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第六章:誤解のあとに訪れる静寂
あのとき、中庭の木陰で見た光景を、僕は何度も頭の中で巻き戻していた。
背が高く、よく笑い、サッカー部の中心にいるあの少年と君が並んで話している姿。そのあまりに自然で楽しげな様子を見たとき、僕は勝手に――彼こそが今の君の恋人で、僕はすでに過去の存在に追いやられてしまったのだと、そう決めつけてしまっていた。胸を刺すような焦燥感と、やり場のない敗北感が、僕の目を完全に曇らせていたのだ。
だけど、あの小説の原稿を机に忍ばせ、彼女がそれを読んだあとの怯えたような、そしてどこか引きつった戸惑いの顔を思い出すたび、別の真実がじわじわと輪郭を帯びてきた。
あれは、決して恋人同士の空気などではなかったはずだ。
あの日、君がその男子と楽しげに話していたのは、もっと他愛のないこと――たとえば、誰かの恋の相談だったり、学級委員としての事務的な連絡だったり、あるいはクラスの誰かを交えたグループの雑談だったのかもしれない。僕が勝手に「彼氏ができたんだ」と思い込み、一人で勝手に絶望して、勝手に身を引いた気になっていただけだったのだ。
それなのに僕は、その勝手な誤解を抱えたまま、彼女の机に重すぎる小説の原稿なんてものを押し付けてしまった。
それを読んだときの君の気持ちを想像すると、背筋が凍るような後悔が押し寄せてくる。
かつては放課後の教室で秘密のノートを共有し、お互いの小さなどきめきを確かめ合っていたはずなのに。いつの間にか僕は、君にとって「優しかった思い出の相手」ではなく、「急に自分語りの重い原稿を押し付けてくる、気味が悪いほど執着深い存在」になってしまっていたのではないか。
放課後の教室の空気が、急に重く冷たく感じられた。
もう二度と、あの頃の距離感には戻れない。僕が勝手に作り上げた嫉妬と、それを埋め合わせようとして失敗した稚拙な行動が、ふたりの間にあった細い糸を完全に、音を立てて断ち切ってしまった。
昇降口で自分の上履きを袋に入れながら、夕日に染まる校庭の隅を見た。
言葉を交わす機会も、誤解を解く勇気も、もうどこにも残っていない。僕たちは同じ空気を吸いながら、ただ沈黙という名の壁を挟んで、静かに終わりへと向かっていた。
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コメント
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ああ、この第6話、すごく切ない回でしたね……。主人公が勝手に誤解して、勝手に絶望して、そのまま重い原稿を押し付けてしまう流れ、読んでいて胸がぎゅっとなりました。「沈黙という名の壁を挟んで、静かに終わりへ向かっていた」というラスト行が特に印象に残ってます。あの頃の距離感にはもう戻れない、という諦念がひたひたと伝わってきて、続きが気になります。青い子さん、繊細な心理描写が本当にお上手ですね🌷