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しばらく和子の送迎時に見学を続けたが、なにも問題は起きなかった。距離感近いが微妙なのでなんとも言えないセクハラを続けていたが、ある日、ついに和子が動いた。
「美晴さん。今日はレッスン終わりまで待たずに先に帰っていいわよ。後からタクシーで帰るから」
「そうですか。承知いたしました」
美晴は彼女の言う通りに従い、大人しく帰るふりをした。最近は美晴がつきっきりで見学をしていたものだから、あまり好き勝手出来なかった分、フラストレーションが溜まっているのだろう。よからぬことをしでかすつもりで、邪魔者の美晴を排除したと見える。そうはさせるものか!
彼に言い寄ったり、セクハラをする瞬間を撮影するつもりで美晴は張り込みをした。ダンス教室が終わるまでの時間を潰し、終わりの時間前にスクールへ戻ってレッスン場の近くの物陰に隠れて待った。やがてレッスンが終了し、団体レッスンのために生徒はぞろぞろと教室を出て更衣室へ去って行く。
「TAKAYA先生ぇ~」
レッスンを終え、講師が控室に戻る瞬間を狙ってのことだった。美晴の読み通り、和子は嬉しそうに息を弾ませて隆也を呼び止めた。レッスン場には2か所入口があり、美晴はもう一方の入口の死角から中の様子を撮影する。和子に見つからないように気を付けた。
「いつも熱心にご指導くださって本当にありがとうございますぅ~」
くねくねして気持ち悪い動きをする様子とぶりっこな和子の少女声。吐き気がする。相手をしなければならない隆也が心底気の毒になった。
「当然のことです」
隆也はにこっと白い歯を見せて笑った。
「松本さんは人一倍熱心でいらっしゃいますが、少し肩や手の先に力が入ってしまうのが難点ですね。もうすこしリラックスして、周りの動きに合わせるように踊っていただけたらもっと上手くなりますよ」
「それが上手くできなくてぇ。先生にもっとご指導いただきたいのですが」
「あー……」隆也は腕時計を確認した。「次があるのであまり長くは無理ですが、少しならお付き合いできますよ」
「よろしくお願いいたします、ぜひ!!」
生徒たちはみんな帰ってしまった静かなレッスンホールに、和子と隆也が残され、レッスンと称して二人が至近距離で見つめあっている。和子の一段と濃い化粧が、先ほどレッスンを受けて躍ったせいではげている。アイライナーが目じりに滲んでいて、この世のものとは思えない容姿になりつつある。
しかもこのレッスンは隆也の好意による延長だ。資産家なのだから、応援するという意味でも延長料金を100万円くらい払ってから講師の延長レッスンを受けて欲しい、と美晴は思った。
踊りだして束の間、和子が攻撃に転じた。
「あっ」
撮影していたからわかる。和子はわざとよろけ、隆也の腕によりかかった。
「ごめんなさい、先生」
謝罪しながらも和子は隆也の腕に自分の胸を押し当て、唇を奪おうと勢いよく顔を上げた。胸に気を取られた彼は避けるのが一瞬遅れてしまい、和子の唇が隆也の唇に軽く触れてしまった。