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帰宅後…
家を出て帰り道、なんだか胸が重たい。
五木は「あとで話す」と言ったけれど、あの女の子との親しげな様子を見てしまったせいで、自分からその話を持ち出す勇気もない。
家に着くと、すぐにベッドに倒れ込む。
「はあ……」
無意識にため息が漏れる。
頭ではわかっているのに、心がついていかない。
五木のことが好きだからこそ、こういう気持ちになるんだと自分に言い聞かせるけれど、それでも苦しかった。
スマホを手に取ると、LINEに新着メッセージが1件入っており、確認するとそれは五木からで。
【今どこだ、家か?】
そんなメッセージに、今すぐ来て欲しいという本音を隠して
【やっぱり大丈夫!ちょっと勉強で行き詰まってただけだから、ありがとね】
なんて気丈振った定型文を打って終わらせた。
こんなの、自分じゃないみたいだ。
そしてまた、ため息を吐いてから目を閉じた。
数日後……
アラーム音で目を覚まして
少し気分転換に外に出ようと、街中を歩いていると、ふと前方に見覚えのある後ろ姿が目に入った。
「え……五木?」
五木たちと私の間は小又10歩ぐらいの距離か
立ち止まって目を凝らすがわやっぱり五木だった。
ただ五木の次に私の目に飛び込んできたのは、前バイトのときに五木の近くにいた女の子だった。
二人ともカジュアルな私服姿で、横並びに歩いている。
女の子の方はまるで好きな人にアピールでもするかのように可愛く、五木の服の袖を引っ張ってかまってほしいみたいな雰囲気があって
その反面、五木の方は何だか他人行儀な距離感、というか接し方だ…。
(……嘘でしょ?)
その瞬間、心臓がギュッと締め付けられるような感覚に襲われる。
(だって、バイト先の子と私服で?一緒に歩いてるなんて……普通に考えておかしくない?)
頭の中で勝手に最悪のシナリオが駆け巡る。
(もしかして……浮気?)
足がその場に貼り付いたみたいに動かない。視線は二人に釘付けのまま、手は震えていた。
彼女が五木の袖を軽く引っ張り、何か楽しそうに話しかけると、五木がはいはいと満更でもない感じに雑に受け流している。
そのやりとりがあまりに自然で、私には入り込む余地がないように見えた。
気づけば、胸がじんと痛む。
「……帰ろう」
もうこれ以上見ていられなくて、その場を去ろうとした、そのとき
五木がこっちに振り向いて、しっかり目が合ってしまった。
私はまずいと思って、その場から逃げるように走り去って家に戻った。
帰宅後───…
家に戻ると、玄関で靴も脱がずに立ち尽くしてしまう。
(……五木が浮気なんてするはずない)
頭ではそう思うけれど、どうしても目の前で見た光景が頭から離れない。
片手で頭を抑えては、もう片方の手でスマホを取り出し、LINEを開き五木の名前を見つめる。
(……聞くべき?でも、もし本当に浮気だったら私振られるの?)
そんな弱気な思考に囚われた瞬間、逆に怒りがふつふつと湧いてきた。
私と会う時間はないけど、バイトの子と遊ぶ時間はあるってこと?
ただのバイト仲間と仲良くする暇はあるんだね。
そんな思考がぐるぐる回るうちに、だんだん悔しくなってきた。
五木の馬鹿
心の中でそう悪態をついてから、LINEを開いた。
連絡先から五木をタップして、怒りに任せて文字を打つけど、なかなか送信できない。
文字を打っては消し、また打ち直すを繰り返すうちに、だんだん頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
(五木なんてもう知らない)
イライラする気持ちを抑えられなくなり、勢いに任せてスマホをベッドに放り投げた。
そのとき、LINEの通知が鳴った。
画面を覗けば、それは五木からだ。
私はトーク画面を長押しして内容を確認した。
こういうとき、LINEのトーク画面で相手のメッセを長押しすると既読にならないで拝見できるのだから、iPhoneというのは便利なものだ。
五木からは【さっき、俺と目合って逃げたよな】と来ていて、思わずドキッとする。
(ば、バレてる……!)
するとさらに文章が送られてくる
【絶対誤解してんだろお前】
そんな言葉に、返信する労力すら無くなった私はもう一度スマホを手放し
しばらく天井をぼーっと見つめてから、ゆっくりと目を閉じた。
それから3日後
私は五木にメッセージを送ることもせず、鬼のようにかかってくる電話も無視し、ただ悶々としていた。
あの日から、五木とのトーク画面は未読のまま放置しているし、バイト先の女の子と親しそうにする姿も目に焼き付いて離れない。
(五木がそんな軽薄なことするような男じゃないってのは分かってる……それでもなお、真実を知りたくない自分がいる)
そんな考えが頭をよぎっては消え、また浮かんでくる。
そんなことを繰り返しながら、ただ時間だけが過ぎていった。
夕方……
窓の外は今にも雨が降り出しそうだ。
私はベッドに横になり、五木とのトーク画面をぼーっと眺めていたが、突然スマホが振動しだした。
慌てて画面を見ると、五木からの電話だった。
(なんでこのタイミングで…っ)