「わあッ! 屋台が一杯、それに町の装飾が滅茶苦茶オシャレ!」
城下町は、以前と来たときとは見間違えるほど様変わりしていた。
さすが、帝国で大切にされ盛大に盛り上がる祭りだと感心する。町全体がキラキラと輝き、まるで宝石箱の中にいるようだ。
そんな煌びやかな町にリースと共に歩く。
出店が沢山並んでおり、体験型のものから変わった食べ物まで様々なものが売っている。祭りにはこれが人生で始めていくのだが、この年になってもわくわくと言うものがあるのだと、私の胸は弾んでいた。
私もリースと同じく髪を黒く染めているため、私を聖女と気づく人はいなかった。といっても、私は伝説の聖女と髪の色も目の色も違うからそのままの姿で歩いていたとしてもきづかれはしないだろう。だが、まああの綺麗な銀髪はある意味目立つので黒に染めて正解だったかも知れない。
元々前世は黒髪だったわけだし、こっちの方が落ち着くといえば落ち着くのだ。見慣れているのもあるし。
それはさておき、日本のお祭りと言えば浴衣で花火がつきものだけど、残念なことにこの世界にはそういった文化はないらしい。ああ、いや花火はあるか。
その代わりと言っては何だけれど、衣装の何処かにオレンジの花の刺繍やらネクタイピン、ブローチなどを付けている人が多く見られる。
この国の人たちは以前にも聞いたようにオレンジの花を大切にしているらしく、至るところにオレンジの花のモチーフが施されている。男女問わず、服装は基本的に暖色系でメイクも明るいものが多かった。何というか、あちらこちらで光が溢れているような。さすがは、光の帝国である。もう夕暮時というのに、朝と錯覚するぐらいに眩しい。
そして、空が闇に包まれて行くにつれだんだんと人の数は増えていき、あっという間に広い道幅を埋めるぐらい人で溢れかえってしまった。
「……ぅう」
「どうした? 人混みに酔ったのか?」
「そ、それもあるけど……違う」
確かに、人混みに離れていないし嫌いである。人酔いしてしまうのだ。それを、リースは知っていてくれて気にかけてくれているが、それだけが問題じゃない。もっと根本的な問題は他にあるのだ。
リースは相変わらず、私をエスコートしてくれるけど正直、恥ずかしい気持ちしかない。こっちの方が問題なのである。
リースの手ってこんなに大きくて男らしくて、骨張っていたんだとか、リースの体温ってこんなに高いんだとか、リースの匂いってこんななんだとか……とにかくリースについて意識してしまうことばかりなのだ。
男の人とデート、そして手を繋いだ事なんて無いものだから手汗が凄いんじゃないかとか、色々あれやこれやと考えてしまいまともにリースの顔を見ることが出来ない。しかも、リースはいつも通りの態度なのも腹がたつ。
そして、会話が何もないのはさらにこの状況を悪化させてしまっている要因の1つだと私は考え何か話題を彼に振ってみようと口を開いた。
「り、リースは、様……は、祭りとかきたことあるの?ああ、えっと星流祭だけじゃなくて、ほら前世も含めて」
私がそう聞くと彼は少し驚いた表情を見せたがすぐに、笑みを浮かべた。
私なんか変なこと言ったかな。すると彼は何処かつまらなそうな表情を浮べた後、フッと笑みをこぼし話してくれた。
「ああ、前世……子供の頃にな。親友と何度か行ったことがある」
「そう、なんだ。でも矢っ張り女の人とかともいったんじゃない?」
「何故そうなる?」
「だって、何かデート慣れしてそうだったから」
私の言葉にリースは何故かムッとした顔をした後、不機嫌そうに私を見てきた。
でも、私がそう思うのも仕方がないだろうと反論すると、彼は意味が分からない。と返してきた為会話が成立しなくなった。無自覚イケメンはこれだから困るのだ。
「きっと、私と付合う前に、他の人と付合ってたんじゃないかなとか……思ったりして」
「……ないぞ」
「えっと、ないとは……?」
「だから、お前以外に付合っていた女性はいないって言っているんだ」
「ということは、男性と?」
「どう考えたらそんな考えに至るんだ。それもない」
何でか知らないけど、リースは私の質問攻めに苛立っている様子だ。
