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ガチャ、ギィーーッ。カランカラン。
千葉が店を出て行った。
「上手くやったな?」
「んふふふ。いやぁ!だって面白すぎるんだもん!集中できないよぉ〜」
「嘘つけ」
「あははは。会話をしっかりしなさいってアキくんにも千葉くんにも言われてない?」
「相手は選ぶものでしょう?なぁ、別であんだろ?要求が」
「“君の血”が必要なんだ」
「はぁ?きも!そこまですんの?」
「あぁ、、、知らないのか」
「なにが?」
「なに、術のことだよ。君の血を染み込ませた方が神威がよく定着するんだ」
相変わらず胡散臭い。
「ふふっ。ちゃんと目を閉じててね。さっき君が言ったように効力が薄れるからねぇ」
「へいへいほー。わーかってぇよ」
目を閉じて、親指の腹を噛みちぎる。罰則に比べればこれくらい全然。蚊に刺されるくらいの痛み。
「ははは。そんなんだから千葉くん相手に痛みの調整を間違えるんだよぉ」
「勝手にのぞくな。変態!!」
「んふふふ。心理学だよ心理学〜」
「寝言は寝て言いたまえ。それか永眠させてあげましょうか先生」
「あはははっ!いいねぇ〜。さっきの契約も相まって“人間から遠のいてる”。そのまま手を貸して。早く早く!その血が重要なんだから、新鮮なうちに入れなきゃねぇ」
鬼海が勝手に私の手を取って、硬い、冷たい感触の容器に、親指を突っ込んだ。
- これ絶対にお守りじゃない!!
「おい!変態ゴミクズ野郎。なにしてる?」
「ん〜?瓶に詰めてるだけだよぉ〜」
「殴っていいんだな?」
「くふっ。ごめんごめん。怒らないでよぉ。君の血はいい材料になるからねぇ。数滴でも貴重なんだぁ」
もう片方の手で拳を握り、軽く引いてどの方角にも殴れるよう構えた。そして目を開けようとした瞬間に、瓶が親指から外され、すぐ木の感触がした。
「まだ目を開けないでね。今度こそ御守りに使う“素材”だから。今からこれに神威を流してちょうだい。血を通して、ね」
- 今すぐ滅してやろうか?
そう考えるくらいにイラつく、が、
- ここは我慢だ
- 千葉のためにも、、、
拳をさらに強く握って怒りを抑える。でも、それでも、さっきよりも強く、即座に殴れるよう準備はしておく。
その上で言われた通りに動きはする。
- めちゃくちゃに気にくわないが、、、
神格から神威を指先に向けて伸ばし、血に通うよう浸透させた。御守りについては詳しくないが、こいつの専門知識だけは信用できる。
引き剥がしたい“この力”でも、千葉を守れるなら外道との取り引きにものれる。
そしてこいつみたいな外道が千葉に関わらないようにと念を込めた。血に織り混ぜる神威に。
- どうだ?
- これでいいんだろ
「そうそう!あははは!!やればできるじゃない!!そのまま術の邪魔にならないよう動かないでちょうだいよぉ〜!君が思うように、“千葉くんのためにも”、ね?」
- コイツ、、、
- オレが、、、僕が、、、
- 真剣にやってんのになんつった?
- お前がそれを言うか??
- わかった上で言ってんだよな?
- ああ、、、もう、、、
プツンっ
って
自分の中の何かがキレた。
神威が暴走する。抑えられない。抑えるつもりもない。そもそも何も考えてらんない。
思考が感情一色に染まる。
「あはははっ!はははっ!いいね!!いいよ!!!全身から神威が漏れ出てる!君くらいの神の力がこんなに注がれればほとんどのものは近づけないね!しかもこの怒りが籠った神威!すごい良い!!」
そのまま鬼海は大声で笑い続けた。
我を忘れそうになるギリギリ、
かろうじて聞こえた鬼海の言葉、
それがこれも思い通りなんだと示していた。
それがわかってしまった。だからこそ
「ちっ!」
冷めた。
神威も落ち着いた。落ち着かせた。
わかってる。千葉を守るためにもここまでする必要があったんだろうね。でも自分の欲もあったよな?最強の御守りを作りたかったんだろ。わかってる。わかってんだよお前の考えも。でも
それでも
千葉を守ることに繋がるならそれくらい
- どうでもいい
「はぁ、、、」
「うんうん。もう充分だよ!ありがとね!」
「それ仕上げたらとっとと帰れ」
目を閉じてるからわからないけど、コイツはずっとニヤついてるんだろう。
どうでもいいとは思ったが、やっぱり虫の居所が悪い。そもそも許すって意味じゃないや。
うん。
- どうにかできないかな
うーん、、、
神罰は、、、効かないし、、、妖怪でもけしかけるか?いや、それもダメだ。アイツらが酷い目に遭う。なんか手頃な、消えてもいい神いないかな、、、っていないか。いるわけがない。そもそもいるとも思わないし、、、あぁ、、、どうか、コイツの運命が破滅に向かいますように。なんてただただ祈るか、、、それくらいしか思いつかない。
「はぁぁ、、、」
「ナギ」
「あぁ??」
- なんだ?
