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――誰かが、俺を呼んでいる。桜「蘇枋!」
遠くから聞こえる声。
桜くんだ。
返事をしようとした。
けれど、声が出ない。
身体がひどく重い。
まぶたを開けようとしても、うまく力が入らなかった。
蘇枋「……桜、くん……」
自分では声にしたつもりだった。
でも、実際にはほとんど音になっていなかった。
桜「蘇枋! おい!」
近づいてくる足音。
その直後――
敵モブ「今だ!」
知らない声が響いた。
蘇枋「……?」
何かがおかしい。
意識がぼんやりしていて、状況が理解できない。
誰かに身体を支えられる。
桜「おい、待て!!」
桜くんの声。
怒っている。
すごく。
桜「蘇枋を離せ!!」
俺を支えていた誰かが動く。
身体が揺れる。
蘇枋「……っ」
目を開けようとする。
けれど、視界はぼやけたままだ。
桜くんがこちらへ走ってくるのが、かすかに見えた。
桜「蘇枋!!」
伸ばされた手。
あと少し。
届きそうだった。
なのに。
蘇枋「……ごめん、桜くん」
そんな言葉が頭に浮かんだ。
次の瞬間、視界が暗くなった。
次に目を覚ましたとき。
そこは知らない場所だった。
蘇枋「……」
ゆっくり目を開ける。
薄暗い。
静かだ。
身体を起こそうとする。
蘇枋「……っ」
思った以上に力が入らない。
頭もまだ重い。
俺は周囲を見回した。
どうやら、どこかの建物らしい。
窓は見当たらない。
出入口も一つ。
そして――
俺は動きを止めた。
蘇枋「……なるほど」
状況は、だいたい理解できた。
連れてこられたらしい。
蘇枋「まいったなぁ……」
こんなときでも、口元には笑みが浮かんでいた。
強がり。
そう言われれば、その通りなのかもしれない。
でも、俺は昔からこうだった。
余裕がないときほど、余裕があるように振る舞う。
敵モブ「風鈴の連中は?」
声がした。
俺は顔を上げる。
数人の男が立っている。
蘇枋「……さあ?」
敵モブ「とぼけん な!!」
蘇枋「本当に知らないんだけどなぁ」
敵モブ「……!」
男が苛立ったように近づいてくる。
俺はそのまま相手を見る。
怖くない。
――そう思いたかった。
敵モブ「お前一人なら、あいつらも動きづらいだろうな」
蘇枋「……」
桜くんたちの顔が頭に浮かんだ。
ちゃんと逃げられただろうか。
怪我はしていないだろうか。
そんなことを考えていると、
敵モブ「何笑ってる?」
蘇枋「……え?」
自分でも気づかなかった。
まだ笑っていた。
蘇枋「別に」
俺は視線を逸らす。
蘇枋「ちょっと、仲間のことを考えてただけだよ」
敵モブ「仲間?」
その言葉を聞いた瞬間。
なぜか少しだけ、胸が温かくなった。
――仲間。
以前の俺なら、そんな言葉をこんなふうに考えることもなかったかもしれない。
でも今は違う。
桜君。
楡君。
杉下君。
梅宮さん。
そして、風鈴のみんな。
俺はあそこに帰りたい。
そう思った。
一方、その頃。
桜くんたちは、俺を探しているはずだ。
……いや。
きっと探している。
あの桜くんのことだ。
桜「蘇枋をどこにやった!」
そう怒鳴っている姿が簡単に想像できる。
蘇枋「……ふふ」
思わず笑ってしまう。
すると、目の前の男が怪訝そうにこちらを見る。
敵モブ「何がおかしい」
蘇枋「いや」
俺は少しだけ顔を上げる。
蘇枋「きっと、今頃大騒ぎしてるんだろうなって」
敵モブ「……」
蘇枋「桜くん、短気だから」
敵モブ「黙れ!」
男が苛立つ。
けれど俺は、それ以上何も言わなかった。
笑顔だけは崩さない。
少なくとも。
俺が弱っていることを、悟られたくはなかった。
時間が経つ。
どれくらい経ったのか分からない。
身体のだるさは、まだ残っている。
むしろ、さっきより強くなっている気がする。
蘇枋「……」
俺は壁に背を預ける。
目を閉じる。
少しだけ休もう。
そう思った。
けれど、眠るわけにはいかなかった。
何かあったときに動けなくなる。
だから、意識を保つ。
――桜くん。
早く来てくれ、なんて。
そんなことを考えてしまった。
蘇枋「……いや」
俺は小さく笑う。
蘇枋「俺らしくないな」
助けを待つなんて。
でも。
今だけは。
少しくらい頼ってもいいのかもしれない。
そんなことを考えていたとき。
遠くから、何か音が聞こえた。
蘇枋「……?」
足音。
複数。
男たちが振り返る。
俺も顔を上げる。
そして――
遠くから、かすかに聞こえた。
桜「――蘇枋!!」
その声を聞いた瞬間。
俺は思わず笑った。
蘇枋「……やっぱり」
桜くん。
どうやら俺は。
思っていたより、ずっと大切にされているらしい。
コメント
1件
いや〜めっちゃ良かった!!第2話、蘇枋が捕まってるのに余裕の笑顔保ってるところ、蘇枋らしくて惚れるわ。桜くんの「蘇枋!!」って叫びが頭の中にずっと響いてる。弱ってるところ見せたくないけど「少しくらい頼ってもいいかも」って思う心境の変化、めちゃ刺さった。仲間っていいなぁ…続き早く読みたい🔥