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振り向くと、レイが右手で口元を覆いながら笑っている。
こんなレイは見たことがなくて、私は唖然とした。
彼は私と目を合わせると、笑みを残したままとなりに並んだ。
そのまま私の前髪を払い、額に触れるだけのキスを落とす。
それは昨日の遊園地でされたキスと同じで、体の内側がら熱が突き上げた。
3人の声にならない叫び声が響く中、レイは彼女たちに眩しい笑顔で言った。
『今ミオが言ったとおりだから。
俺たちの邪魔しないで』
私はレイに手を取られ、引きずられるようにして歩き出した。
「な、なんなの今の……!」
「えっ、ちょっ……。
意味わかんない、ありえないんだけど!!」
悲鳴と刺さるような視線を背に、私はただひたすら足を動かす。
(もう、もう、レイ……!)
なんなの、今の……!
私だってキスしたけど、それにしたってレイはやりすぎだ。
あいた手で彼の腕を叩きかけた時、レイは前を向いたまま言った。
『……まさか、ミオがあそこでからんでくると思わなかった』
どこか楽しそうな横顔に、こっちは心臓が飛び出しそうなのにと、さらに恨みがましい気持ちになる。
『だって……!』
私だって、本当はかかわるつもりなんてなかったよ。
けど、放っておけなかったんだもん。
そのせいでこんな羽目になったんだから、なにをやってるんだろうと思うけど。
『レ、レイ……!
私教室に鞄を置きっぱなしなの……!』
今更ながら自分からレイにキスをしただなんて、恥ずかしくて死にそうだ。
うわずった声をあげれば、レイは3年の教室がある校舎前で手を離した。
『待っていようか? ここで』
レイはまだ少し笑みを口元に残して、こちらを振り返る。
まだ彼女のふりを続行しろということなのか、それとも単に私を困らせたいのか、どちらだろう。
真意をはかりかねるけど、もうこれ以上レイと一緒にいるのは危険だ。
ぶんぶんと首を横に振れば、レイは『そう』と短く返事をした。
『じゃあ……』
よろめくように背を向けようとした時、『ミオ』ともう一度名を呼ばれた。
振り返ればちょうど太陽が目の前で、眩しいと思った瞬間、レイの影に覆われた。
レイの唇が触れたのは、ほんの一瞬のこと。
『これは、さっきのお礼』
そんな言葉を残し、彼は身を起こして立ち去った。
レイがいなくなると、夏の日差しが一気に降り注いだ。
呆然と目を開く私の周りだけが、時間が止まったようで、彼の背は小さくなり、やがて見えなくなった。
汗が背中を流れる。
それは暑さのせいなのか、内側から湧き上がる熱のせいなのかわからない。
(……もう、レイ……!)
じわりじわりと体中が熱くなる中、私は彼の名を心で叫んだ。