- ふざけたこと言おうもんなら殴るぞ
「神は誰に祈ればいいんだろうね。そもそも“今の時代”、なんに祈るのが正しいんだろうか。僕はずっと考えてるよ」
-
「さぁな」
私の言葉を聞いて鬼海はさっきまでの戯言の暴投が嘘のように黙る。
こいつの事情なんてどうでもいい。勝手にやってろって思う。深掘りする気もない。
でも今の問いは、無視できない。
私の責任を追及する言葉じゃないんだろう。
ただ、単純に疑問に思い続けてるだろう。
けれど私は、それに対する答えを持たない。
沈黙
その数秒後、
「ふふっ。ここは本当にいい場所だね」
- 勝手に満足しやがったな
- もういい
- 勝手にやってろ
- ああ、でも、
- 今の言葉は素直に受け取ってやろう
捻くれ者のコイツにしては偉く素直な言葉だったからな。
「だろ?」
自慢気に言ってやった。
「うん」
返答は偉く静かだった。
「あと終わったよ」
「じゃあ帰れ厄病神」
「あはは。待ってねぇ。伝言もあるからさぁ」
「それを早く言えってんだ」
またいつもの調子に戻りやがった。
「ウネリ様が君のとこに会いに行くと仰せだ」
「わかったよ、、、『ウネリ様』、ねぇ?」
「ふふっ神さまだから敬わないとでしょぉ?」
「いろいろと違うだろうが!それにウネリが!そういう風にされるのめちゃくちゃ嫌ってさ。わかっててやってるよな?」
「あははは!“神さま”なのは合ってるじゃないか。いったいぜんたいなんのことだい?」
- せっかく少しは怒りを収めたのに、、、
- こやつ、またも我を怒らせる気か?
- もういいよな
- 我慢しないでいいよな?
冷めたせいで緩んだ拳をまた、強く強く握りなおして、思いっきり、肩が後ろに下がるくらいに、拳が背中より後ろにいくぐらいまでゆっくり振りかぶった。
あとは左足から力を巡らせて、神威を込めて全力で振り抜くだけだ。そのために狙いを定めようと目を開いた、ら
眼前に御守り
振り抜けなかった。
込めた力が一気に抜けていく。
それと反比例して鬱憤が溜まる。
もう臨界点に達した怒りは煮えたぎって、どす黒く染まり、ただただ思った。
- 消えちまえばいいのに
「君は充分に人間らしいよ」
さっきの寂し気な声とは違う。穏やかで静かな声色。
御守りの隙間から見えた鬼海の表情は卑しい笑みではなく、柔らかい微笑み。
どこか諭すようにも見えた。
けれど
だからこそ
余計にムカついた。
「お前に言われてもな」
殴れなかった分と今のムカつきを込めて、勢いよく御守りを受け取ろうとしたら、それもすり抜けやがった。
鬼海は気付けば入り口の近くにいて、御守りはカウンターの上。
「あはは。じゃあねぇ〜アキくんにもよろしく。彼女は近日中にはくると思うから、そっちもよろしくねぇ〜」
「去れ」
手を振ってきたが無視して御守りに視線を向けた。
ガチャ、ギィーーッ。カランカラン。
去り際だけ“わざと”音を立てやがったな。
「ああ!もう!!」
掴もうとして空を切った拳は、意図せずして強く握られていた。それをさらに強く握った。
たぶんそのまま掴んでたら御守りも握りつぶしてた。それもわかった上での行動だろう。でもやっぱり、、、
- クソ、、、!!!
ガン!!!!
拳を片方の手のひらで受け止めた。
ここがぼくの家じゃなかったらダメだったかもしれない。でも収まらない。
「アキーーーー!!帰ったーーーーー!!!塩持ってきてーーーー!!!」
「ほんとか!?本当にいないんだろうな!?」
「本気で確認したから大丈夫!!」
ギィィィィィ、ガッチャン。
「塩もってきたぞ。でも効かないだろ」
「いいんやよ。もうね、、、なにかしないと済まないの、、、ふふふ」
「あんなに神威を撒き散らしてたもんな。何があったかは聞かないでおく」
「ありがとうねアキ」
塩が入った袋を受け取って、鷲掴みにした。それにアイツが入れないよう念を込めて、思いっきり、、、
「待てナギ!!!ここを壊す気か!?」
「あ、たしかに」
じゃあ呪いでも込めるように、この煮えたぎった思いを込めて、軽く、振った。
ジャンッ!!
「まだ力入ってるぞ、、、」
そう言ってアキが確認しにいく。
「傷は、、、入ってないな」
「ねぇアキ、ちょっと心許ないから盛り塩に力込めていい?」
「やめてくれ、、、お前が撒いた塩から“邪気”を感じる」
「えぇ〜」
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コメント
1件
いやー、ナギの「どうでもいい」って口癖、実はすごい怒りが溜まってるのバレバレで笑っちゃった。鬼海とのやり取り、憎たらしいのに最後の「人間らしいよ」だけは妙に本心っぽくて、複雑だなって思ったよ。それにしても、千葉を守るために外道と取引するって選択、読んでて胸が痛んだ。アキとの塩撒きシーン、邪気感じるってツッコミ、すごく好き。盛り塩に力込めたい気持ち、神様として納得しすぎた笑