テラーノベル
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更新が遅くなってしまい申し訳ないです。
なかなか自分の納得のいく物が書けず、学校の課題を進めたりと忙しくなっていたため……
まだまだ長い物語になってしまうということもあり(最後どういう風に締めくくるか考えていないだけなんですけどね……)もう少しお付き合い下さい。
ゴールデンウィークが終わった5月初旬。学校ではすでに、9月に開催される文化祭に向けた準備が静かに始まっていた。
各クラスに一枚ずつ配られた「文化祭実行委員立候補用紙」。
廊下の掲示板には、すでにいくつかのクラスが候補者の名前を書き込み始めていた。
仁人のクラスでは、まだ誰も手を挙げていなかった。
ホームルームの終わり、担任が軽く言った。
「文化祭の実行委員、そろそろ決めたいんだけど、立候補したい人はいるか?」
──誰も手を挙げない。
ざわつく教室。そんな中、誰かが小さくつぶやいた。
「吉田くんとか、真面目だし向いてるんじゃない?」
「たしかにー。進行とかうまそう」
「クラス主演でもある“アリス”だしね~。目立つしいいんじゃない?」
──アリス、という言葉に、仁人はぴくりと肩を揺らした。
実は、クラスの出し物として決まっていたのは『不思議の国のアリスカフェ』。
客の誘導や盛り上げ役として“アリス”の衣装を誰かが着ることになっており、ふざけ半分で「吉田がやったら絶対似合う」という話が持ち上がっていた。
(別に目立ちたいわけじゃないのに……)
俯いた仁人の横から、太智が立ち上がった。
「ほな、うちやるわ」
──一瞬、教室が静まり返る。
太智は、笑いながら続けた。
「こーゆーのおもろそうやし、誰もせぇへんのなら名乗ったる。せやけど、一人やと不安やから……仁人、一緒にやろ?」
仁人は、驚いたように太智を見た。
「え……僕?」
「うん。仁人なら、きっと頼りになるし。……うち、あんま段取りとか得意ちゃうから、サポートしてくれたら心強いな~って」
クラスの数人が、軽く拍手をしながら同意の声をあげる。
「ふたりともありがとう!」「吉田くんが一緒なら安心!」
──そうやって、自然な流れで、二人は実行委員に決まった。
その日の放課後。
実行委員に立候補した生徒たちが、図書室横の小さな会議室に集められていた。
初回の顔合わせ、連絡先交換や役割の確認。
太智は、ずっと仁人の隣に座っていた。
「……仁人、ごめんな。うち、ちょっと勝手やったかも」
「え?」
「ホンマは、仁人が推薦されそうになってたん、気づいてたんやけどな…。ちょっと顔が曇ってたから、無理にやらされるくらいなら、一緒にやった方がええかなって思ってん」
仁人はしばらく黙っていたけれど、小さく笑って頷いた。
「……ありがとう、太智くん」
「んふふ、素直に感謝されたら照れるやんか~」
そのとき、仁人の胸に不思議な気持ちが芽生えていた。
あの夏、「だいちゃん」と呼んだその人が──
今、「仁人」と呼んでくれる。
きっと、太智はまだ気づいていない。けれど。
(…いつか、思い出してくれるかな)
仁人は、少しだけ前を向けた気がした。
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