テラーノベル
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雨粒が窓を叩く。すっかり梅雨の季節になった。
目覚ましと共に起床する。眠い目をうっすら開けてスマホを確認すると、そこには見慣れたメンツからのメッセージ。
いつもと変わらない光景だが、1ヶ月ほど前からその通知欄に新しい人物が加わった。
トーク画面を開くと、例のスタンプが『おはよう』と吹き出しを出していた。
あの時は言わなかったけど、このスタンプのチワワって吉田くんに似てるんだよな。きゅるきゅるした目とか。
あの日から俺たちは、ほぼ毎日連絡を取り合っている。毎朝、吉田くんから送られてきたスタンプを確認するのが日課になっていた。
大きな欠伸をして、起き上がる。
着替え、洗顔、歯磨きなど一通りの事を済ませて食卓についた。
BGM代わりにニュースを見て、朝ごはんを平らげる。家族に「行ってきます」と伝え、傘を手に持ち家を出た。
雨は嫌いじゃないが、やはり梅雨は少し気持ちがどんよりしてしまう。頭がボーッとしていつもより時間が長く感じる。
早く学校終わらないかな。
吉田くんは、今何してるのかな。
そんなことを考えていた俺を見透かしていたかのように、教卓にいる先生から朗報が届く。
「えー、この後の体育ですが、雨でグラウンドが使えず、体育館の利用予定も詰まっているので、隣のA組と合同でバスケになりました。」
先生からの知らせに、文句を言う者、盛り上がる者、何も動じない者と様々だったが、俺は喜びを噛み締めていた。
やはりクラスが違うと言うだけで、学校生活で吉田くんと関わる機会は中々ない。
そんな中で訪れた、絶好の機会だった。
いつもの顔達と連れ立って体育館へ向かう。
するとそこには、既にA組のみんなが整列していた。
列の一番後ろに吉田くんの姿が見える。
それに気付いた俺は、嬉しくなって走り出した。
「吉田くん!!」
「……あ、佐野くん!」
俺が声をかけると、吉田くんの顔も晴れやかになる。俺たちの距離はすっかり縮まっていた。
「まさか、合同で体育なんてね。俺、聞いた時ラッキーって思ちゃった。」
「ふふっ、そうなんだ。」
「吉田くんは?俺と授業一緒って知った時、嬉しかった?」
「べっ、別に…………普通…////」
少しからかうと、吉田くんは恥ずかしがってそっぽ向いてしまった。
拗ねるだろうから言わないけど、吉田くんって凄くからかいがいがあるというか……。
反応が見たくて、ついからかっちゃうんだよな。
「勇斗~。そいつ誰~。」
吉田くんと話していると、一緒に来た連中に絡まれる。
まずいな、こいつらと吉田くんをあまり関わらせたくない。
「何でもないって。ほら、行くぞ。」
そいつらの肩を抱き、無理矢理にでも吉田くんから遠ざける。
自分達の列へ向かう途中、後ろを振り返り「またね」小さく手を振ると、吉田くんも小さく振り返してくれた。
準備運動を済ませ、シュート練習に入った。
運動神経が割と良い俺は、ほぼ外すことなくシュートを決めていく。
ふと隣のゴールを見ると、ちょうど吉田くんが練習していた。
ぴょんぴょん跳ねて、一生懸命ボールを投げているけど全く決まっていない。
もしかして、吉田くんって運動苦手……?
