「んんん!? 何これ美味しいッ!」
屋台で買ったのは黄色い星形のフルーツやオレンジ色のフルーツの所謂フルーツの串刺し。リースが奢ってくれたそれは、どれもこれも甘くてジューシーでとてもおいしかった。
この世界に来てから、初めて食べるものばかりだけど、どれもおいしい。聖女殿や皇宮で出された味も見た目も高級感溢れる料理と違って、こう庶民的なのがまたいい。特に、この世界の食べ物は、私がいた元の世界と味が似ているものが多い為抵抗なく食べれるのがありがたい。
それから、ケバブ的なものからクレープのようなものまで色々なものを食べたけどどれもすごく美味しくて、つい買い食いし過ぎてしまった。リースには申し訳ない気持ちでいっぱいだが、彼は全然気にしていないようで、むしろ嬉しそうだった。
「はっ! でも、こんなに食べ過ぎたら太るんじゃ……」
私は、ハッと我に返ると恐ろしさのあまり震え上がった。聖女とは言え、食べ過ぎると体重が増えるのは避けられない。
前世では小食だったのもあったが、推しの引退やら何やらでやけ食いしたこともあってその際にはドッと体重が増えたりしていたし、人よりかは太らない体質だったとはいえ太るときは一気に体重が増えていたため、下腹が出てきた日には発狂しかけたものだ。私は、自分のお腹に手を当ててみる。大丈夫だ。まだ少ししか膨らんでいない。きっとこれくらいなら大丈夫だ。
それに、もし太ってしまったとしても、ダイエットすればなんとかなるだろう。
聖女という仕事は、意外にも運動する時間がある。いや、魔力の消費量がカロリー消費量に繋がるとか何とかも聞いたから大丈夫だ。
けれど、まだ星流祭は始まったばかりで後四日も暴飲暴食を繰り返せば体重が大変な数値を刻むことだろう。
「どうした? 美味しくないのか?」
「い、いやそうじゃなくて……太っちゃったらって考えたら」
「エトワールは太っていてもきっと可愛いと思おうぞ。それに、女性は少しふくよかな方が……」
「よくない! せっかくの美人なのに太ってたら台無しよ!」
そういうものなのか。とリースは首を傾げていた。
私は、彼の言葉にムキになって反論すると、彼は驚いたように目を丸くして固まった。そして、すぐに口元を押さえて顔を背けた。
その行動に、今度は私が固まる番だ。
え、何だその反応は。
「すまない、少し配慮が足りなかったか……俺は別にどんなエトワールでも」
「あああ! そういうの言うのよくない! よくないよ! 大丈夫、気にしないで! うん!」
リースの言葉を遮るように大声を上げると彼は一瞬ビクッとして、私を見た。
あ、しまった。つい反射的に叫んでしまった。
リースは、そんな私を見て苦笑いを浮かべている。私は恥ずかしくなって、顔を隠すために綿飴で顔を覆った。しかし、それらが顔に付着しベタベタと薄く化粧を施して貰った顔を汚していく。
リースは私の手を掴んで、大丈夫かと叫ぶと綿菓子を取り上げハンカチで私の顔をふいた。
何故ハンカチを持っているのかと、女子力高いなと突っ込みたかったが取りあえず感謝の言葉を伝え綿飴を返してもらった。
「何よ、じっと見て。もしかして欲しいの? それなら、そうって言ってよ……わかんないじゃん」
と、私は私のことをじっと見ているリースに食べかけの綿飴を差し出すと、リースは何故か首を振ると私を見つめて言った。
何か変なことをしただろうか。
「……貰えるなら、貰おう」
「う、うん。どうぞ」
リースは、私の手を掴むと自分の口に綿飴を含みちらりとこちらを見た。
そうして、やっとリースの言いたかったであろう、彼の意図が読め私はみるみるうちに顔を赤く染めた。
(こ、これは間接キス……!?)
