オオワシよ
俺も連れてけ
楽園へ
ジョージは意外に造形が深く、色々な国の文化に精通していた。文化や国がどのようなものか、豚の俺にはボヤッとしか分からない。ただジョージは仕事が上手くいかないとき、これを良く口にしていた。
異国の言葉なので、俺に良し悪しは分からない。リズムが良かったから、真似しただけだ。
小窓から見えるお日様は、眩しいくらい輝いている。どうやら今日は出荷の日のようだ。
周りでは選ばれた豚たちが、トニーとジョージに、移送用の檻にぶちこまれていく。10頭程入れられているのを見て、俺はあの牝豚がいないことを確かめる。無意識にそうしていた。トニーが『今日の出荷分終わり』と、めんどくさそうに言う。
檻に入れられた豚の表情は、いつもと変わらない。眠そうで憂鬱そうな、いつも通りの豚の姿だ。自分がミンチにされることなど知らないのだ。
俺はブヒーと大きく鳴いた。トニーとジョージが出荷分の豚を移動させている最中だった。人間に豚を舐めるなという感情を、精一杯込めて鳴いた。
豚を運んでいた足を止め、振り返りトニーがうるせぇミンチにすんぞと凄んできた。俺はさらに目に強い力を込めて、トニーを睨んだ。トニーが振り返っていた時間は1秒程だったろう。
俺はトニー達が立ち去った後も、ガタガタ震えていた。この震えはなんなのだ。俺は頭が割れるほど考えてしまう。
なぜ、高尚な豚である自分が、自分より低い生物に震えたのか。食べないと宣言して2日食べていないから、気力が落ちていたのか。そもそも俺は、ジョージの今日の出荷分終わりと言う言葉を聞いた。ミンチにされることはないと断定していた。
つまり、予想外のミンチと言う言葉に心が恐怖したというと言うことだ。
いや、そもそもミンチにされることはないと判断して、鳴いた時点で負けていたのではないか。ここまでの思考に至った時、小窓からはお日様の光はなくなっていた。変わりに冷たい風が、豚小屋に入ってきていた。
ブヒーとけたたましい鳴き声が豚小屋に響いた。衝動的に俺は一匹の雄豚にマウントポジションをとり、頭突きを食らわせていた
上から見る雄豚の顔は惨めに歪んでいる。俺は空腹の苛立ちと、自分の弱さをその雄豚にぶつけるべく、何度も頭突きを繰り返した。
お日様の光がまた届くまで、頭突いて頭突いて頭突きまくった。
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