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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第135話:極上カレーの匂いが呼ぶ森の宴。神獣の「待て」と野生動物の生態系セミナー
限界集落の畑で収穫された、規格外の夏野菜と大豆ミート。
それらを使って俺が錬成した『究極の無水極上カレー』が放つ凶悪なまでの香気は、古民家の庭(ベルサイユ宮殿風)を満たし、さらには十勝の広大な大自然の奥深くまで風に乗って広がっていた。
鍋の前に正座する巨大ヒグマやキツネ兄弟たちが、感動の唸り声を上げながら極上の味に舌鼓を打つ中、俺の需品科としての索敵センサーが、周囲の『異変』を捉えた。
サワサワサワッ……! ガサガサッ!!
風もないのに、裏山に続く木々が不自然に大きく揺れ始めたのだ。
「え……? お兄さん、なんか山の方からすごい音がしませんか?」
小春ちゃんが、スプーンを口に運ぶ手を止めて裏山を指差した。
「あぁ。どうやら極上カレーの揮発した旨味成分が、広範囲の索敵アンテナ(野生動物の嗅覚)に引っかかったようだな」
俺の言葉と同時に、ベルサイユ庭園の美しく刈り込まれた生垣を掻き分けて、次々と『招かれざる客たち』が姿を現した。
立派な角を生やした、巨大なエゾシカの群れ。
ぽんぽこに太ったエゾタヌキの家族連れ。
長い耳をピンと立てたエゾユキウサギに、コン吉たちの仲間である野生のキタキツネたち。
その数、ざっと五十匹以上。
普段は決して交わることのない多種多様な野生動物たちが、凶悪なカレーの匂いに理性を焼き切られ、完全に『森の動物大集結(オールスター)』の様相を呈して庭を埋め尽くしたのだ。
「ひっ!? シ、シカさんにタヌキさんまで!? さすがにこれだけの数が一気に来たら、パニックになりますよ!!」
小春ちゃんが顔を青ざめさせる。
無理もない。野生の本能を剥き出しにした動物たちが一斉にカレー鍋に殺到すれば、大暴動は免れない。
だが、彼らは寸胴鍋の三メートル手前で、ピタリと魔法にかけられたように動きを止めた。
「ミャウ(騒ぐんじゃないわよ。大人しく待ち、列を作りなさい)」
縁側の特等席から、純白の神獣シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細めながらスッと立ち上がり、眼下に集まった森の動物たちを見下ろしながら、右の前足をピンと前に突き出したのだ。
それはまるで、犬に対する「待て」のハンドシグナル。
あるいは、オーケストラを統率する指揮者のような、絶対的な支配者のポーズだった。
その瞬間。
巨大なエゾシカが前足を揃えて膝を折り、タヌキがお行儀よくちょこんと座り、ウサギたちは直立不動の姿勢をとった。
すでに我が家のレギュラーとなっている体長3メートルの巨大ヒグマに至っては、「グルォ(俺の家ではこうやって待つんだぜ)」と新参者たちに手本を見せるように、背筋を伸ばして見事な正座を決めている。
ジンバルに固定されたiPhone miniのカメラが、この奇跡の光景を全世界へと生配信し、一千万人の同接チャット欄は熱狂の坩堝と化した。
『うおおおおおおおお!!! なんだこの光景!!』
『リアル・ディズニー映画www プリンセス・シロ様!!』
『鹿が正座してるwww タヌキが前習えして列作ってるぞww』
『シロ様の「待て」一発で、森の生態系が完全統率された!!』
『どんな調教師も泣いて逃げ出すレベルの奇跡ww』
世界中のVIPたちも、画面越しの圧倒的なファンタジーに理性を失い、極彩色のスーパーチャットを乱れ撃ちにした。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! The true king of the forest! Shiro-sama has brought peace to the entire ecosystem!“(ハハハ! 真の森の王だ! シロ様が全生態系に平和をもたらしたぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”This absolute order! Our world needs a leader like Shiro-sama!“(この絶対的な秩序! 我々の世界にはシロ様のようなリーダーが必要だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Oh my God! Is this CG!? I want to hire all of them for my next fantasy movie!“(なんてこと! これCGじゃないの!? 次のファンタジー映画に彼らを全員雇いたいわ!)』
世界中が感動に包まれる中、俺は深くため息を吐いて立ち上がった。
「……全く。想定外の外部難民の流入だ。だが、需品科たるもの、常に兵站の余剰分を用意して予測不能の事態に備えなければならない」
俺は、スパイスを入れる前にあらかじめ取り分けておいた『野菜と大豆ミートの無水甘口煮込み』を、庭に並べた複数の巨大なタライに流し込んだ。
動物の胃袋に負担をかけないよう、完璧に計算された安全な特別メニューだ。
