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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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黒視点→青視点
「あにき助けて!!!」
叫びに似たような珍しい声が響き、思わず顔を上げた。
ミーティングルームを借りて一人で悠長にノートパソコンを開いていたところだった。
大声と共に、室内にまろが飛び込んでくる。
昨日それなりに落ち込んでいた人間と同一人物とは思えないほどの変わり様だった。
「…えぇ…何、どしたん」
嫌な予感しかしない。
昨日の夜、態度のおかしかったまろを連れ帰ってうちで酒を飲んだ。
ライブも近いわけじゃないしいいだろう、そう思って勧めた酒はまろの堅い口を割らせるには十分だった。
だから大体の事情は分かる。
だけど今のこの騒ぎは何だ?
「あいつ絶対頭おかしいって!」
真ん中にある会議用の長い机を回避して、椅子に座っている俺の傍まで走り寄ってくる。
「『あいつ』?」
聞き返した俺にまろが何かを答えようとしたとき、バンっと大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。
押し開かれたそれは、そのままその先にある壁にぶつかりそうなほどの勢いだった。
「いた、まろ!」
「ひ…っ」
弾丸のごとく部屋に突入してきたピンクの髪に、まろが悲鳴にもならないような声を上げる。
俺の後ろに隠れるようにでかい図体をかがめた。
「あにきちょっとそこどいて!」
同じように長机を回避して、こちらに回ってこようとするないこ。
それを避けるように、相手の出る方向を見定めようとして左右に身を振るまろ。
そんな2人に挟まれて、俺は尚もこの状況を呑み込むことができない。
「話しようって言ってるだけじゃん、何で逃げるんだよ」
「お前俺が昨日言うたこと聞いとった!?」
「50の俺はいらないんだろ、聞いてたよちゃんと。だから話しようっつってんのに」
「怖い怖い怖い、あにき、あいつ日本語通じてない!」
俺の椅子の背もたれを掴みながら、まろがこちらに縋るような声を寄越す。
…あー、大体分かった。
自称サイコパスと本物のサイコパスの攻防戦か。
俺が胸の内で妙にそう納得した時、ないこが床を蹴った。
長い机を回り込み、こちらに走り寄ってこようとする。
「…あ!」
その瞬間、まろが机に手を突いた。
そのままひらりとジャンプして、悠々とハードルか何かのように机を飛び越えてしまう。
…低めの机ではあるけれど、こうも軽々と越えられるのはまろの身長と手足の長さがあってこそだ。
「逃げんなまろ!」
「うっさい、逃げるに決まっとるやろ!」
珍しく子供組よりも退行したような2人のやり取りを、俺は黙ったまま見守る。
小学生男子のような騒ぎ方に俺が呆れて小さく息をついたのと、まろが部屋を飛び出して行くのが同時だった。
「…この…っ」
ないこがまた追いかけようとする。
そうして踵を返そうとしたピンク頭に、俺は「ないこ」と低めの声で呼びかけた。
「……」
眉間に皺を寄せてないこが振り返る。
そのピンクの目を見据えながら、俺は顎で隣の椅子を指し示した。
「おすわり」
「……わん」
俺の声から威圧感を覚えたのか、それとももう今から追ってもまろは捕まえられないと諦めたのか…ふざけた犬の真似をして、ないこは走り出そうと前のめりになっていた姿勢を戻した。
重心を戻し、大人しく言われるがまま俺が示した椅子を引く。
「何しとるん、お前ら」
座るないこにそう尋ねると、椅子に背中を預けた態勢であいつは長すぎる足を組んだ。
上になった右足の膝を両手で抱えるようにして、首を捻る。
「あにきは何をどこまで知ってんの?」
質問に質問で返される。
テーブルに頬杖をつき、俺は開いていたノートパソコンを少し脇へ避けた。
「昨日あったことなら、大体聞いた」
「……」
俺の返事に、ないこは面白くなさそうに唇を歪めてみせる。
「聞いたなら大体分かるでしょ、こっちは話しようって言ってんのにあいつずっと朝から逃げ回ってんの」
「…話したいっていうんは分からなくもないけど…50のないこはいらんって言われたんやろ?」
昨日のまろの話を思い出しながらそう口にする。
すると今度はないこは唇だけでなく眉も顰めてみせた。
「それ」
「『それ』?」
「それ言われたときさ、最初はさすがにちょっと凹んだんだけど」
「最初」という単語を少しだけ強調するように言う。
「後から段々腹立ってきて。『いらない』って何、いらないって。いらないって言われるとさ、『いる』って言わせたくなるじゃん」
「……は…?」
ないこのぶっ飛んだ性格には慣れたつもりでいたが、まだまだだったみたいだ。
思わず目を瞠って、ぽかんと口を開けてしまう。
…今こいつ、なんて言うた…?
