「くそ…どうすればいい?」鋼谷は額から滴る汗を拭いながら、自分に問いかけた。虚王の「反転の領域」はすべての行動を逆転させ、攻撃も逃走もすべて自身に跳ね返る。まともな戦い方では勝てる見込みがない。
虚王は少し離れたところで余裕の笑みを浮かべていた。
「どうした、鋼谷。まさかここで諦めるのか?お前らしくない。」
鋼谷は拳を握り締めながら、一瞬立ち止まった。そして、ふと笑みを浮かべる。
「なるほど…この領域では行動がすべて反転するってことだな。なら、逆手に取ってやる。」
鋼谷は突然、その場に座り込み、深呼吸を始めた。虚王が眉をひそめる。
「何をしている?」
鋼谷は答えず、自分の肩を抱きしめ、目を閉じて静かに言葉をつぶやき始めた。
「鋼谷、お前はよくやってるよ。本当に頑張ってる。こんな状況でも生き抜こうとしてる。お前は強い、俺はそう信じてる。」
その行動を見ていた虚王は、一瞬あっけに取られるが、すぐに笑い声を上げた。
「ははは!お前、自分を慰めることで状況を打破するつもりか?滑稽だな!」
だが、その瞬間、空間全体が揺らぎ始めた。虚王の笑い声が止まり、周囲の異変に気づく。
「この領域では行動が反転する…つまり、自分を慰める行為が反転すれば、敵を攻撃することになるんじゃないかってな。」
鋼谷が静かに立ち上がると、虚王は額に手を当てて苦悶の表情を浮かべていた。彼の体が急激に崩壊していくように見えた。
「馬鹿な…そんな…!」虚王は声を震わせた。
「お前は自分を慰めるだけで…私にダメージを…?」
鋼谷は冷たい目で虚王を見下ろす。
「お前のルールが反転するなら、俺が自分を大切にする行為は、お前を壊す行為になるってことだ。」
虚王の体は完全に崩壊し、「反転の領域」も元の空間に戻っていった。鋼谷は深呼吸をしながら立ち尽くし、静かに空を見上げた。
「なんだかんだで、自分を慰めるのが最強の戦略になるとはな…」
皮肉めいた笑みを浮かべ、鋼谷は再び歩き始める。その目の前には、崩壊しかけた支部の出口が見えていた――。