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「姉が隠していた真実」最終章へ向かう物語・第九話
「残り時間、00:10:00」
スマホの画面に表示された数字が、ゆっくりと減っていく。
00:09:59。
00:09:58。
目の前には、母が立っていた。
いや、本当に母なのだろうか。
さっきまで母は、もう亡くなっていると兄から聞かされていた。
それなのに、目の前の母は昔と変わらない顔で私を見つめている。
「お母さん……?」
母は悲しそうに笑った。
「ごめんね。ずっと黙っていて」
「何が本当なの? お母さんは死んだの? あの女は誰なの?」
母は答えなかった。
その代わり、私の後ろを見た。
「もう時間がない。あの子を連れて逃げて」
その瞬間、兄が私の腕を強くつかんだ。
「逃げるぞ!」
「でも、お母さんが!」
「違う! あれは母さんじゃない!」
兄の声が施設中に響いた。
母の顔がゆっくりと歪んでいく。
口元だけが笑っている。
「どうして分かるの?」
母の声だった。
けれど、母の声ではなかった。
「お母さんは、そんな顔で笑わない」
兄が震えながら言った。
次の瞬間、母の姿が消えた。
そして、廊下の奥から別の声が聞こえた。
「……妹を連れていかないで」
姉だった。
私たちは声のする方へ走った。
そこには、壁にもたれかかっている姉がいた。
「お姉ちゃん!」
駆け寄ろうとすると、姉は手を上げて止めた。
「来ないで。私も全部知っていた」
「何を?」
姉は涙を流しながら、古い写真を差し出した。
そこには、若い頃の母と、あの女、そして施設で最初に襲われた入居者が写っていた。
写真の裏には、さらに小さな文字が書かれていた。
『あの子を守るために、次に生まれる子を差し出す』
「これ……どういうこと?」
姉は震える声で話し始めた。
「あの女には、昔、小さな子どもがいたの。でも、山で起きた土砂崩れと洪水で、その子を亡くした」
「それで?」
「母さんと、あの女と、最初に襲われた入居者さんは、昔、同じ施設で働いていたの。あの女が亡くなったあと、母さんたちは約束した。もう二度と、子どもを犠牲にしないって」
兄が口を開いた。
「でも、その約束を破ったのは母さんじゃない」
姉はうなずいた。
「私なの」
空気が凍った。
「私が小さい頃、あの女に名前を呼ばれたことがあった。怖くて、母さんに助けを求めた。母さんは私を守るために、代わりにあなたを選んだの」
「私を……?」
姉は泣き崩れた。
「あなたが生まれたとき、母さんはあの女に約束したの。あなたを一生守るって。でも、あの女はあなたを自分の子どもだと思い込んでしまった」
そのとき、施設のスピーカーから声が流れた。
『違うよ』
あの女の声だった。
『この子は、最初から私のもの』
廊下の電気が一斉に消えた。
暗闇の中で、何かがゆっくり近づいてくる。
兄が私の前に立った。
姉が私の手を握った。
そして、暗闇の奥から白い手が伸びてきた。
人差し指が、私に向けられる。
「やっと思い出したね」
あの女が言った。
「あなたが生まれた日、私はあなたを迎えに来たの」
スマホが震えた。
画面には、残り時間が表示されていた。
そして、その下に新しい文字が浮かび上がった。
『最後に選ぶのは、あなた』
「私に何をさせたいの……?」
あの女は、ゆっくりと首を傾けた。
「あなたが助けたい人を、一人だけ選んで」
その瞬間、スマホに三つの名前が表示された。
兄。姉。私。
母の声が、どこからか聞こえた。
「お願い……誰も選ばないで」
私は画面を見つめた。
そして、気づいた。
今まであの女に指差された人は、みんな亡くなっていた。
でも、ひとつだけ違うことがある。
あの女は、いつも最後に私を見ていた。
まるで、私に何かを伝えようとしているように。
私は震える手でスマホを握りしめた。
「もう、誰も犠牲にしない」
その瞬間、施設全体が大きく揺れた。
遠くから、山が崩れるような音が聞こえた。
そして、あの女が初めて怒った。
「それだけは、許さない」
スマホの画面が真っ黒になった。
そこに映った私の顔。
その背後に、もう一人の私が立っていた。
「あなた、本当に生きていると思ってる?」
#連載小説
観察者
310
椿
27
コメント
1件
うわっ、最後の一文、めっちゃ鳥肌立った…!「あなた、本当に生きていると思ってる?」って、今までの話の前提全部ひっくり返すような衝撃だったよ。 姉が「私が選んだ」って告白するところも、兄があの“母”じゃないって見抜くのも、どのキャラもそれぞれの闇抱えてて切ない。誰も犠牲にしないって選んだ主人公、かっこよかったけど…その先が気になりすぎる🥀 続き、絶対読むね。