「よし、配給を開始する」
俺の言葉に合わせてシロが前足を下ろすと、動物たちは一切の争いを起こすことなく、整然と順番にタライへと歩み寄り、美味しそうに無水煮込みを食べ始めた。
「……お兄さん。ベルサイユ宮殿みたいな庭で、野生動物たちが一列に並んでタライのご飯食べてるの、完全に災害時の炊き出し(配給)ですよ」
小春ちゃんが遠い目をしているが、俺はいつもの定位置である折りたたみチェアに戻った。
そして、目の前で繰り広げられるメルヘンチックな炊き出し風景を背景に、自分の分の『玄米と大豆ミートの極上カレー』を、一切の表情を崩すことなくストイックに咀嚼し始めた。
「……あの、お兄さん。一千万人がこの奇跡の動物大集合に感動の涙を流している最高のタイミングで、なんで一人だけブレずに玄米カレーかじれるんですか!?」
小春ちゃんがツッコミを入れるが、俺は熱いほうじ茶で喉を潤し、涼しい顔で答えた。
「当然だ。難民キャンプの設営と食糧配給において、指揮官が己のルーティンを見失っては秩序が崩壊する。それに、大豆由来の代替肉のポテンシャルは、動物たちに囲まれても何ら変わることはないからな」
俺はカメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。シロが魔法のオーラで森の動物たちを統率し、リアル・ディズニー映画のような奇跡を起こしていると思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この圧倒的なファンタジー空間で、まだ言い訳するのかこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・森の動物大集結編ww』
『さあ、この正座して待つ鹿とタヌキをどう論破するんだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは魔法で動物を操っているわけではありません。最新の行動生態学に基づいた『野生動物の生態系セミナー』を試験的に実施しているだけです。スパイスの匂いで彼らを集め、一定の距離と秩序を保てば安全な食物が手に入るという『オペラント条件づけ』を行っているのです。シロが前足を上げたのは、視覚的なハンドシグナルに過ぎません。ええ、ただの『高度な野生生物との共存プログラムの実地訓練』が成功しただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、巨大寸胴鍋をかき混ぜるために使っていた『俺の腕ほどもある特大の木べら』で、俺の背中に完璧なフルスイング・スマッシュを見舞った。
「生態系セミナーってなんですか!! どこの世界に鹿とタヌキとヒグマが一緒にお行儀よく配給の列に並んで待つセミナーがあるんですか!! どう見たってシロちゃんの絶対的なオーラに完全服従して、もふもふの宴会を楽しんでるだけでしょうが!! 素直に『うちの猫は森の支配者だ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの特大木べらフルスイング炸裂ww』
『生態系セミナー(ただの炊き出し)』
『オペラント条件づけ(シロ様の圧倒的カリスマ)』
『適応力バグおじさん、ついにファンタジーを行動生態学と共存プログラムのせいにするww』
『言い訳のスケールが大学の講義レベルで草ww』
俺の理不尽極まりない学術的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの木べらツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を吹き飛ばし、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(いっぱいお食べなさいな)』
シロが縁側から慈愛に満ちた声で鳴くと、森の動物たちは嬉しそうに尻尾を振り、ヒグマは満足げに腹鼓を打っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。兵站の余剰分で村の生態系が守られるなら、悪くない投資だ」
俺は背中をさすりながら苦笑し、十勝の青空の下で繰り広げられる、カオス極まりない森の宴を見渡した。
大地の錬金術が生み出した極上の夏野菜カレーと、それを囲む規格外のもふもふたち。
そして、どんな奇跡が起きても決してブレない『需品科の言い訳』。
限界集落の古民家は、今日も世界一バグっていて、世界一温かい笑い声に包まれながら、伝説の夏祭りに向けてさらにヒートアップしていくのだった。
コメント
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めっちゃ面白かったです!! まさかカレーの匂いで森の動物たちが集結して、シロ様の「待て」で一列に並ぶなんて、ファンタジーすぎて最高でしたww しかも主人公が「生態系セミナーです」って真顔で言い訳してるのに、小春ちゃんの木べらフルスイングツッコミが決まって、もう笑いが止まらなかったです! シロ様のオッドアイの描写とか、配給シーンの圧倒的なカオス感、世界観の設計が細かくて本当に好きです。続きが待ち遠しい!