意識したら、余計に恥ずかしくなり、リースの顔を見ることが出来ずに俯いて黙り込むことしか出来なくなった。だって、恥ずかしいから。
確かに自分で食べないかっていったけど、間接キスになる事ぐらい教えてくれても良かったんじゃないかと思う。でも、きっと彼は分かってて食べたんだ。
そう思いリースを見ると矢っ張り分かっていたようで、それでいて平然としており、いつも通りだった。それがまた悔しくて、ムカムカする。
だからと言って、私だけが照れてるのが嫌で、リースをからかってやろうと意地悪な質問をしてみた。
「か、間接ききききき、キスぐらいで慌てるなんて子供よね! わ、私は気にしていないから! 全然ぜーんぜん!」
「……そうか」
と、彼はそれだけを言うと、フッと微笑んでまだまだ余裕があるといった感じだった。
そうして、私の指先をぺろりっと舐めると、彼は悪戯っぽく笑った。
「ぴぎゃああああッ! い、今舐め、舐めた!?」
私が叫ぶと、彼は口元に手を当ててくすくすと笑う。
もう、本当になんなんだこの男は! こんなんじゃ、心臓がいくつあっても足りない。それに、さっきから私ばかりドキドキさせられていて、不公平だと思う。
(一応、別れてるんだよね私達……)
そんな言葉が私達の今の関係が頭に一瞬よぎったが私は知らないフリをしてリースを睨み付ける。しかし、その睨みもかえって彼にとってはご褒美なのか何なのか、嬉しそうに笑っていた。
ああ、もういいや。推しが幸せそうならそれで……
私はそう思うことにして、残りの綿飴を口に放り込んでリースに貸して貰ったハンカチで手をふきながら次は体験型の屋台を見て回ろうと言うことになった。
体験型の屋台は飲食ができる買える屋台と同じぐらいあり、どれから行くか迷ってしまう。
私は、少しだけ考えてからリースの手を引いて一つの屋台へと足を進めた。
そこは射的屋で、銃でコルク弾を撃って景品を落とすゲームだ。勿論、魔法を使ってはいけないというルールで、コルクは五発。
一回のゲーム料は中々高いが、景品の中にはぬいぐるみやお菓子など可愛いものばかりなのでつい欲しくなってしまったのだ。
「あれ、欲しい。あの兎のぬいぐるみ!」
私が指差した先には、可愛らしい白のロップイヤーの兎の大きなぬいぐるみだ。白くてもふもふしていて抱き心地が良さそうだった。でも、かなり高い位置にあり、ずっしりと重そうでこの軽いコルク玉で落とせるのかと疑いたくなるような品だった。
私は、店員さんからコルク弾を貰うと二三発兎のぬいぐるみに向かって撃ってみた。だが、一発は外れ二発は当たったもののぬいぐるみは後ろに少し動いた程度で落ちる気がしない。
これがまだ、光の弓だったら一発で倒すことが出来ていただろうにと私は考え、ああでもそれでは兎のぬいぐるみに穴を開けることになるのではとかも考えながら残りの二発を使い切ってしまった。
「やっぱり私って下手クソなのかな……」
「あれが欲しいのか?」
私がそう呟き肩を落としていると後ろからリースが声をかけてきた。
「うぅ……だって、可愛いんだもん。欲しい」
「そうか」
と、それだけ呟いたかと思うとリースは店員にお金を渡しコルク玉を受け取ったかと思うと、それを鉄砲に詰めて構える。その姿は様になっており、リースの凜々しい姿に私の目は釘付けになる。
そしてそのまま引き金を引くとパンッと乾いた音が響き渡った。すると、リースの撃ったコルク弾は見事にぬいぐるみのど真ん中に当たり、ぐらりと大きく揺れるとポトっと音を立てて落ちてしまった。
私は驚いて目を見開くと、店員から貰った兎のぬいぐるみを私に渡すとリースは優しく微笑んでくれた。
その笑顔があまりにも眩しすぎて、直視できない。それに、今の状況が信じられなくて夢ではないかと頬をつねってみるが普通に痛かった。
じゃなくて――――!
「え、えっ、なんで!? だって私がやったときには落ちなかったのに」
「コツがあるんだ」
それだけ言って、リースは私と兎を交互に見てにこりと微笑んだ。
私の為に取ってくれたんだと分かると、嬉しさで胸がいっぱいになり、私は思わず兎のぬいぐるみを抱き締めた。
そんな私達の様子を見ていた屋台の店員は私達を見ながらニヤニヤと笑い「彼女さん、彼氏さんに取って貰えて良かったねえ」と冷やかしてきた。
「か、彼氏じゃないです!」
と、私は思わず反論してしまい、リースも店員も目を丸くし私を見ていた。
そんな、見なくても良いじゃないと思っていると、店員は付合ってなかったのか?と言ったような表情で私とリースを見ていた。するとリースがすかさず口を開き私の肩を抱き寄せて口を開いた。
「ああ、まだ恋人じゃないんだ。だから、彼女に良いところを見せたくてな」
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