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この日、豪は一日中、外回りだった。
担当している取引先を数ヶ所訪問し、最後に、中学時代の親友、谷岡純が勤務している工場へ見学した後、直帰の予定。
…………のはずだった。
今、彼が担当しているのは、インクジェットプリンターで使用するトナーカートリッジの企画、開発。
最新機種のインクジェットプリンターが、向陽商会から発売される事になり、以前の機種よりも小型化、軽量化され、インクトナーカートリッジも、それに伴い、小型化される。
豪は、親友の純が、インクトナーカートリッジを製造している工場に勤務している事を思い出し、最新機種に適合する商品を製造できないか、と依頼を持ちかけた。
三ヶ月ほど前、試作品として急遽百個送ってもらい、他部署にもプリンターのデモ機と試作品のカートリッジを配り、使用感を聞いてみたら、予想以上に好評。
後日、社内会議で取り上げ、試作品を使って印字した物を上層部に見てもらい、廉価でコストパフォーマンスが良いと好評で、正式に発注する事が決定した。
まずは五千個、その後の状況によって発注数を決定する流れだ。
午後三時五十分。
純の職場へ到着した豪は、応接室に通された。
「本橋さん、お久しぶりです。今回は弊社に依頼していただき、ありがとうございます」
純が営業用の挨拶をする。
「谷岡さん、今後ともどうぞよろしくお願いします」
豪も営業用で返した。
「純、マジで色々助かった。サンキュー」
挨拶の後に微妙な沈黙に包まれ、豪は普段通りの砕けた口調で話した。
「久々に豪から連絡が来たと思ったら、仕事の話だろ? ビビったよ。こちらこそありがとな」
彼を見ながら、純が怪しい笑いを映し出した。
「今日、朝礼で『向陽商会の方が工場見学で来社する』って言ったら、多くの女子が結構騒いでたぞ? お前のファン、うちの部署で何気にいるからな」
「…………そんなの興味ねぇよ」
豪がバッサリ言い捨てると、純は時計をチラリと見て、そろそろ見学に行くか、と彼を作業場へ案内した。