朝の教室。
いつも通り、ざわざわした空気。
だけど目黒には、全てが遠くの出来事のように感じられた。
康二の姿を探す。
まだ来ていないだけなのに、
胸が締めつけられるほど苦しかった。
——なんで、いないんだろう。
——昨日も“離れんな”って言ってくれたのに。
隣の席の笑い声が、やけに耳に障った。
教室の時計の針が動く音だけが、やけに大きく響く。
「おい、目黒」
誰かに呼ばれて振り返る。
でも、そこには誰もいなかった。
心臓が跳ねた。
空気が少しだけ冷たくなる。
耳の奥で、康二の声がした気がした。
「……お前、また一人になっとるやん」
小さく笑うその声が、
昨日と同じトーンで。
まるで、本当にそこにいるみたいで。
目黒は無意識のうちに立ち上がった。
廊下の向こうへ、誰かを追うように歩く。
——いる。絶対に、いる。
康二くんが、俺を呼んでる。
「……康二くん」
呟いた声は、空気に溶けて消えた。
気づいたときには、校舎裏にいた。
昨日の雨で濡れた地面。
そこに、落ちていたのは康二のハンカチだった。
拾い上げて、指先で握る。
少しだけ残る洗剤の匂い。
それだけで、胸の奥が満たされていく気がした。
「……ちゃんと、ここにいるんだね」
笑いながら、涙がこぼれた。
自分でも理由がわからなかった。
ただ、“康二がいない”という現実が、
少しずつ曖昧になっていく。
——いない時間のほうが、怖い。
——声が聞こえなくなるのが、怖い。
その日から、目黒は教室でも廊下でも、
康二の名前を小さく呼ぶ癖がついた。
まるで、確認するように。
まるで、祈るように。
そして放課後。
康二が本当に現れたとき、
目黒は震える手でその袖を掴んだ。
「……どこ行ってたの」
「授業、出てただけやろ」
「……嘘。ずっと、呼んでたのに」
その声は震えていて、
康二の胸の奥に、冷たい不安を落とした。
——こいつ、もう俺のこと以外、見えてへん。
それでも康二は、優しく笑ってしまう。
「……ごめんな。もう離れへん」
そう言いながら、自分の言葉が
またひとつ、目黒を壊していく音がした。
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