「吉田くん、調子どう?」
「佐野くん…。あー、実は俺あんまりこういうの得意じゃなくて笑」
「教えてあげよっか。」
「えっ?…いいの?」
「俺運動得意だし。ほら、ボール持って構えてみて。」
ボールを渡すと、ぎこちない動きでラインに立つ。何か動き硬いんだよなぁ……笑
「そんな力まなくていいよ。肩の力抜いてみて。」
「こ、こう……、、?」
「そうそう。肘は閉めて、足もうちょい開いた方がいいかも。ボールはしっかり持つと言うより指で支える感じかな。で、あとは」
「まっ待って、佐野くん!!」
「……ん?どしたの?」
「ちょっと……近すぎる?、、かも?…//// 」
「…………っあ!!ご、ごめん!!!俺、夢中になってて…。」
教える事にすっかりのめり込んでた俺は、吉田くんのすぐ後ろに立ち、手やら肩やら足やら色んな所を触っていた。
「だ…大丈夫!!…………えっと、今教えてくれた事を意識してシュートしてみるね。 」
そう言いながら放たれたシュートは、綺麗な放物線を描きリングをくぐった。
「わっ!!、、入った……。」
「やった!吉田くんナイスシュート!!!ほら、ハイタッチ!!」
吉田くんの目の前に両手を広げる。
一瞬驚いた顔をした吉田くんだったが、少し恥ずかしそうにしながら、俺の手をぺちっと叩いた。
あーー、楽しいな。なんで俺たち違うクラスなんだろう。吉田くんと同じクラスが良かったなぁ。
その後、コツを掴んだ吉田くんは何本もシュートを決めていた。
俺も自分の場所に戻り、練習を再開する。
暫くして、先生から集合がかかる。いよいよ次は、練習試合が始まるみたいだ。
練習試合なんてこの授業でみんなが1番楽しみにしていた事だろう。
ほとんどの生徒がやる気満々で準備している中、吉田くんだけは隅っこの方で体育座りしていた。
「あれ、吉田くん練習試合参加しないの? 」
「うん。俺、体力無くてさ。最後まで試合できないだろうし。先生に練習試合だけは見学するって伝えてあるから大丈夫だよ。」
「そうなんだ……。じゃあ、俺のかっこいい姿見といてね!」
「もー分かったから笑 ほら、早く行きなって。試合始まるよ。」
慌ててコートに入ると、試合開始のホイッスルが鳴った。
やっぱり俺も男なわけで。スポーツも好きだし、競うのも嫌いじゃない。
これまでのウォーミングアップで既にエンジンがかかっていた俺は、積極的に動いていく。
シュートは勿論、パスやボールカットなど縦横無尽に動き回って汗だくになっていた。
試合も終盤。ドリブルで攻め込み、フリーの仲間へ勢い良くパスを出そうとした。
その時、
俺の手から投げられたボールは、汗で滑り全く違う方向へ飛んで行ってしまった。
ヤバいと思いボールの方へ顔を向ける。飛んでったボールの先にいたのは吉田くんだった。
「吉田くん!!!!危ない!!」
「わっ!!……あっ、、いったぁ…………。」
ボールが体育館の壁に激しくぶつかる。ボールとの正面衝突は避けてくれたようだが、足首を抑えて蹲っていた。
慌てて駆け寄り、吉田くんに声をかける。
「大丈夫!?!? 足怪我した!?」
「だい、じょうぶ……だよ。……あっ、いたっ……。」
吉田くんの上履きと靴下を脱がせると、足首が真っ赤に腫れ上がっていた。
「…さっきボール避けた時に捻ったの!?」
「うん、、でもこれくらい平気だよ。一人で保健室行ってくるから……。」
「ダメだよ!こんな足じゃ歩けないでしょ。俺が責任もって保健室まで連れていく。ほら、掴まって。」
「…………う、うん…。」
吉田くんの腰をしっかり抱き、体重を俺に預けさせる。足を引きずりながら歩く姿を見て、胸が痛めつけられた。
保健室に着き、ドアを開ける。だが、そこには誰もいなかった。
「こんな時限って先生留守かよ…………。」
「佐野くん、もうここまでで大丈夫だよ。ありがとう。俺先生来るまで待ってるから。」
「駄目。そういうのは早く手当しないと。はい、ここに座って。今から手当するから。」
吉田くんを椅子に腰掛けさせ、引き出しから湿布と包帯を取り出す。
すぐ近くにしゃがみこみ、手当を始める。
白い肌が真っ赤になっていて、とても痛々しい。
お互い何も言葉は発さない。時計の針が動く音だけが、まるで心臓の音のように響く。
包帯の巻終わりをキツく結ぶと、俺は息を吐いた。
「よしっ……これで一先ずは大丈夫かな。」
「………………ありがとう。」
「あくまでも簡易的だからさ、この後病院行って見てもらった方が……、、」
不意に顔を上げると、吉田くんと視線がぶつかる。近い。鼻と鼻が触れ合ってしまいそうなくらい。近すぎるはずなのに、お互い視線を逸らすことが出来ない。
吉田くんの肌、本当に綺麗だな。
唇も結構ぽてっとしている。しっとりしていそうだけど、毎日ケアしているのかな。
触ったら気持ちよさそう。
吉田くんは…………そういう経験あるのかな…。
「あら、怪我人?」
「「うわっ!!!!!!」」
知らないうちに戻ってきた先生の声で、二人一緒に飛び上がる。
「ごめんね~。先生急用だったの。ほら、あとは私がやるから。あなたは授業戻りなさい。」
「あ…はい。じゃ、じゃあ、吉田くん。お大事に、ね?」
「う、、うん、。ありがとう……。」
破裂しそうな心臓を抑え、上がった体温を誤魔化すように全力疾走で体育館へ戻る。
間近で見た吉田くんの顔が頭から離れない。
俺…………さっき何考えた……?
コメント
1件
めっちゃいいですね〰️笑 さのじんおたく、最高です!