テラーノベル
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暖かい陽だまりみたいな気持ちの中で、しばらく目黒くんと抱き合っていると、目黒くんがくしゃみをした。
「っぷし、、」
「あ、、、ごめん!体拭いてる途中だったね…続きするね、腕上げられる?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
ご飯を食べてお腹もいっぱいになり疲れも出ていたのか、俺に体を拭かれながら、うとうととしている目黒くんが、なんだか可愛くて…。
愛おしい
言葉の雫が一滴、心の中に落ちてきて、波紋のように広がった。
その輪はどこまでも大きくなって、じんわりと、柔らかく体の中に溶けていった。
「おやすみ、目黒くん」
目を覚まして、元気になったら、目黒くんとたくさんの時間を過ごしたい。
話したいことがたくさんあるんだ。
君のこと、もっと知りたい。俺のことも、もし良かったら知ってほしい。
目黒くんに新しい服を着せて、ゆっくりと体を寝かせる。
布団をかけて、規則正しい寝息を立てる目黒くんの頭を撫でてから寝室を後にした。
お昼頃、もう一度様子を伺いに寝室を覗いた。
こっそりと体温を測ると、37.6℃と表示されていたことに、ほっと胸を撫で下ろした。
順調に回復していて良かった。まだ気持ちよさそうに眠っていたので、起こすことはせずにおいた。
茜色の光が部屋に差し込んでくる頃、読んでいた本から目を離し、時計を見る。
いつの間にか結構な時間が経っていたことに気がつく。
そろそろ熱下がったかな?と一人呟きながら、目黒くんの元へ向かう。
額と首に手を当てて、自分と同じくらいの体温になっていることを確かめる。
体温計の数字は36.8℃。
良かった。もう大丈夫そう。
あっさりしたものだったら、夜ご飯食べられるかな?
何が食べたいか、聞いてみよう。
「目黒くん、目黒くん」
頬を撫でながら声をかける。
「ん…?」
「おはよう、熱下がったみたいだよ。良かった。もうすぐ夜だけど、何か食べたいものはある?」
「んー?たべたいもの…?」
「うん」
「あべちゃん」
「ん?なぁに?」
「だから、あべちゃん。あべちゃん食べたい。」
「えぇ?俺は食べられないよ、ふふ、まだ寝ぼけてるの?」
そう伝えると、目黒くんは俺の手を引いて、首の後ろに手を回して深く口付けた。
「んッ!?、、っふ…ぁ、ちょ、、と…めぐ、ろ…く、んんぅ!…ん“…っぷはぁっ!」
唇が離れると、目黒くんは
「ん…ほら、やっぱりあべちゃん、おいしい。」と言った。
「もう!!ご飯作ってあげない!!」
「ごめん、それはやだ…ごめん、、許して……」
「…ふふ、嘘だよ。一緒にご飯食べよう?」
「っ!うん!!」
目黒くんの手を取り、一緒にリビングへ向かった。
目黒くんにもう一度何が食べたいか聞いてみたが、
「阿部ちゃんが作ったものなら、なんだって嬉しい」とだけ答えた。
なんでも、が一番困るとは言うけれども、今はそれすら嬉しかった。
冷凍のうどんがちょうど良くあったので、暖かいうどんを作ることにした。
座って待ってて?と言ったのだが、目黒くんは
「阿部ちゃんの近くにいたい」と言って、キッチンに立つ俺のそばからずっと離れなかった。
やっぱり大きなわんこみたいだ。
めんつゆを水で割って、温める。
いつかはお出汁を取ってから作ってみたいが、そういうのは食べにいった方が早いのかなぁ?なんて考えながら味見する。ん、濃さは大丈夫そう…。
今度、オーナーに料理教わりたいなぁ…。
あ、そうだ。悩み事が解決したこと、オーナーたちにお礼を言わなくちゃ。
誰かに相談して本当に良かった。
一歩踏み出せて良かった。
今なら、オーナーがあんなに幸せそうな顔で話をしてくれた気持ちが分かる気がした。
卵を二つ割って、鍋に落とし入れた。
月見うどん、うまくできてるといいな。
テーブルまで運び、座った。
二人で手を合わせて
「いただきます」
「やっぱり、阿部ちゃんのご飯おいしい」
うどんを啜りながら、目黒くんが褒めてくれた。
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」
素直にそう返した。
二人でご飯を食べながら、いろいろなことを話した。
目黒くんはザリガニを釣るのが好きで、駄菓子とサッカーも好きだという。元気な男の子という感じがして、なんだかどきどきした。
俺とは違う好きなもののどんなところが好きなのか、どうして好きになったのか、そんなことを聞いているだけでわくわくする。
