、
慌てて曲がり角を曲がって現場へ向かうと、
そこには典型的な金髪縦ロールのお嬢様―――
年はラッチと同じ、中学生くらいだろうか。
それが複数の従者やメイドに囲まれ、何やら
なだめられている。
そしてその相手はもちろんラッチで、
「おとーさん!!」
「どうしたんだ、ラッチ?」
娘が私たちの方へと駆け寄って来て、
それでこちら側とお嬢様組が対峙するような
形となる。
「私の娘が、何か失礼な事でもしたで
しょうか?」
一応、身分が高そうなのでやんわりと
そのお嬢様に聞いてみると、
「お前が父親か?
いやそんな事はどうでもいい!
早くその子をドラゴンの姿にせい!
そしてわらわのペットとして
寄越すのだ!!」
と、何とも貴族というかわがままな要求を
こちらに向けて来る。
するとライオネル様がすっ、と前に出て、
「我々は本日、軍王ガスパード様に招聘された
者です。
失礼ですがあなた様は?」
すると彼女はその無い胸を張って、
「わらわはその軍王ガスパード様の孫娘!
アンニーナである!!
さあ、わかったらわらわのペットとして
その子を献上するのだ!」
久しぶりに理不尽な要求にあったな、と半ば
感心しつつ、
「私どもは本日、軍王様より先日の
『スタンピード』解決の功労者として、
褒美を頂けるとの事で呼ばれたのです。
その私どもから逆に何かを取り上げたと
あらば、ガスパード様はどう思われるで
しょうか?」
それを聞いた彼女は怯み、
「そ、その通りですお嬢様」
「ここはどうかお下がりくださいませ」
従者やメイドからそう言われると、
彼女は『フン!』と鼻を鳴らして、
どこかへと去って行った。
そしてそれを見送ると、私たちはいったん
控室へと行く事にした。
「いったい何があったんだ?
ラッチ」
そこで改めて私が事情を聞くと、
「あ~、シンイチとリュウイチは
メイドさんたちがお世話してくれて
いたから、ボクはちょっとドラゴンの姿に
戻っていたんだよ。
そうしたらいきなりあの子が乱入して来て、
『可愛いー!!』『こっちに来なさい!!』
って追いかけて来てさー」
人間の姿は中学生くらいだが、ラッチの
ドラゴンバージョンはまだまだ赤ちゃんの
時のままで、
それは確かに可愛いと思うけど、まさか
ここで献上しろと言われるとは思わなかった。
「どうしましょうかね……」
「まあ、お前さんたちは厨房へ避難―――
もとい料理の交流に行ってくれ。
こっちはこっちで何とかしておく」
「わかりました。
あ、すいませんがシンイチとリュウイチを
引き続きお願いします」
そして私は息子たちの面倒を見てくれている
メイドさんたちにあいさつすると、
ライさん・ティエラ様組と別れ……
厨房へと向かった。
「こっ、これは―――」
「まさか果実を包むとは!
しかも甘くておいしい!」
「肉や魚にしか使えないと思ったが、
こんな味わいがあろうとは」
小一時間後、私は厨房である料理に
取り組んでいた。
それは『アップルパイ』。
一通り料理を見せてもらう中に、パイ料理が
あったのだ。
しかしここでのパイは彼らの言う通り、
肉や魚が中心の、いわゆるおかずや
メインディッシュたるもので、
そこで私がリンゴに似た果実を砂糖とバターで
炒めるようにして、
それを包むように頼んだのである。
「これを軍王様に献上しましょう!
きっとご満足頂けると思います!!」
そう料理長が太鼓判を押してくれた時、
ライさんとティエラ様が厨房に入って来て、
「お、何か作ったのか」
「お菓子ですか?
美味しそうな匂いがします」
そう言いながら私に近付くと小声で、
「(シン。あのお嬢ちゃんだがな。
気になる事がある)」
「(?? と言われますと?)」
そこでさり気なく料理人たちとの間に、
メルとアルテリーゼ、ラッチが割って入って
くれて、私たちは話を続ける。
「(最初見た時に違和感があったんだよ。
ありゃ多分、洗脳か隷属系の魔法を
かけられていると見た)」
「(そうなんですか!?)」
大きな声を出す事は出来ず、表情だけ
驚くと、
「(はい。あの後お詫びというか、
謝罪のために使者が訪れたのですが、
1年くらい前までは大人しい子だった
そうです。
それがいつの間にか、わがまま放題な性格に
なってしまったとの事で)」
ふむふむ、と私はティエラ王女様の言葉に
うなずき、
「(そこでシンの出番だ。
多分、あの子も新作料理の席に出るだろう。
そこでシンに、あの子にかけられている
魔法を解いてやってくれないか?)」
「(そうですね。
それにラッチに執着されたままですと、
またトラブルになるかも知れませんし。
わかりました、やってみます)」
そうして私たちは密かに彼女の魔法の
無効化を取り決め……
新作料理をお出しする時を待つ事になった。
「あの『万能冒険者』が作ってくれた
料理が出るとか」
「楽しみですなあ」
夜になり、軍王ガスパード他重鎮たちが
集まった席で、
私は一人一人の前に、例の『アップルパイ』を
テーブルの上に置いていく。
その中にはあのアンニーナ様もいて、
「お待たせいたしました」
料理名はあえて言わず、淡々とテーブルの上に
それを配置していく。
そして彼女のところに料理を置くと、
私に気付いたのか、
「あっ!
お前はあの時の!!
ねーねー、おじい様!!
わらわお願いがありますの!!」
いきなり大きな声を上げるが、
「これ、アンニーナ。
はしたない。
料理を食べてからにしなさい」
さすがに軍王に注意され、彼女はそれで
黙り込む。
恐らく彼女の両親であろう男女もいるが、
オロオロするばかりで、
そこで私はすかさず後ろから小声で、
「相手を洗脳する、もしくは隷属化する―――
そんな魔法など……
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくように発し、料理を配り終えた私は
他の料理人たちと一緒に控える場に立つ。
そして食事が始まると、
「!? 甘い!?」
「これは果実か!!」
「まさかこのような食べ方があろうとは」
と、上層部の方々にも評判は上々で―――
やがて全員が食べ終わると、
「シン殿、見事である。
まさか我が国の料理をこのように変えて
見せるとは」
そう軍王ガスパード様からお褒めの言葉を
頂いた時、
「おじい様!!」
そう言ってアンニーナ様が再び大声で、
自分の要望を伝えようとする。
「おじい様、わらわはあのドラゴンの
少女を……!!
……少女を……?」
と、そこまで言いかけたところで、
彼女は自分でもわからない、というように
首を傾げ、
「えっと、あのドラゴンの少女と、
お友達になりたいですわ!」
その要求に、食卓についている全員が
和やかな表情になった。
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