コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
王都への帰還を目前にしたある朝。ルカ(健二)は、慣れない馬車移動と連日の「視察(という名の引きこもり場所探し)」のストレスで、首から肩にかけてズッシリとした重みを感じていた。「……あぁ、肩が凝る。……首が回らない。もう、死ぬほど体が重いよ……」
健二の本音は「(運動不足でガチガチだ、もう一歩も動きたくないし、このまま一生マッサージ器になって寝ていたい)」というだけの、ニート特有のぼやきだった。
しかし、この言葉を聞いた瞬間、周囲にいた三人の乙女たちの顔色が劇的に変わった。
「……ルカ様の魔力回路が、詰まっているというのですか!?(アヤ)」
「……『死ぬほど体が重い』!? つまり、何者かの呪いがルカ様の命を蝕んでいると!?(ミナ)」
「……我が主を、そこまで苦しめる不届きな『何か』が、この世にあるというのか!(ナツメ)」
ルカが「(あ、マッサージでもしてくれないかな)」という期待を込めて、力なく自分の肩を揉む仕草を見せると、アヤが血走った目で古文書を広げた。
「解析完了しました。ルカ様の症状は、この世界の汚れた大気では癒せません。隣国バイルン王国の王家にのみ伝わる、伝説の霊薬『天界の雫』……あれを直接患部に塗布するしか、ルカ様を救う道はありません!」
「なんですって……! ルカ様、今すぐお助けします。……アヤ、ナツメ、準備はいいですね?(ミナ)」
「……行くぞ。主を苦しめる『凝り』の根源、その霊薬ごとバイルンを斬り伏せる!(ナツメ)」
「ちょ、えっ? 何? 皆どこ行くの?」
ルカの制止も虚しく、三人は凄まじい速度で戦場へと消えていった。
翌日:バイルン王国の終焉
隣国バイルン王国は、帝国でも指折りの軍事国家だった。しかし、その鉄壁の城門はアヤの多重極大魔法で消し飛び、宮廷騎士団はナツメの神速の剣筋に戦意を喪失し、放たれた矢の雨はミナの絶対結界によってすべて無効化された。
彼女たちは、ただ「ルカ様の肩こりを治す」という狂気にも似た一念のみで、一国を半日で制圧してしまったのだ。
夕暮れ時。玉座の間に一人震えて座るバイルン王の前に、ナツメが剣を突きつけた。
「……貴様の国にある霊薬をすべて出せ。我が主ルカ様が、肩の重みを訴えておられるのだ」
「か、肩こり……!? そんな理由で我が国の騎士団が全滅したというのか……っ!?」
バイルン王は絶望のあまり泡を吹いて倒れ、国宝である霊薬『天界の雫』はすべて没収。バイルン王国は事実上、ルカの「私有マッサージ場」として帝国の支配下に入ることになった。
王都:平和な(?)結末
数日後、王都に帰還したルカの前には、戦利品として持ち帰られた大量の霊薬と、なぜか隣国の降伏文書が積まれていた。
「ルカ様、こちらが霊薬です。さあ、服を脱いでください。隅々まで塗り込んで差し上げます(アヤ)」
「いいえ、私が聖なる祈りを込めながらマッサージします(ミナ)」
「私がルカ様の肉体を支えよう(ナツメ)」
ルカは、差し出された霊薬の輝きと、隣国が滅んだという報告書を見て、顔を引きつらせた。
「……えっ、バイルンって滅びたの? 僕、ただ肩が重いって言っただけなんだけど……(これ、俺が命令したことになってるよね? 怖い、責任取りたくない!)」
ルカが恐怖でガタガタと震え始めると、周囲の文官たちはその震えをこう解釈した。
「見ろ……ルカ様は、隣国を滅ぼしてしまった己の『圧倒的な力』に、悲しみの震えを隠しきれないのだ。なんと慈悲深く、そして恐ろしい統率力……」
「肩こりを訴えるという『暗喩』だけで、邪魔な隣国を排除させる采配。まさに魔王……いや、冷徹なる聖公爵だ!」
結局、ルカの肩こりは霊薬と三人の過剰なマッサージによって完治したが、その代償として「ルカ様の一言で国が滅ぶ」という伝説が帝国全土を駆け巡り、彼は二度と「疲れた」とさえ言えない、史上最強の「顔面兵器」として祭り上げられることになったのである。