目黒くんのことを少しずつ知っていくたびに、どきどきした。
反対に、目黒くんが俺のことを知ってくれるたびに、胸がきゅうっと鳴った。
ご飯を食べ終わった後も、俺たちの話は尽きることがなかった。
会えなかった時間を埋めるように、俺が迷って足踏みしていた日々を取り戻すように、目黒くんも俺も、ずっとずっとおしゃべりに夢中だった。
夜も更け、そろそろ寝る時間になると、目黒くんは寂しそうな顔をして、
「阿部ちゃん、今日からは、一緒に寝てくれるよね…?別々で寝ないよね…?」と訴えてくる。
う…、この顔をされると俺は弱い…。
放っておけなくなってしまう。
正直、昨日の今日で気持ちが固まったばかりだし、この間みたいに一緒に寝るなんて、、想像しただけで、緊張して寝られなくなってしまう予感しかない。
でも、でも、、離れたくないかも、しれない……。
一緒にいられる時間は多くはない。だから、共有できる時はなるべく側にいたい。
「うん、側にいさせてくれる?」
伺うように見つめれば、目黒くんは優しく抱き締めてくれた。
一人で寝る用に買ったベッドは、大人二人が寝転がるには少し狭い。
向かい合って、お互いを抱き締め合う。
また少し会えなくなってしまう間の分まで満たすように。
今の自分の心は、なんだか難しくて、うまく言葉にできない。
寂しい、好き、大切です、ずっと側にいたい、全て混ざり合ってぐちゃぐちゃになった俺の気持ちが、目黒くんと触れ合った場所から全部伝わったらいいのに。
目黒くんの手を取り、指を絡ませてみる。
「ふへへ…」と幸せそうに笑う目黒くんは、とっても安心したような顔をして目を閉じた。
俺なんかと一緒にいて、こんなに嬉しそうにしてくれること、幸せだと全身で表現してくれること、そんな目黒くんを見ていると、俺もすごく幸せになれる。
手は繋いだまま、目黒くんの胸に顔を寄せて、俺も眠りについた。
この温もりがずっと続きますようにと、二人で祈るように。
頭を撫でられている感覚で目を覚ますと、目黒くんが俺を見つめて微笑んだ。
「おはよう、阿部ちゃん」
「ん…ぉはよう」
俺も微笑み返せば、目黒くんは大きいため息をつく。
「…っはぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“〜、、かわいい………」
「んん?どうしたの??」
「阿部ちゃんが可愛いなって」
そう言っておはようのキスをしてくれた目黒くんは、とっても格好良かった。
朝ごはんの準備をしていると、目黒くんは急にぐずりだした。
「俺は今日休み」という話をした途端に、
「じゃあ俺も一日中、阿部ちゃんと一緒にいる」と言い出したのだ。
「お仕事あるんだからダメでしょ?頑張ってきて?」
「だって、せっかく付き合えたのに昨日はほとんど寝てたし、俺まだあべちゃんが足りない」
「そんなわがまま言わないの…」
「む…」
「うーーーん、、そうだなぁ…。あ、そうだ。じゃあ、もし時間が合ったら、今日の夜ご飯食べに行かない?」
「えっ!!ほんと!?いく!絶対行く!!」
「ふふ、楽しみだね。でも無理はしないでね?」
「大丈夫!絶対に行く!!終わる頃連絡するから!あ…そういえば、まだ連絡先交換してなかったね、阿部ちゃんの連絡先教えて?」
「!うん、、っ」
「うん?どうかした?」
「これで目黒くんといつでも連絡が取れるから、嬉しいの…」
大切な人と、いつでも言葉が交わせるようになる、こんなにも嬉しい。
スマホを抱き締めて、
「目黒くん、ありがとう!」と伝えると、目黒くんは俺を強く抱き寄せた。
「そんな可愛いこと、俺以外の前でしないでね?」
「?…うん?」
なんだか離れがたくて、今度は俺が駅まで見送った。
流石に電車は人目が気になってしまうからと、目黒くんは駅のロータリーに待機しているタクシーに乗った。
「じゃあ、また夜にね」
「うん、病み上がりだからあんまり無理せずに、頑張ってね」
「ありがとう」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
俺は、走り出したタクシーが見えなくなるまでずっと、目黒くんを見送っていた。
…………………To Be Continued.
コメント
6件
大人気なくぐずってしまうめめが可愛いです🤭 2人の距離がぐっと縮まってあったかい素敵な回でした✨
わああ尊い🖤💚
オーナーの所にご飯を食べに行くのかなぁ〜見つかったお礼がてら・・ついでに、指輪のモヤモヤも解決❤️❤️⁉️