テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

俺の相棒

一覧ページ

「俺の相棒」のメインビジュアル

俺の相棒

1 - 「お前を忘れない」

♥

41

2025年09月26日

シェアするシェアする
報告する


『Venom:The last dance』 のネタバレ有り。













































朝のアパートのキッチン。エディ・ブロックは、ぼさぼさの髪を片手で整えながら、古びたコーヒーメーカーを眺めていた。


「……動いてくれよ、頼む」

カタカタと不安な音を立て、コーヒーメーカーは気まぐれに熱い蒸気を吹き上げた。


その時、背中越しに重々しい声が響いた。

「エディ。これは明らかに“壊れている”」


エディは振り返り、ため息をつく。

「分かってるよ。だからこうして拝んでるんだ」


黒い影が壁からにじみ出るようにして現れ、巨大な笑みを形作る。

「俺が直してやろうか?」

「お前がやったら、コーヒーメーカーごと食うだろ」

「それは……正しい」


エディは額を押さえながら、ようやくできあがった黒い液体をカップに注いだ。

ヴェノムは目を細め、興味深そうにそれを覗き込む。

「俺の分は?」

「お前、飲んだって味分からないだろ」

「いいや、分かる。“カフェイン”は美味い」


結局、エディはカップを差し出した。ヴェノムは舌のような触手を伸ばし、一口すすった。

「……苦い」

「ほら見ろ」

「だが、嫌いではない」





昼下がり。

エディはパソコンの前で取材メモを整理していた。

新聞記者としての仕事は相変わらず不安定だが、ヴェノムとの共生生活は、少なくとも退屈はしない。


「エディ」

「なんだ」

「外に出よう。退屈だ」

「俺は仕事がある」

「じゃあ俺がやる」

「お前はタイプもできないだろ」


パチパチとキーボードを叩く触手。

画面には、意味不明なアルファベットの羅列が並んだ。

「どうだ」

「記事どころか暗号だよ」

エディは思わず吹き出した。






夕方。

二人は散歩がてら、近所の店で食料を買い込んだ。

ヴェノムが勝手に触手を伸ばし、棚からチョコレートをカゴに放り込む。

「これは必要だ」

「またか……」

「俺はチョコが好きだ。脳にいい。お前の気分も良くなる」

「俺の財布には悪いけどな」


店員が怪訝そうに見る中、エディは小声で「頼むからおとなしくしてくれ」と呟いた。






夜。

帰宅したエディはソファに崩れ落ちた。

疲労で体が重い。だが、ヴェノムの声が心の中で響く。


「お前は無防備すぎる。今日もあのヘンテコな奴らに襲われそうになっただろ?俺がいなければとっくに死んでいた」

「わかってる……でもな」


エディは天井を見つめた。

「時々思うんだ。お前が俺の中にいるのは、本当に良いことなのかって」


静寂が訪れる。

ヴェノムはしばらく何も言わなかった。

だが、やがて低く、重い声が返ってきた。


「俺も時々考える。人間と共にいる意味を……」

「……」

「だが、結論は変わらない。俺たちは離れられない。お前も、それを知っているはずだ」


エディは目を閉じる。心臓の鼓動が、自分だけのものではないと感じる。

「……そうだな」























手足が重く、視界がぼんやりとしていた。

意識を取り戻したのは、白い天井と、淡く差し込む光の中だった。

冷たい管と繋がれた腕。モニターの電子音。

「…ここは…病院か」

かすれた声でつぶやく。


起き上がろうとすると、頭の奥で何かがひび割れるような痛みが走った。

胸の中、空虚な穴が開いたような感覚。

「ヴェノム…」

その名前を呼んでみるが、何も返ってこない。沈黙。


記憶が断片的に蘇る。戦い。犠牲。酸性の渦。

ヴェノムが、自分を守るために身を投じた瞬間。

コードックスが砕け散る音。

その結末を、自分が見届けられなかった悔恨。


手首を見つめる。管と点滴。

自分は生き残った。

だが、共に歩んできた“もう一つの意志”を失ったまま、生きるという現実。


窓の方へ視線を移す。灰色の空、遠くにビルのシルエット。

ニューヨーク…あの街。

ヴェノムがいつも夢見ていた場所。

自分も、いつかそこに行きたかった。

だけど今、それは甘い願望になった。


歩行器に手をつき、病室を出る。

ひんやりとした廊下、廃病院のような空気。

だれとも目を合わせられず、足を一歩ずつ進める。


ナースステーションを通り過ぎる時、若い看護師がちらりとこちらを見た。

彼女の視線に、エディはまっすぐに返せなかった。心臓が締めつけられる。


廊下の突き当たり、窓ガラス越しに外の世界が見える。

街灯。車の灯り。遠くのネオン。

その向こうに、自由と希望があるようにも見えた。


だが、胸の奥には冷たい空洞がある。

ヴェノムの存在が抜け落ちた穴。

それをどう埋めるのか、自分でもわからない。


病室に戻ろうとしたとき、ふと手が震えた。

胸ポケットを触ると、そこにあったのはヴェノムとの共生を示すわずかなしるし――

小さな黒い欠片のようなもの。

震える指先で、それを取り出す。


「くそ…お前、まだ…」

言葉に詰まり、口を閉ざす。


深い闇の中で、かすかな声。

錯覚か、記憶か、それとも残響か。


“お前を忘れない”


エディはそれを信じたくなかったが、胸の奥底で、なにかが応えたような気がした。


そして彼は、ゆっくりと、その破片を握り締め、目を閉じた。

喉の奥で、かすかに呟いた。


「I AM VENOM, TOO…」


その言葉は、静かな誓いでもあり、失われたパートナーへの呼びかけでもあった。

埃っぽい病室の中に、残響だけが揺れていた。


この作品はいかがでしたか?

41

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