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白山小梅
白山小梅
12
人形みたいにシーツに縫い付けられた身体と、あたしを組み敷く柊。濡れたアイスブルーの瞳はどこまでも澄んでいて、知っているけど知らない人みたいだ。
はらり。柊の肩に掛けられていたタオルがあたしの胸元に落ちる。
少し湿ったそれは、火照った熱を醒ますにはぬるすぎた。
友人に向けるそれでもなく、ましてや、恋人に向けるそれでもなく。静かな怒りと、引力を宿したアイスブルーの瞳に、喉の奥がびりびりと震えた。
あたしが知っているあの甘い香りはシャワーで流されてしまったのか、一滴もしない。
「なに、してんの」
「気が変わった」
「はあ?どうでもいいから離れ、……んっ」
ちっとも効力のない言葉は、驚くほど柔らかいくちびるが塞いだ。
突然触れてくる感触に疑問を抱くひまもなく、あたしの呼吸を一度乱した柊は、もう一度角度を変えてくちづけるので、今度こそ、その行為を理解した。
え、え?なんで、なんで?
──あたし、柊と、きす、してるの?
次から次へと沸き立つ疑問は、柊のくちびるが軽く拭っただけでどこかへ消えていく。
はむ、と下くちびるを挟まれ、次第に深くなってゆく口づけ。
「おまえ、あますぎな?」
柊はあまったるい言葉を鼓膜に流し込むと、ちゅう、と耳たぶに吸い付いた。耳元にいた柊のくちびるは、すぐにあたしのくちびるを塞いで、為す術なく口付けを交わす。薄いくちびるのくせにやわらかいし、たまにゆったりと歯列をなぞる舌先はあったかい。
キスを受け入れた瞬間から、その先のプロセスに至るまでは早かった。というか、キスされながら、服はほとんど剥がされてしまい、気付けば下着姿になっていた。あたしもほぼ無意識のうちに、柊の背中に腕を回していた。
たまに下くちびるを甘噛みされ、耳たぶも同じように噛まれ、乳首を優しく撫でつけられながら、肩口を噛まれ。
自分でも分かるくらい、ショーツは湿っていて、じんと疼く下腹部に、あらゆる快楽の熱が溜まっていく。それを掻き出すように、音を鳴らしながら、あるいは蜜を吸いながら、柊の指があたしのナカを嬲る。
……こんなの、色々と聞いてない。情報過多で、触れられている最中のあたしときたら、頭がぱんくしそうだった。
……これ、もしかして、夢、とか、かな。
そっちの方が合点がきく。だって、あたしは本当に、ワンナイトはしない派だ。きちんと段階を踏む派だ。
初めて会った男性とホテルに行くこともないし、一度デートして付き合いを決めるのが、いつものあたしなのだ。
それに柊だって、” なにもしない “って言ったもん。あたしなんかに柊が手を出すはず、ないんだもん。
今日を切り抜いてみれば、全部、フソクノジタイってやつだ。
もし夢なら、一夜だけの夢であったら、砕け散った片想いの相手に身体を許しても良いかな。
ひとさじの甘さもくれない苦い思い出も、ほんの少しだけ、良い思い出に消化できるかな。
「…っあ、やだやだ、そこ、やだ…っ」
「はいはい、ここね。柴崎、痛くするの好き?」
「い、たく、ない、ひいらぎの指、きもちい、あ!」
「あーあ……お前ぐずぐずじゃん。一昨日まで彼氏居たんでしょ。誰とでも寝るわけ」
「ちがっ……も、あっ、あん!」
肩に脚を掛けられたと思うと、先端が侵入した。その工程でさえ、柊はあたしにキスを落としてくるから、どっちに意識を集中させていいのか、わからなかった。熱くて、硬いそれは驚くほど優しく捩じ込まれ、下腹部がきゅうっと収縮する。
「んー……っんん、あっ、」
「ねえ、だれに教わったの?まじでムカつく」
「やだ、やだやだ、見ないで……って、や、あ!」
「見るなとか、無理言うなっての」
あたしの口答えを許さず、柊はたまに手首を噛んだり、その場所を舐めてしるしを残したり、首筋を吸い付いてきたり。
あたしを穿つ熱と共に、身体中に痕跡を残した。
胃に残るアルコールをかき混ぜるように、ぐらぐらに身体を揺さぶられ、思考回路がストップする。
もう、” 気持ちいい “しか考えられない。
「あとでちゃんと風呂入ろっか。俺、一緒に寝る女が風呂入んないのも無理すぎ」
「お、ふろ…ぅ、あぁ、っ」
「ん。一緒に入る?で、そのあともっかいする?」
「休憩って言った、から、ちゃんとお家、かえる」
「ばーか。最初から、宿泊にしてるっつぅの」
そのあと帰ろうな、とかいいつつ、キスと一緒に落ちてきたのは、飲み会の時の、ルイくんみたいな笑い声だった。
───気持ちの篭っていない笑い声だった。
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