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蘇枋視点
翌朝。
いつもと変わらない朝。
制服を着て、髪を整えて、眼帯をつける。
鏡を見る。
右目は、いつも通り隠れている。
蘇枋「……よし」
昨日のことなんて、なかった。
そう思うことにした。
教室に入ると、昨日一緒にいた2人と目が合った。
楡井「おはようございます、蘇枋さん」
桜「おはよ」
蘇枋「おはよう、楡君、桜君」
いつも通り。
何も変わらない。
……それなのに。
桜「…………」
楡井「…………」
蘇枋「…………」
少しだけ、気まずい。
昨日、右目を見られた。
それだけなのに、妙に意識してしまう。
桜「蘇枋」
蘇枋「ん?」
桜「昨日のことなんだけど」
蘇枋「……」
来た。
俺は笑う。
蘇枋「気にしなくていいよ」
桜「いや、そうじゃなくて」
蘇枋「じゃあ何?」
桜「……ちゃんと寝た?」
蘇枋「…………」
予想していなかった。
蘇枋「ふふっ」
思わず笑ってしまう。
蘇枋「何それ」
桜「いや、昨日ちょっと変だったから」
蘇枋「そうかな?」
桜「あぁ」
楡井「そうっすよ」
蘇枋「俺はいつも通りだったと思うけど」
楡井「……蘇枋さん」
蘇枋「ん?」
楡井「無理してないですか?」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。
無理なんてしていない。
俺は大丈夫 。
そう言えばいい。
いつものように。
蘇枋「大丈夫だよ」
口から出たのは、やっぱりその言葉だった。
桜「……またそれ」
蘇枋「え?」
桜「『大丈夫』って言えば終わると思ってるだろ」
蘇枋「そんなこと――」
言いかけて、止まる。
否定できなかった。
蘇枋「……まあ、そうかもね」
笑ってみせる。
すると桜君は、少しだけ困った顔をした。
桜「だったら」
蘇枋「うん?」
桜「大丈夫じゃないときくらい、大丈夫って言わなくてもいいんじゃないのか?」
蘇枋「…………」
何も言えない。
そんなことを言われたのは、初めてだった。
放課後。
俺は一人で屋上にいた。
風が気持ちいい。
フェンスに寄りかかり、空を見上げる。
蘇枋「……大丈夫、か」
昼間の桜君の言葉が頭から離れない。
大丈夫じゃないときくらい、大丈夫と言わなくてもいい。
そんなの――
蘇枋「……できたら苦労しないんだけどね」
小さく笑う。
俺は昔から、そうしてきた。
怖くても。
辛くても。
助けてほしくても。
全部、
「大丈夫」
で済ませてきた。
なぜなら――
蘇枋「……言っても、来なかったから」
口に出した瞬間、自分で驚いた。
蘇枋「…………」
今、俺は何を言った?
1,432
どっかの誰かさん。
154
ℝ𝕒𝕟
79
頭の奥に、またあの光景が浮かぶ。
赤い炎。
白い煙。
熱い空気。
そして――
遠ざかっていく背中。
蘇枋「……やめて」
右目を押さえる。
蘇枋「もう……思い出さなくていい」
でも、記憶は止まらない。
幼い自分が、誰かに手を伸ばしている。
『待って……!』
『お願い……!』
『僕も連れてって……!』
蘇枋「…………っ」
呼吸が乱れる。
目を閉じる。
そのとき。
桜「蘇枋?」
楡井「蘇枋さん?」
蘇枋「……!」
後ろから声がした。
慌てて振り返る。
蘇枋「……桜君、楡君どうしたの?」
蘇枋「それはこっちの台詞だ」
桜君が僕を見る。
楡井「顔、真っ青っすよ」
蘇枋「……そう?」
桜「また大丈夫って言うのか?」
蘇枋「…………」
返せなかった。
相手はそれ以上近づかず、少し離れたところに座った。
桜「別に話さなくてもいい」
蘇枋「……」
桜「でも、一人で抱え込まなくても、いいから」
蘇枋「…………」
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
優しくされるのが怖い。
信じるのが怖い。
また失うのが怖い。
――昔も、そうだった。
俺はゆっくりと右目に触れる。
蘇枋「……俺ね」
楡井「はい」
蘇枋「昔、家族がいたんだ」
楡井「……え?」
桜「……!?」
蘇枋「普通の家族だったよ」
少しだけ笑う。
蘇枋「少なくとも、俺はそう思ってた」
そこで言葉を止めた。
これ以上は、まだ言えない。
蘇枋「……今日はここまで」
桜「分かった」
2人はそれ以上聞かなかった。
蘇枋「ありがとう」
桜「…?」
楡井「何がっすか?」
蘇枋「……聞かないでいてくれて」
そう言って、俺は空を見る。
夕焼けが、少しだけ赤かった。
その色を見た瞬間。
右目の奥が、また痛んだ。
――あの日も、こんな色だった。
俺はまだ、その続きを話せなかった。
長くなってすみませんm(*_ _)mまた次も見てくれると嬉しいです!!
では안녕!!
コメント
1件
蘇枋さんの「大丈夫」の裏にある痛みがひしひしと伝わってきて、胸が苦しくなりました。桜君の「大丈夫じゃないときくらい言わなくていい」という言葉、あれは本当に彼だから言える優しさですよね。過去に何があったのか、赤い炎や遠ざかる背中――まだ話せない部分があるのを察して問い詰めない2人の距離感も素敵でした。次、蘇枋さんがどんな言葉を預けるのか、待ち遠しいです。