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「あ゛ーーーー、さいっっあくだ……クソ…」
とある個人仕事の打ち上げだった。
共演者や普段会うスタッフは良い人ばかりの現場だったが、今日はスポンサーの重役も参加する飲み会で、隣に座っていた奴の話を愛想良く聞いていたら、信じられない量の酒を飲まされた。
見かねたディレクターが助け舟を出してくれなかったら、俺はきっと店の中で潰れていただろう。
自分から香るアルコールの匂いが気持ち悪い。早く帰って寝たい。
なんとか乗り込んだタクシーの中で行き先を伝え、ふらつきながらも玄関のドアを開けた。
ーーーあれ?
なんか仁人の靴がある。
「…………じんとぉ??」
リビングからパタパタと足音が聞こえてくる。
「勇斗、おかえり。遅かっ……ぅわっっ」
仁人だ。俺の大好きな仁人。
顔を見た瞬間、さっきまでの憂鬱とした気持ちはどこかへ飛んでいき、本能のままに抱きついていた。
「ちょっ、お前、酒くさっっ!」
「じんとだーー。なんでうちにいるの?」
「……はぁ、明日お互い休みだから、泊まりに来れば?って誘ってきたの勇斗だろ…?大丈夫…?」
いきなり飛びついてきた俺を引き剥がすこともせず、心配の目を向けられる。
そんなことを言った気がする、でももう酔いが回りすぎて、昼間の記憶を手繰り寄せることすら難しい。
「んーーよく覚えてないけど、よかった。じんといてくれて。うれしい…」
抱きしめる力を強くすると、グエッと苦しそうな声が聞こえてきた。
「おっまえ、酔いすぎ……。とりあえず、水飲んだほうがいい。歩ける?」
「…うん」
いくら酔っ払っていてもさすがに仁人が俺を運べないのは分かっている。手を引かれながらなんとか覚束ない足取りでリビングへ向かった。
ソファに座らされると一気に眠気が襲ってくる。
頭もグルグルするし、ああこれは明日二日酔いになってしまうかもしれないな、たまには外でデートしようと思ってたのにな、明日怒られるかなあ……
後ろで水が注がれる音を聞きながら、浮かんでは消える思考の波に、しばらく身を任せていた。
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