テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,302
352
第十三話 嫉妬
「昨日どこ行ってた?」
朝の廊下。
悠真の何気ない一言に、僕の心臓は大きく跳ねた。
「え?」
「蓮と出かけてただろ」
先に言われた。
隠していたわけじゃない。
でもなぜか後ろめたくなる。
「撮影だよ」
「二人で?」
「うん」
悠真は短く「へえ」とだけ返した。
それ以上何も言わない。
だけど。
長い付き合いだから分かる。
機嫌が悪い。
かなり。
◇
昼休み。
屋上。
いつもの場所。
僕が昼食を広げると、悠真が隣に座った。
珍しい。
いつもなら少し距離を空けるのに。
今日は妙に近い。
「悠真?」
「何」
「機嫌悪い?」
「別に」
嘘だ。
絶対嘘だ。
その時。
屋上の扉が開いた。
「先輩ー!」
蓮だった。
そして当然のように僕の隣へ来る。
……来ようとした。
「座る場所ないぞ」
低い声。
悠真だった。
蓮が足を止める。
僕の右側に悠真。
左側はフェンス。
確かに空いていない。
「詰めればいいですよね?」
「詰めない」
「なんでですか」
「なんでも」
怖い。
二人とも笑顔なのに怖い。
◇
結局。
蓮は向かいに座った。
不満そうだった。
悠真は満足そうだった。
意味が分からない。
「昨日楽しかったです」
蓮が言う。
「海きれいでしたね」
「うん」
「また行きたいです」
その瞬間。
ぴくり。
悠真の眉が動く。
「また行くのか」
「行きますよね?」
蓮が僕を見る。
返事に困る。
すると。
「俺も行く」
悠真が言った。
「え?」
「次は俺も行く」
即答だった。
蓮がじっと見つめる。
悠真も見返す。
火花が見えそうだった。
◇
放課後。
サッカー部の練習がある悠真は先に帰った。
その日は珍しく写真部の活動も早く終わる。
部室には僕と蓮だけ。
静かな時間。
「先輩」
蓮が呼ぶ。
「昨日のこと、後悔してません」
「……うん」
「振られても言えて良かったです」
少しだけ胸が痛む。
蓮は笑った。
「だから俺、これからも普通に話します」
「ありがとう」
「でも」
そこで言葉を切る。
そして。
「悠真先輩には負けません」
真っ直ぐ言い切った。
思わず目を見開く。
「蓮」
「だってライバルですから」
楽しそうに笑う。
でも目は本気だった。
◇
その帰り道。
珍しく悠真から連絡が来た。
『今から少し付き合え』
短いメッセージ。
断る理由もなく、僕は近くの公園へ向かった。
夕暮れ。
ベンチに座る悠真。
制服ではなく練習着。
どうやら部活帰りらしい。
「お疲れ」
隣に座る。
悠真はしばらく黙っていた。
そして。
「蓮に何か言われたか」
唐突だった。
心臓が跳ねる。
「……なんで?」
「言われたんだな」
図星だった。
悠真はため息をつく。
「告白された?」
僕は息を呑んだ。
どうして知っているんだ。
その反応だけで答えになったらしい。
悠真は空を見上げた。
「そっか」
短い言葉。
だけど。
なぜか苦しそうだった。
◇
沈黙。
風だけが吹く。
やがて。
悠真が低く呟いた。
「嫌だった」
「え?」
「お前があいつと二人でいるの」
胸が鳴る。
大きく。
苦しいくらいに。
悠真は前を向いたまま続ける。
「告白されたって聞いて」
握った拳に力が入っている。
「もっと嫌だった」
僕は何も言えない。
言葉が出てこない。
すると。
悠真が自嘲するように笑った。
「ダサいな」
「……」
「自分でも分かってる」
夕陽が横顔を照らす。
少し赤い。
たぶん夕陽のせいじゃない。
「悠真」
名前を呼ぶ。
すると。
悠真がゆっくり僕を見る。
真っ直ぐ。
逃げ場なんてないくらい。
そして。
「俺」
その一言で。
何を言われるのか分かってしまった。
心臓がうるさい。
苦しいほど。
だけど。
聞きたい。
聞いてしまいたい。
悠真が息を吸う。
そして――
「……」
言葉は最後まで続かなかった。
遠くから部活帰りの生徒たちの声が聞こえたからだ。
悠真は顔をしかめる。
タイミングが悪すぎる。
僕も少しだけ残念だった。
そんな自分に驚く。
◇
帰り際。
駅のホーム。
電車を待ちながら。
悠真がぽつりと言った。
「近いうちにちゃんと言う」
「え?」
「逃げるなよ」
その言葉だけ残して。
悠真は別の車両へ乗り込んだ。
閉まるドア。
遠ざかる電車。
僕はホームに立ち尽くす。
胸の奥が熱かった。
だって。
もう分かってしまったから。
悠真が何を言おうとしていたのか。
そして。
自分が何を聞きたいと思っているのかも。
コメント
1件
もう…13話、読んだ。 嫉妬ってタイトルからして覚悟してたけど、やっぱり心臓に悪い回だったわ。 朝の廊下の悠真の「昨日どこ行ってた?」の空気、怖い。笑顔で火花散らす屋上のシーンも「詰めない」も最高にヤバかった。そして夕暮れの公園…「嫌だった」「もっと嫌だった」って悠真の声が聞こえてきそうなくらい切なくて。自嘲気味に笑うところとか、横顔が夕陽で赤くなる演出、心臓に悪すぎる。 でもね、最後の「逃げるなよ」からの別々の車両。あれはもう、言おうとしてた言葉、分かっちゃうじゃん…。この距離感と焦ったさがたまらない。次の話、待ってますじじさん🔥