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stpl 紫赤 様
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日本語おかしい
診察室の白いカーテン越しに、彼の小さな咳が聞こえる。
俺はベッドに腰掛けたまま、その音を聞くだけで胸の奥が少しだけ締めつけられた。
「……大丈夫ですか? 苦しくない?」
振り返った彼は、白衣がよく似合う医者。
整いすぎている顔立ちに、少し幼さの残る目元。かわいい、なんて言葉じゃ足りないのに、本人に言ったら真っ赤になって黙り込むのは分かってる。
「平気。先生が優しいからね」
軽く笑ってそう言うと、彼は案の定、耳まで赤くして視線を逸らした。
「そ、そういうこと言わないでください……患者さんでしょう」
患者さん、か。
その距離感を保とうとする声が、逆に俺の理性を刺激する。
今日は定期検診。もう何度も顔を合わせているのに、彼は未だに俺の視線に慣れない。触診のために伸ばされる手も、いつも微妙に震えている。
「……冷たい?」
「い、いえっ」
指が触れた瞬間、彼の肩がびくっと跳ねた。
その反応が愛おしくて、俺は無意識に声を落とす。
「先生、緊張しすぎ」
「だって……」
言いかけて、彼は唇を噛む。
その仕草に、もう逃げ場はなかった。
俺はゆっくりと彼の手首を取る。力は込めない。逃げようと思えば逃げられる距離で、ただ温度だけを伝える。
「嫌ならやめる。ちゃんと聞く」
そう言うと、彼は一瞬迷ってから、こくりと小さく頷いた。
――それが合図だった。
唇に触れる前、額に軽く口づける。
いきなり奪わない。彼の呼吸が落ち着くまで、背中を撫でて、指先を絡めて、何度も大丈夫だと囁く。
「……っ、な、なんでそんなに優しいんですか……」
声が震えて、目が潤む。
泣き虫なところも、全部可愛い。
「好きだから」
それだけで、彼の目からぽろっと涙が落ちた。
えっちなことは、急がない。
触れる前に、触れていいか聞く。触れたあとも、反応を確かめる。
前戯みたいに、時間をかけて心から解していく。
彼が身を預けてくるまで、俺は何度でも待つつもりだった。
……そのあとも、ちゃんと抱きしめて、余韻が消えるまで離れない。
シーツを整えて、涙の跡を指で拭って、額にもう一度キスをする。
「後悔してない?」
「……してません。ちょっと、恥ずかしいだけで」
そう言って小さく笑う彼を見て、胸がいっぱいになる。
患者と医者。
そんな肩書きより、今はただ――大切な人だ。
「次の診察も、俺が来るから」
「……ちゃんと、来てくださいね」
照れながら言うその声に、「もちろん」と答えて、俺はまた彼を抱き寄せた。
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