テラーノベル
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「それじゃ・・・お元気で」
「はい・・・袴田さんも」
新幹線の改札口で二人は別れの挨拶を交わした、同時にペコリと会釈をして、顔を上げ時にはもうどちらも目を合わせなかった
桜子はホームへ上がるエレベーターの方へ歩き出した、上りのボタンを押し、なんとなくもう一度振り返ってみたが、袴田の姿はすでに見当たらなかった
―行っちゃったか・・・―
胸のどこかに小さな隙間ができたような気がした、おそらく彼とはもう二度と会わないだろう
―才能のある若い人っていいな・・・私も帰って新作を書こう―
そうだ・・・出版局から書いてくれと催促されているうちが花なのだ、これからはこうした営業の仕事を減らしてもらって、本当に執筆に力を入れなければ・・・そう思う端からまた、あの青年の顔が浮かんでくる
エレベーターがチン♪と軽やかな音を立てて扉を開けたので桜子は乗り込み「閉」のボタンに指を伸ばした、扉が閉まりかけたその瞬間
―バンッ!!―
閉まりかけた扉の隙間から、にゅっと手が突き出された、センサーが反応して扉がガコンと開き直る、そこに立っていたのは汗だくの袴田シオンだった
ハァ・・・ハァ・・・「に・・・入場券、買ってきたんです」
肩で息をしながら、シオンは片手に握りしめた小さな切符を掲げてみせた、あまりに驚いた桜子は無言で目を見張った
「やっぱり・・・ホームまで、見送ります」
トクン・・・―え?―
桜子の胸の奥で・・・彼を再び見た瞬間から鼓動が小さな音を立てて動き出した
隣に乗り込んできたシオンが息を整えながらこちらを見つめているのを感じる・・・その視線に触れていると妙な気分になった、男性からこんな風に見つめられたのは、生まれて初めてのような気がする
―勘違いしちゃダメよ・・・―
桜子は慌てて自分に言い聞かせた、こんな年下の才能のある青年が自分なんかに好意を持ってくれるわけない
もし、あったとしても・・・それは同じ職業の先輩としての敬意であって、それか出版業界のコネがほしいとか・・・そういうことだ、あるいは同じ作家仲間なんてめったにお目にかかれないから物珍しいだけ・・・
そう理屈をつけながらも、桜子は彼にまだここにいて欲しいのか、それとも離れて欲しいのか自分でも分からないないまま・・・ゆっくりと上昇する小さなエレベーターの中で呆然と立ち尽くした
ホームに上がると、桜子の乗る新幹線はすでに扉を開いて乗客を待っていた
二人は乗り口のこちら側とあちら側に分かれて立った、ホームの冷たい風が二人のあいだを吹き抜けていく
こうして向き合うと、桜子は気づかずにはいられなかった
書店で会った時はただの地味な青年だと思っていたけれど・・・今こうして真正面から向き合って見ると、彼がどれほど魅力的な男性なのかを認めないわけにはいかなかった
細身の長身、真っ黒で毛量の多い髪、くすみのない色白の肌・・・どことなく凜とした印象を与える濃い眉
高い鼻・・・大きな口、顎の線顔の造作を一つひとつ取り出して見れば、取り立てて目を引くものではないのかもしれない・・・それなのにそれらがすべて合わさると・・・なぜか、ひどく印象的な顔になる
そして眼鏡を外して、その奥にある二重の綺麗な瞳をじっくり見たくなる
もしかしたらこの人はあのやぼったい髪型を今風に整えて・・・眼鏡を外し・・・コンタクトにしたらとんでもない美男子なのではないだろうか?と・・・年がいもない少女漫画のようなことを本気で考えていまう
「それじゃあ・・・」
「ハイ・・・」
「執筆頑張ってくださいね」
「ハイ・・・」
「プロとしてのご活躍を期待していますね」
「ハイ・・・」
シオンは夢の中にいるような顔で気の抜けた返事を繰り返しながら、じっと桜子の顔を見つめていた・・・桜子もまた、彼の顔を見るのに忙しくて、自分が何を言っているのかよくわかっていなかった
―プルルルルル―『まもなく、一番線から「新大阪行きのぞみ15号」が発車します、お見送りの方は黄色い線の内側までお下がりください』
発車の合図のベルがホームに鳴り響き、アナウンスの声が二人を現実に引き戻した、桜子はハッとして扉の中に一歩下がった
プルルルルルルルル――プシュー―――ッッ!!
「連絡先を教えてくださいっっ!!桜子さん!!」
「えええ~??」
―バシンッ―
シオンが叫んだその瞬間、目の前でバシンッと扉が閉まった、新幹線のガラス一枚が二人を隔て、今ゆっくりと動き出した、桜子の視界ががシオンを置いて横に流れて行く
―れっ!連絡先??―
桜子はあわててバッグからスマホを取り出した、指が震えてうまく動かない、LINEを開いてQRコードを呼び出し、その画面を新幹線の窓ガラスにぺたっと貼りつけた
―早く 早く、読み取って!!―
新幹線は徐々に速度を上げていく、もう小走り程度の速さだった、シオンが必死で走って着いてくる
彼も自分のスマホを高く掲げ、ホームを走りながら、窓に貼りつけられたQRコードに向かって必死にカメラを向けている、長い脚がホームを蹴る
けれど新幹線は容赦なく速度を上げていく、二人の距離が少しずつ少しずつ開いていった・・・そしてホームの一番端の行き止まりでシオンはとうとう立ち止まった
窓に張り付く桜子からはシオンと駅がどんどん離れて行って・・・
やがて彼の姿が黒い「点」になるまで、桜子はその場から離れられなかった
.:・.。. .。.:・
―ガタン・・・ガタン・・・―
思ったより揺れる新幹線の車輪の音を聞きながら、桜子は飛ぶように変わっていく景色を・・・まだその場に立って眺めていた
―なんだったんだろう、今の―
桜子はぼうっとした頭で指定席を探した、平日の午後とあって車内には空席がたくさんあった、窓際の席に腰を下ろし、背もたれに体を預ける・・・そして火照った頬を両手で押さえた
―袴田君・・・QRコード読み取れたかしら・・・―
窓の外を山口の景色が流れていく・・・それはビル一つない大自然で・・・刈り取りを終えた田んぼや瓦屋根の家並みは後ろに飛び去っていってるが、遥遠くに霞む山の頂は全く動いていないように感じる・・・ちょうど緑の景色も見飽きた頃・・・
手の中のスマホがキンコン♪となった、桜子はハッとして画面を見た
―友達追加『袴田シオン』―
メッセージを開く指がわずかに震えた、そして彼から一言
―これからも連絡していいですか?―
.:・.。. .。.:・
桜子は、画面を見つめたまま・・・胸の奥で、トクン、トクン、と小さな音が鳴り続けているのを感じた
「作家仲間として・・・だよね・・・」
そう言いながら、桜子の口元はどうしようもなく緩んでいた
コメント
2件
ひゅうー😚やったね!ちょっとモヤモヤするだけど桜子が生まれ変われるといいなぁ😌
いやもう…新幹線のホームでQRコードを窓に貼りつけるシーン、切なすぎて叫びそうになりましたよ。シオンくんがあの最後の瞬間に「連絡先を教えてください!」って叫ぶ勇気、めちゃくちゃ尊い。そして桜子さんの「作家仲間として…だよね」って自分に言い聞かせるところ、分かりみが深すぎて胸がギュッとしました。もう次が気になって仕方ないです!!
眠狂四郎
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シュメール
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央雅
13
榎本くもり
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