私は、これ以上聞いても良いものなのかと悩みながら、恐る恐る彼の様子を伺っていると、リースは呆れたようにため息を吐いた。
「お前が初めてだ。俺の初めての恋人だ」
「へーってええ!? だ、だって、はる、遥輝が!? 嘘でしょ!?」
私が驚きの声を上げると、リースは眉間にシワを寄せ私を睨んできた。
私は慌てて口を塞ぐが、その反応を見て更にリースは不機嫌になった。
そして、また大きなため息を吐き出すと、今度はリースの方から話しかけて来た。
だって、あり得ない、嘘だと思ったから。
あの陽キャ達に囲まれて、沢山の女子から告白を受けていたリースが……遥輝がこれまで恋人がいなかったなんて誰が信じるのだろうか。私は信じられない。
でも、確かに遥輝にフラれて泣いていた女子を何度か見たことはあったが、さすがに一人や二人ぐらい付合っていた女性がいただろうと思っていたのだが。
「可笑しいこと言ったか?」
「ううん、吃驚しちゃって。だって、遥輝がだよ? あれだけモテてたくせに彼女がいなかったなんて」
「……」
「なんで私なんかを……?」
私がそう言うと、リースは少し考える素振りを見せた後口を開いた。
それはずっと気になっていたことだった。
遥輝を好きな子は一杯いたわけだし、私はそもそも遥輝とは遠い存在だった。話したことだってなければ、話しかけられたことなど。告白される前はそんなことなかったし素振りすらなかったわけだ。なのに、如何して彼はいきなり私に告白してきたのか。
私を選んだ理由がわからない。それが、他の女子から逃げるために地味でオタクで陰キャな私を選んだ……という理由出ないことは確かである。だって三年以上も付合っているのだから。高校にいる間も大学にはいってからも私を振る素振りも、私を嫌いだって避ける様子もなかった。寧ろ好きだと愛を伝えてくれていたほどだったから。
だからこそ、何故遥輝は私を選んだのか。私を好きだったのか気になって仕方がなかった。でも、私は臆病で恋にも愛にも疎いから聞けずにいた。聞いて傷つくことを恐れていたからかも知れない。何にしろ、これを聞くのはもっと先だった気がする。こんな別れてからじゃ何も意味がない。
「巡が巡だったから、か……」
「何それ、理由になってない」
私の言葉に、リースは再び困ったような表情を浮かべた。
そして、徐に私の手を握ると、真剣な眼差しで私を見つめてきた。
ドキリと心臓が大きく跳ね上がる。まるで時が止まったかのように感じた。
リースは、何か言おうとしたのか口を開いたがすぐに閉じて私の手を握り歩き出した。
「今はそんなことよりも、祭りを楽しむのが最優先だ。楽しみにしていたんだろ?」
「う、うん! 勿論!」
私は戸惑いながらも、彼の言葉に返事をする。
リースは、優しく微笑むと再び私の手を引っ張り人混みの中へと入って行った。
彼は私に惚れた理由を隠そうとしているのがバレバレだったが、それを追及するほど私も馬鹿ではない。それに、リースは恥ずかしいのかもしれない。これまで誰とも付合った事がないから、彼も彼なりに恋人としてのあり方をこれまでに模索してきたのだろうと。
でも、それにしてもだ。
(何もかもハイスペックで、慣れすぎていて本当に恋人がいなかったのか疑いたくなるほどの完璧イケメン!)
遥輝は一体どれだけのポテンシャルを持っているのだ。
見た目は言うまでもなく推しであるリース様の容姿もプラスされていて、性格だって良い。そして、遥輝時代は家事スキルが高すぎだと思った。私をさらにダメ人間にしたのは彼だ。
これだけ完璧なら、普通ならモテるはずだ。それなのに、彼は今まで彼女を作っていない。
「今日は思う存分楽しんでくれ。俺がお前の願いを全部叶えてやるから」
「は、はぅ……はい」
私がリースのあまりの格好良さに悶えていると、リースはそんな私を見てくすりと笑った。
その笑顔にまたキュンとする。
リースは、私の反応に満足したのか、私のペースに合わせて歩く。本当に完璧すぎるなあと思いつつ、自分が流されていることに私は気づく余裕すらなかった。
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