3 目と目。
担任でもない。
私のクラスの授業を受け持ってもない。
部活の顧問もしてない。
私とそんな先生なんてなんの接点もなかった。
なのに、探してしまう。
この校舎のどこかにいるはずの先生を。
だから、みんなが嫌いな全校集会が私は好きだった。
先生の姿を必ず見ることができるから。
先生は変わらず、アクビをしてる。で、年配のおじさんに叱られてる。
そんな先生を見て笑うのが楽しみだった。
入学式では着こなしてたスーツなんて、一切着ない。
色んな先生が見れるのが学校の楽しみだった。だから私は、先生をどこかのアイドルだと見立てて、
憧れを持ってるだけ…そう、自分では思ってた。
・
ある日の放課後。
職員室に用があった帰り、
裏庭の前を通りかかった。
何気に窓から見える花壇に目を向けると、水をあげてる、渡辺先生がいた。
夕方のオレンジの光に包まれながら、マリーゴールドに水をあげる先生。
ポケットに片手を突っ込んで、もう片手にはチョロチョロと水が流れるジョウロ。
マリーゴールドに注がれる水が、キラキラと夕陽を照らしてた。
私は、動けなくて
ここにいる先生は見とかなきゃって思ったら動けなくて。
窓の前に立ってたら、先生がこっちに顔を向けた。
目が、あった。
入学式に目が合ったのを入れたら2回目。
先生と、目があった。
「ん?どうした?」
少し首を傾けて、先生が言った。
それが、私に向けられた言葉だとは思わずに私は立っている
「ふはっ笑なんだよ笑」
「君に話しかけてるんだけどー?1年生ー」
『えっ、!?私ですかっ?…』
「俺には君しか見えてないけど。」
「他に誰かいる?」
『……』
「俺には君しか見えてない。」なんて、少女漫画にしか出てきそうの無い言葉が
先生の口から出てきたことに驚いた。
っていうか、なぜか、私の胸が痛いくらいに締め付けられる。
私を見てた渡辺先生はまた、花壇に目を向けて水をかける。
「気になる。」
『え…?』
「そこで見張られてると」
「気になるんだけど。」
『あ、ごめんなさい…』
水やりが終わった先生がジョウロをそばに片付けて私に近づいてきた。
恥ずかしくて、見られてることが。
『…お花、好きなんですか?、』
そう言って誤魔化してた。
「いや、当番なだけー」
当番、なんて面倒くさそうに言う先生をまた、可愛いなんて思ってしまった。
『当番、があるんですか…』
「そー、先生になってもあるとは思ってなかったわ。笑」
なにそれ、
何その笑顔。
先生って笑う時、クシャって
ふはっ笑って笑うよね。
へんなの。
そんなことを思ってたら、目の前に先生の姿があった。
「君って1年だよね?」
『…え!なんでそれを、、』
「いや、名札の色」
「赤じゃん。」
『あ、、ですよね、。』
バカだ。
ちょっとでも期待をしてしまった私が。
私のこと知ってるなんて思っちゃった。
恥ずかしい。顔、赤くなってないだろうか。
「それに、1年の顔と名前は」
「把握してるつもりだし。」
え…じゃあ、私の、!?
「姫野○○だろ?」
『……』
「え?え、違った!?…あ、ヤベェー、」
先生があちゃーって顔をした。
『え、!いや、○○です!姫野○○です…』
「え?あってんの?笑」
「なんだよ笑だったらすぐ返事しろよー」
「失態かと思ったじゃねぇかよ」
グハって大声で笑う先生のテンポに、ついてけなかった。
けど、初めて見る姿にまた、ドキってした。
『先生が私のこと知ってるのに、驚いちゃって、笑』
なんて、また恥ずかしくて笑う。
『ほら、私A組じゃないし、国語も日向先生だし、接点がないっていうか、』
「新入生の名前と顔は覚えるからね。毎年のこと。」
『そうなんですか?大変そー、』
「そうでもないけどね。」
「1回見たら覚えられるし。」
「1回、目が合ったら忘れない。」
先生が、私の顔を覗き込んだ。
透き通るようなビー玉みたいな瞳。
「姫野。入学式で俺と目、合ったよな?」
勘違い、思い違いじゃなかったんだ…
「んじゃ、暗くなりそうだし」
「気をつけんなよー」
ボォーっとしてる私の頭をフワッと渡辺先生は撫でて、その場を後にした。
コメント
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頭 撫 で て ほ し ~ ! 笑