「ないこ、確認するけど…まろがお前のこと好きなんやんな? お前がまろ好きなんちゃうよな?」
「そうだね」
「何で逆になっとるん!? 何でお前がまろを追いかける展開になっとるん!?」
「逃げられると追いたくなるよね、人間って」
「いやおかしいおかしい」
思わず頭を抱えたい衝動に駆られる。
え、どこでどうしてこうなった?
まろが不気味がって逃げる気持ちも分からなくはない。
「最初はさ、まろの気持ちには答えられなくても仲間として今まで通りの関係を続けたかった。でもまろはそうじゃないんだよ。あいつ0か100かしかない。他人行儀な仕事仲間に戻るか、恋人同士になるかしかないみたい」
「…そらそうやろ、告白するときってそういうもんちゃうん」
「だから考えたんだけど…」
ないこが何かを言いかけたとき、部屋のドアがノックもなしに開かれた。
中を覗き込む水色の目がないこを視界に捉え、「あ、ないちゃんここにいた」と言葉を投げかけてくる。
「いふくん、向こうの作業室にいたよ。なんかないちゃんが来てもいないって言えって言ってた」
ほとけがそう言うや否や、ないこがガタンと椅子から立ち上がった。
脱兎のごとく走り出し、瞬きするほんの少しの間にもう部屋を飛び出していく。
「いないって言えって言われて何で言うん、お前」
ないこの後ろ姿を見送るほとけに、俺はそう尋ねた。
「え?」とすっとぼけた表情で、あいつは俺を見据える。
「なんかおもしろそうだったから。いふくん珍しく本気で慌ててたし。あの2人何があったの?」
「……知らん」
悪気もなさそうなほとけの言葉に、俺は首を竦めてそっぽを向くように窓の外に視線を送った。
ないこから逃げてミーティングルームを飛び出し、作業室で動画の編集をしていたほとけの影に隠れた。
なのに、しばらくして何気なく作業室を出ていったほとけ。
それと入れ替わるように入ってきたのは今避けたくて仕方がない、ないこ張本人だった。
その姿を視界に捉えた瞬間、ほとけが俺の居場所を告げ口したのだろうということに気づく。
「…あいつ…っ」と舌打ちまじりに呟くと、ないこはそれに構うことなく部屋の中へと入ってきた。
一歩、一歩と距離が詰まる。
「0か100かしかないのか」と俺に怒りまじりに言葉を投げつけたあいつに、「50のないこならいらない」と俺が反撃したのはつい昨日のことだ。
そもそも俺は、好きだというこちらの気持ちを伝えたところでそれが受け入れてもらえるなんて微塵にも思っていなかった。
ただ伝えたかっただけ。
そうして忘れなきゃいけないという現実を見つめたかっただけ。
だから俺には、0か100かしかなかった。
仕事に支障が出ないようにこれまで通り接するのは社会人として当然だけれど、それ以外の面で何もなかったかのように振る舞うのはさすがに無理だ。
そこまで自分に強いるのはいくら何でもできるわけがなかった。
俺だって、結局は自分が傷つくのが一番嫌で保守的になることもある。
だから、一番曖昧な50の位置に立たされるのが嫌だった。
告白をしたはずなのに、それが全てなかったかのように今までの友人・仲間のように扱われる位置。
俺がお前を忘れる努力は必要だと思うけれど、お前に何もなかったようにされるのは嫌なんだよ。
そんなの、俺のエゴだということも分かっているけれど。
そんな八つ当たり交じりの言い分が通っていいわけがないことは自分でも分かっている。
だから「いらない」という突き刺すような言葉がないこを傷つけただろうことも自覚していた。
ないこはきっと、もうこれで俺に不必要に近寄って来ないだろう。
…そう、思っていたのに。
「いい加減逃げんのやめろよ、まろ!」
…何で、どこで間違ってこうなった。
ないこの大きな声が耳朶を打つ。
作業室の奥へと追い込まれ、さっきのミーティングルームのようにテーブルを飛び越えて逃げるなんてこともできそうになくて、俺は一歩後ろへ下がった。
じり、と踵が床を擦る音がする。
「話しようって言ってるだけじゃん」
朝からずっと同じ主張を繰り返す掠れた声が、観念しろとでも言いたげに低くなる。
…ありえない。本当に怖い。
ここまで人の感情を汲み取れないヤツが他にいるだろうか。
俺はお前に告白してフラれたばっかりなんだけど?
