ヒーさん 様より、イカレ帝国×子孫日本
※一応原爆描写あり???
幼い頃、私は親にまつわる作文というものが大嫌いだった。
日頃の感謝を伝えよう、名前の由来を調べよう、家の人の職業を調べよう
などなど…まあ今も書けと言われたところで、書けはしないが。
私には昔から、先祖というものが視える体質であった。
私の3つ下の妹も同様で、なぜか現世に干渉してくるご先祖に育てられたも同然。
いわゆる親という存在だ。
そのような親で作文を書けという大人に対し、私はなんと書いたかわかるだろうか?
答えはない。なぜなら、私が心から思って書いたことはないからだ。
日頃の感謝は2行も書けなかった。学校に行かせてくれてありがとうとしか言えない。
家事の担当者は昔から私と妹であり、子供に教えるにしては鬼畜な内容を叩き込まれ続け、何を感謝しろというのだろう。
職業を調べろと言われ、 『僕のお父さんは軍人です』と ありのままを書いたのだが、教師によって自衛隊と書き直された。
あんなやつが自衛隊にいてたまるか。
そして名前の由来と言われても、何年も続くそういう国なのだからとしか言えない。
試しに『日出る国だからです』 と書いてみたら、ふざけるななどと言われて怒られた。
まあそんなわけで、私はそういう作文だけは0点の出来にしかならない。
さて、その原因を作り出したイカレジジイこと私のご先祖は、とても教育熱心な方だ。
テストで100点以外を取ると殴られ、家事を完璧にこなさないと殴られ、何もなくても殴られる。
まあ、私は出来が良いので怒らせて怪我を負うことは少なかった方だ。
殴られていたのはいつも、私と違って出来の悪かった妹。可哀想と思ったところで、飛んで火に入る夏の虫になるわけにはいかない。
完璧主義と排他を極めたあの人のルールを破る…その恐ろしさを誰よりも知っているからだ。
「私の身内なのだから、付き合う友人は 選べ」
小学校に入学した時、まだ恐さを知らなかったあの頃に言われた言葉。
それまで遊んでいた友人と別れさせられ、不満を覚え隠れて会っていたら、後日その友人は行方不明になっていた。
友人ができないと素直に話したところ、関わりたくもない旧国の亡者どもと面会させられて強制社交パーティの流れになり、その時間は ひたすら拷問のようで…なんと言えば良いか…まあ、正に狂育と言うべき仕打ち。
結局成人した今も、私に友人と呼べるものは1人もいない。
「日本」
過去を思い返していると、低い声が私の耳に入った。
「はい、なんでしょう?」
あいつのおかげで染みついた営業スマイルで返すと、同僚である独逸は私から目を逸らしながらも、言葉を続ける。
「その…大丈夫か?随分思い詰めたような顔をしていたが…」
「そうですか?ちょっと働き過ぎましたかね〜」
黙ってくれ。
第一にそう思った。
お前は私を心配する権利なんてないんだ。
独逸もそれなりにひどい家庭環境だが、彼はもう解放されている側で、囚われ続けている私とは似て非なる存在。
そんなラッキーボーイが私を心配するなんて、屈辱的だ。
そんなことを思ってしまうとは、私もあいつの親類であることを理解させられて吐き気がした。 気持ちの悪い思考だったと反省する。
勝手に気まずくなって黙ると、独逸は私から離れ、私もまた作業を再開した。
焦燥感が渦巻く脳内を無にして、ただキーボードを叩く。
「…もういなくなってくれないかな」
無意識に出た言葉は、私のものではないはずだ。
鍵を開け、大きな屋敷へと足を踏み入れる。
生きているのはたった1人の、虚無で出来ていると言っても過言ではない屋敷。
前までは妹が出迎えてくれたが、15の年にあの子はこの屋敷を出た。
嗚呼、なんと羨ましく、妬ましく、恨めしいのだろう。
正解を見つけられた妹に怨念を浮かべる私は、最早兄とすら言えないかもしれない。
「ただいま帰りました」
きちんと整えて靴を置き、暗い廊下を静かに歩いた。
「おかえり」
ふと、声をかけられる。
低く甘く、私が最も聞いてきた声だ。
逃げたくても逃げられない私は、今日もこいつに従うしかないらしい。
「日本、こちらへ来い 」
あ、これは殴られるやつだと確信したが、抵抗すれば骨でも折られるだろうから、大人しくご先祖の後についていく。
「…はい」
今日はどのような嫌なことがあったのだろうかと、ぼんやり考える。
また亜米利加が何かしでかしたか、刀の手入れでも上手くいかなかったのか。
それとも、ただ単に苛ついているのか。
部屋に入った途端真っ直ぐに振り下ろされる拳を受け、鈍痛を伴いながら地に伏した。
(今日は食べられるものあるかな…)
吐くまで殴られたあとの胃に入る食べ物というのは、案外少ない。
目を瞑って痛みに耐える私は、とても可哀想だ。
「ぁー…マジでクソ」
私はこの屋敷が、一族が嫌いだ。
どれだけ自由だと思い込もうが、この屋敷にいる限り私は囚人で、育ての親とも言いたくないあいつは看守のままである。
嗚呼、なんて哀れなのだろう。
まだ抜け出せた時にさっさと見限れば、妹のように行動を起こせばよかったのに。
普通に生きていけるなんて、どこで勘違いしたんだ。
嗚呼、なんて優秀なのだろう。
そのせいで身内判定されてしまった私は、どこまで運が悪いのだろう。
あーもう、この世の事象みんなクソだ。
さっさと俺の時代になれよ。
改めて考えてみると、なぜ現代で俺の方が支配下にいるんだ?
普通逆だろ、意味わかんねえ。
さっさとお陀仏しろって言ってやりたい。
墓参りになんか行ったことないし、行く気もないけど。
不謹慎だとしても、あの時の熱と光で焼き殺されたままあの世へ行けばよかったのに。
「はぁ…めんどくさ、寝よ」
考えてもどうせ変わることはないのだ。
俺がここを離れるには、
・視えなくなること
・一族判定されないこと
この二択しかない。
ちなみに後者の場合は、命が危うくなるレベルの大罪を犯したりしなきゃダメだろうなーと思っている。
クソゲーよりクソゲーだ。人生くそくらえ。
寝る前に考え込むのは昔からの癖だが、今日はいつになくネガティヴな感じ。
きっと疲れているんだ。
朝になれば、またクソみたいな1日が始まって、歯車として動けるはずだから。