テラーノベル
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いとの泣きそうな声に、貴時は眉尻を下げた。
上半身を倒し、いとの頭の横に肘をつき、彼女の指に自分の指を絡める。
「力を抜いていろ」
貴時は耳元でいとにそう囁くと、いとに口づけた。
「んむ……、んんんっ……、……ふぁ……」
舌を交える心地良い接吻。
貴時に身を任せていると、いとはぼんやりしてきた。
いとの顔が再びとろけてきたところで、貴時は自分のものをずぶっと一気に挿入した。
「んんんんんっ」
肉棒はいとの中に全て入った。
しかし、今まで経験したことのないような激痛がいとを襲う。
いとの大きな瞳から雫がぼろぼろとこぼれた。
貴時は口づけを解く。
「や……、いや……」
はーっ、はーっと苦しそうに浅い息をするいとに、貴時は彼女の頭を撫でた。
「すまない。力を抜いてくれ」
貴時はそう言って彼女の手をぎゅっと握り、ゆっくりと抽挿を始める。
「んっ、……ああっ、あぅっ……、んぁっ……」
中を奥まで押し広げられる痛みに、いとは悲鳴を上げた。
抽挿は徐々に加速していく。
「あっ、あっ……、んあっ、……ひぁっ」
すると、次第に痛みは引き、快楽を帯びてくる。
「……あんっ、あっ……、ああっ、あっ…… 」
抽挿が加速していくのに比例するように、いとの中で快楽が生まれてくる。
やがて痛みは完全に引き、いとは快楽に支配された。
「ああんっ、……んあっ、ああっ……」
「……っ、いと……っ、いと……っ」
貴時も快楽に身を委ね、妻の名を連呼する。
「あっ……、あんっ、たかとき、さま……」
抽挿の速さは最高潮になり、肉棒の先端が最奥を一際強く突いた。
「あああぁあっーーーーーーーーーー」
「っ……」
ふたりは同時に気をやった。
いとの細い脚ががくがくと震え、背を反らせたかと思うと、どっと汗を噴き出して身体が布団に沈んだ。
貴時はいとの最奥にびゅくびゅくと大量の白濁を注ぐ。
いとは腹の中に熱いものが流れてくるのを感じた。
彼女の意識が遠ざかっていく。
貴時は吐精し終わると、いとの頭を撫でた。
「……いと」
切なく自分の名を呼ぶ声を聞いたのを最後に、いとは意識を失った。
「ん……」
翌日、いとは目を覚ました。
ここはどこだったか、と一瞬思ったが、他の家に嫁いだことを思い出した。
ついでに昨夜の情事まで思い出し、恥ずかしさで消えてしまいたくなった。
あれを毎日やっている人々を尊敬しなくては、などと思いながら隣を見ると、もう既にそこは空になっていた。
夫は仕事に出かけているのか、というところまで理解できた時。
「失礼致します。よろしいでしょうか」
突然若い女の声が襖の外から聞こえた。
反射的にいとは返事をする。
「は、はい」
「では、失礼致します」
襖が開き、声の主が露わになった。
いとより少し年上くらいの、黒髪を全て後ろで丸にまとめている、顔の整った若い女だった。
「お初にお目にかかります、若奥様。わたくし、本日より若奥様の身の周りのお世話を担当することになりました西条香世と申します。よろしくお願い申し上げます」
若い女、もとい香世は微笑み、一礼する。
「えっと、西条さんよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
香世は優雅に笑みを深めた。
いとは先程から気になっていたことを尋ねる。
「西条さん、今は何時なのかしら」
「今はお昼前でございます」
いとは目を見開いた。
「ご、ごめんなさい」
いとの謝罪に、香世は驚く。
「とんでもございません。若旦那様からはゆっくりさせるよう仰せつかっております故、誰も咎めませんよ」
香世はにっこりと笑んだ。
いとは安堵した反面、罪悪感に苛まれた。
実家であれば折檻を受けるような失敗だ。
「ありがとうございます。その、わたくしに何かやるべきことはあるかしら」
「それは洗顔とお召し替えとお食事ですわ」
「それ以外には?」
「ございません」
いとはまたもや驚いた。
実家では家事や仕事を手伝うのは普通だったのだ。
手伝わなければ折檻されていた。
「若旦那様は、若奥様にのんびり自由に過ごしてほしいと仰せです。それから、欲しいものがあれば自由に購入していいと」
いとは目を見張る。
なぜ、どうしてそんなに優しいのだろう。
これほどまで優しくされるのは実に久しぶりだった。
いとは泣きそうになったが、なんとか引っ込める。
「さて、まず洗顔しましょうか」
香世はそう言って洗面桶を持って水を汲みに行った。
いとは貴時の言葉を嬉しく思ったが、考えてみれば、結局宮野家に見返りを求めているのだろうという結論に落ち着いた。
舞い上がった気持ちが刹那にして冷めた。
少し考えればわかることだった。
知り合って日が浅い娘に、優しくするわけがない。
妻と言えど、情などあるわけがないのだ。
いとはそう思った。
そしていとは洗顔し、楽な格好に着替え、粥を喉に流し込んだ。
その日はずっと身体が痛み、結局布団の上で一日中過ごす羽目になったのだった。
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