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「詠唱は必ず無くてはならないものではないんです。ただ、一般的な魔道士はイメージを固めるために唱えるんです。その方が、魔法の成功率も上がりますし」




その言葉、一語一句間違わず前の世界で、教えてもらったときのものと一緒だった。だから、教えてもらっている最中に、何度か笑いそうになって、不審な目で見られたの言うまでもない。

懐かしすぎて、嬉しすぎて、涙がこぼれそうになったなんで今のブライトに言っても、到底わかってもらえないことだろうと思った。まあ、それはいいとして、本当に教え方が丁寧であり、尚且つ、要所要所で聞いてくれるのは本当にありがたいことだと思う。学校の先生でも、自ら危機にいかなければ、そんなふうには教えてくれないし、マンツーマンの良さは、そこだろうと。




(ただ、二人なのに、訓練場が広いっていうのが、なんか恥ずかしいというか落ち着かないというか……)




文句を言える立場ではないので、文句は言わないが、静かな空間に響く自分の声に、時々びっくりしてしまうのだ。またそれにも驚いてしまってブライトに「どうしたんですか?」と心配な目を向けられる。そのたび、同誤魔化そうか、とか考えてしまって、また変なことをいって不審がられるの繰り返しだった。もう、悪いことは言わないから、黙っておいた方がいいなあーなんて思いながら訓練をする。

イメージでどこまでも魔法は強くなる。

詠唱を必ずしも唱えなくてもいいが、唱えると、脳が勝手にそれをイメージして、魔法を発動してくれるらしいのだ。それはもう、ありがたいことこの上ない。普段は詠唱を唱えないのだが、こうして、唱えてみると、やはり、正確に狂いなく打てるのがいいところである。




「本当に、基礎はやらなくても大丈夫そうですね」

「で、でも、教えてもらったので、魔法の感覚だったり、応用だったり……!基礎が大事なので、一から教えてくれたのは嬉しい!無理言って、本当にごめんとは思うんだけど」

「そんな、言わないでください。ステラ様がやりたいという要望に応えているだけなので」

「負担になってない?」

「いいえ。楽しいですよ。ステラ様は呑み込みが早い……ので」

「ブライト?」




そういっていくうちに、ブライトの顔が陰っていく。どうしたんだろう、と顔をのぞき込めば、その瞳には、違う人物が写りこんでいるような気がして、私は思わず彼女の名前を口に出してしまいそうになった。でも、苦しそうな顔をしているブライトを見ていると、放っておけず、少し遠回しに話を振ってみた。




「聖女様も、ブライトが教えているんだよね」

「はい……ああ、でも、前にも言いましたが、聖女様……エトワール様も基礎はばっちりで。聖女だから何でもできるというわけではないと思っているのですが、教えるまでもなく。彼女の魔力を調節するような役割を僕は……」

「何か、辛いことでもあったの?」




私がそう聞くと、ブライトはフリフリと頭を横に振った。

エトワール・ヴィアラッテアを裏切ってはいけないというような気持ちと、意見したい気持ちが混ざったようなその顔に、私も苦しさを覚える。ブライトは、周りで誰かが聞いているかもしれないと言った恐怖に駆られているのかもしれない。実際に彼じゃないから分からないけれど、彼も、グランツと同じで、言いたいことと、言ってはいけないという二つの気持ちがぶつかって、苦しいのではないかと。裏切れない気持ちと、前の世界の記憶の混雑は。

意外と抜け穴があると気付きながらも、私が無理やり思い出させようとすると、またそこで問題が生じるため、何をやっても、難しいのではないかとすら思えてきた。でも、何もやらないよりかはましなのは全くそうで。




「聖女様と、何かあったの?」

「エトワール様とは……何も。いえ、彼女の魔法は偉大で、僕なんかよりも優秀な魔導士です。聖女様なのですから、もちろん、その通りではあるんですけど。ただ、魔法に慣れすぎていると言いますか。歴代の聖女の中でも、圧倒的に、魔法の使い方にたけているのです」

「そ、それって何か問題でも?」

「問題はありません……しかし、魔法を使うのに慣れすぎているせいか、周りの魔導士のことを、下に見ている感じがして。誰も、エトワール様にはかないませんし、聖女様を超えるような魔導士がいるわけがないのです。聖女様は、世界を救える唯一の人間であり、女神さまの半身……唯一無二の存在……我々もそれをわかっていますし、そのうえで、エトワール様が」




と、ブライトはそこまで言って、また首を横に振った。これ以上言ったらいけないとそう、自制したのだろう。


エトワール・ヴィアラッテアが何をしたのか。聞く限り、パッとは分からないのだが、魔導士のことを下に見ているような、そんな感覚がして、内側から、ぐつぐつと、怒りが湧きあがってきた。




(ブライトや、他の魔導士のことを下に見ているってこと?自分は聖女なんだから、他の人が、それ以下なのは分かってるくせに、それでネチネチ言ってるってことなの?)




そう思うと、信じられなくて、その態度で、よく愛されたいとかほざいているなと文句を言いたかった。けれど、彼女が洗脳魔法をかければ、そんなふまんも愛おしさへ変わり、周りの人はエトワール・ヴィアラッテアを称賛するだろう。

けれど、魔法体制のあるブライトはそう簡単にはいかず、劣化した洗脳魔法が聞いているせいで、ブライトは頭を悩ます羽目になったと。ブライトは、周りの魔導士を、同士を馬鹿にされたことは許せないようで、眉間にしわを刻み、苦し気に奥歯をかみしめていた。けれど、聖女への反抗は、さすがに駄目だと思っているのか、自制し、悔しさや、苦しさをかみつぶしていると。

私は、手の中に魔法をため込んで、ふわりと、それを浮遊させる。水の塊が、ふよふよと宙をただよい、ブライトの頬につんと当たる。その水の塊は、形を変え、兎になり、なついた動物のように、ブライトにすり寄った。




「す、ステラ様?」

「私に何かできることあれば、って思ったけど……ブライトはため込んじゃう性格だし、でも、話してほしいなと思ったの。ブライト、それでも話してくれなさそうだけど」

「ステラ様……」




以前、アルベドと星流祭のときに作った水の兎。愛らしくて、記憶に残っていたから作ってみた。ブライトの好きな水の魔法で。水の魔法は、確かに形を作るのが難しく、その威力は低い。けれど、使い方によってはかなり危険な魔法であり、高度な魔法を使える魔導士であれば、自分が生成した水魔法を相手の内部に侵入させ、爆発させるなんていう芸当もできるらしい。恐ろしすぎて考えたくもないが、アルベドは、相手に気づかれない魔法の中で、簡単で、尚且つ利欲が高いと、教えてくれた。教えてもらう過程には、防御魔法を常に自分に付与しておく可能性について云々だったのだが、それもあって思い出した。

ブライトが、水の魔法は弱小……というように言いかけたことも同時に思い出したから。実際、そうは思っていないのかもしれないが、水魔法の危険性について、ブライトが知らないわけもないだろうし、きっと、知ったうえで、弱小、といって、弱いイメージを持たせたのだろう。聖女であっても、悪用されないようにと。あの時の私は気づかなかったけど、もしかしたら、ブライトもそんなつもりは100%あったわけじゃないだろうけど、どの魔法も、使う人によって、悪にも全にも変わるのだから、水魔法だって。




「水魔法好きだよ。可愛いでしょ、その兎」




あの時、笑顔をくれた人は違うけど、今度は違う人に笑顔をおそそ分けできたらいいな、なんて、自分の手のひらに兎を作って、それをブライトに向けて今できる精一杯の笑顔を向けた。


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