そっとしておいてくれる優しさもないのかよ。
話したいことなんてもうこっちには皆無だ。
「話は昨日終わったやろ」
パソコンのモニターの後ろに回り込み、少しでも距離を取ろうとする。
下がる分だけ距離を詰めてくるピンクの髪が、左右に振られた。
「お前が言いたいこと言っただけじゃん。俺まだ何も言ってない」
「0か100かしかないんか、って偉そうに言うとったやろ! その通り俺には0か100しかないねん! だからもう放っといてくれよ」
大騒ぎする配信時のように声を荒げる。
一瞬真顔で黙り込んだないこは、そのまま俺の目をまじまじと見つめ返した。
そしてそれから、「やだね」と短くさも当たり前のように呟く。
「昨日まろに50の俺ならいらないって言われて、凹んで、腹立って、一晩考えたんだけど」
一度言葉を切りながらも、目線を決して逸らさない。
そこに宿る光は真剣そのものだったけれど、その奥底には確かにキラキラと輝く光があるのを見逃さなかった。
仕事で何かおもしろいことを思いついたり、楽しいことを考えていたりするときのいつものないこの目だった。
「俺と試しに付き合おうよ、まろ」
「…………は?」
突拍子もなさすぎる目の前の男からのそんな提案に、余裕で返事が遅れた。
数秒は沈黙が下りていたと思う。
それでもその沈黙を何とか破ったのは、実に間の抜けた文字一つだけだった。
…こいつ今、何て言うた?
付き合おうって言った?
試しにって?
……何のために?
脳内にいくつもの疑問が次々に浮かんでいく。
答えが出る間もなく、ないこが言葉を継ぐ方が早かった。
「何事もやってみないと分かんないじゃん。付き合ってみることで、もしかしたら俺の中で0か100かはっきりするかもしれないし」
ないこのバカみたいな理由づけに、俺は呆気にとられて目を見開くことしかできない。
「もしかしたら逆に、まろの方が『50でいい』って考えを改めるかもしれないじゃん」
…だからって…だからって、好きでもないヤツと付き合おうとする?
ないこの考えはいつも群を抜いていて、そうであるからこいつがグループや会社を成功させてきたということは分かっている。
それでも、プライベートな面でもこんなぶっ飛んだ思考を提示してくる奴だとは正直思っていなかった。
「…ないこ、お前そもそもノーマルやん? 男と付き合えるん?」
まともに言い返したところできっと無意味だ。
暴走し始めたこいつはいくら俺でもなかなか制止することはできない。
もっと根本的で肝心なところに話をすり替え、俺はそう尋ねた。
問われたないこの方は、一瞬目線を泳がせるようにぐるりと周囲を見渡してから、もう一度俺の正面で止めた。
「無理だね、多分」
「……」
きっぱりと返ってきた言葉に、一瞬胸がズキリと痛んだ気がした。
…だったら何でこの提案?
そう問い返そうとしたけれど、ないこが言葉を続ける方が早かった。
「男と付き合う選択肢は今まで考えたこともなかったし、無理な気がする。でも、まろと付き合うのは無理じゃないかもしれないじゃん」
続いたそんな言葉の羅列に、俺はもう一度大きく目を見開いた。
「…何が違うん」
「全然違うじゃん。じゃあ何、まろは男が好きで、誰でもいいから付き合いたくてたまたま俺を選んだわけ?」
「…っそんなわけないやろ…っ」
「それと一緒だよ。俺だって男と付き合うつもりはないけど、まろとなら分かんない。だから試しにって言ってんの。なんかおかしい?」
おかしいことだらけやろ。
お前がそこまでする理由は何?
ただおもしろそうやから?
ただでさえ忙しいんだから、告白してきた人間にいちいちそんなに真面目に取り合う必要はないだろう。
何がお前をそこまで突き動かすんだよ。
「まろはさ、俺に告白してきたわけじゃん。自分の想いをぶつけておいて、俺が提案すること全部否定して逃げるのは違くない?」
目を細めて笑うないこのこの表情は、痛いほど知っている。
もう何を言っても無駄な、心を…この後の展開を全て決めてしまっているときの顔。
「まろが俺の提案に応じるのはお前の『権利』じゃなくて『義務』だよ。自分だけ気持ちを伝えて、すっきりしたからはい終わりなんて無責任なこと俺が許すと思う?」
人によっては「妖艶」と評するかもしれない笑みを浮かべて、俺を正面から見据えるないこの目。
その艶やかな視線に飲まれるように息を止めたせいで、ないこに応じようとした言葉はどれも声になって発出されることはなかった。
コメント
2件
この追いかけっこシーン本当に大好きなんです…😭💕 もう待ってました!!としか言いようがないくらいです…😖✨ さらっと青さんを裏切る水さんも面白くて好きなんですよね🎶 桃さんのぶっ飛んだ考えにはもう流石としかいえないです…権利ではなく義務…こんなワード中々出てこないですよ…👉🏻👈🏻✨✨ どうやってそのワードセンスを磨いているのですか…、!?😖💘 癒しをありがとうございますっඉ_ඉ