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**みぅ🤍🥀** うわ……これ、めっちゃ重いし痛い……。 里奈の「泣きたいのは私も同じなのに」が心に刺さって離れないよ。あの散らかったリビングとか、寝不足で限界の描写がリアルすぎて、読んでて息が詰まった。 で、終盤で圭人が出産体験するって……! 「頭!?どこから!?」って叫ぶの、笑えないし、でも少し笑っちゃった。本気で痛みを知らないと理解できないっていう皮肉がすごい。 「気の持ちよう」って言ってた圭人が、これからどうなるのか……続きが気になる。本当に苦しいのはこれからって一文で終わるの、怖いけど読みたい。 都築さん、このテーマをちゃんと描いてくれてありがとう。大事な話だと思う。
深夜のリビングには、生後二か月の桜の泣き声が響いていた。
床には散らかったオムツ、流しには洗いきれていない哺乳瓶。ソファの上には、畳む余裕すらなかった洗濯物が積み上がっている。
その真ん中で、里奈は桜を抱き、ゆっくりと身体を揺らしていた。
「大丈夫、大丈夫だからね……」
けれど、その声にはもう力がない。
髪は乱れ、目の下には濃い隈ができていた。最後にまともに眠ったのがいつだったのかさえ、思い出せない。
玄関のドアが開いたのは、そんなときだった。
「ただいまー……って、今日も泣いてるの? ずっと?」
帰宅した夫・圭人は、散らかった部屋と泣き続ける桜を見てため息をついた。
「……うん。全然寝なくて」
圭人はネクタイを緩めながらソファへ座り、スマートフォンを取り出す。
里奈はしばらく迷ったあと、縋るように声をかけた。
「……圭人。ちょっとだけ、代わってくれない?」
「えー? 俺、残業でクタクタなんだけど」
それでも渋々、圭人は桜を受け取った。
けれど慣れない腕に抱かれた途端、桜はさらに激しく泣き始める。
「うわ、ほら。余計泣くし。やっぱり“ママ”の方がいいんだって」
ろくにあやしもせず、圭人は桜を里奈へ返した。
「……普段から、ろくに抱っこもしないからでしょ」
「何イラついてんの?」
里奈は唇を噛んだ。
「最近の里奈、情緒不安定すぎじゃない?」
桜を抱く腕が、小さく震えた。
「……俺、風呂入ってくる」
逃げるように立ち去る圭人の背中を、里奈は黙って見送った。
残されたリビングには、桜の泣き声だけが響いている。
(泣きたいのは、私も同じなのに)
*
ようやく桜が眠った頃には、日付が変わっていた。
里奈はふらつく足で寝室へ向かい、そのままベッドへ倒れ込む。
身体中が重い。
出産から二か月。まだ身体は元に戻っていないのに、昼も夜も関係なく育児は続いていく。
シャワーを終えた圭人がベッドへ入り、里奈の背後から身体を寄せた。
「ねえ……久しぶりに、さ」
腰に手が回った瞬間、里奈の身体が強張った。
「……やめてっ」
考えるより先に、拒絶していた。
痛みも、寝不足も、疲労も、何もかもが限界だった。
「……ごめん。無理。今日は本当に……」
「なんで?」
「お願い……今日は触らないで」
圭人はしばらく黙ったあと、ため息をついた。
「子ども産んでから変わっちゃったよね、里奈」
その一言が、鋭く突き刺さる。
「……変わったんじゃない」
声が震えた。
「今の私の身体も心も……もう限界なの」
けれど圭人は何も答えず、苛立ったように布団を被った。
二人の間に、冷たい沈黙が落ちた。
*
翌朝。
里奈はほとんど眠れないまま、キッチンに立っていた。
「……昨夜は、ごめん」
トーストを食べながらスマートフォンを見ていた圭人が、顔を上げる。
「多分……“産後クライシス”ってやつなんだと思う」
「産後クライシス?」
「うん。産後はホルモンバランスも乱れるし、気持ちが落ち込んだり、イライラしたりすることもあるみたいで……」
「……ふーん。まあ、調べとくよ」
「……うん」
それ以上、会話は続かなかった。
出勤前、圭人はソファで《産後クライシスに陥っている妻の兆候》と検索した。
――夫が家事や育児に協力的でない。
――夫を見るだけでイライラする。
――夫の存在そのものに疲れを感じる。
「何これ……」
(こっちは妻と娘を養うために、必死に働いてるのに)
そのとき、スマートフォンに一通のメールが届いた。
件名:《あなたの人生、少しだけ交換してみませんか?》
必要なあなたに、痛みを知る時間を――
Re:Birthプログラム体験を開始します。
「……スパムか」
圭人は鼻で笑った。
「痛みって……里奈のこと?」
母親になれば、誰でも経験することだ。
大変なのは分かるが、それを理由に夫へ当たり続けるのも違うだろう。
(結局、気の持ちようってやつじゃないのか)
その瞬間――スマートフォンの画面にノイズが走った。
「……?」
部屋の空気が、一気に冷える。
画面が真っ黒になり、波紋のような闇が広がっていく。
「なんだよ、これ……」
スマートフォンが手から落ちた。
音が遠ざかり、視界が暗闇へ沈んでいく。
『ようこそ、反転した世界へ』
「……誰だよ」
『痛みを知らぬ者に、痛みを与える。それが、この世界のルールです』
「なに、それ……」
答えを聞くより先に、暗闇が白く弾けた。
*
「――っ、あああああ!」
目を開けた瞬間、下腹部から腰にかけて、身体を引き裂かれるような激痛が走った。
「痛……っ、なんだよこれ……!」
「はい、深呼吸してください。子宮口全開です。もういきんで大丈夫ですよ」
「子宮口!?」
目の前には助産師。
自分は分娩台の上にいる。
「いや、待って……俺、男――っ!」
言い終わる前に、再び強烈な痛みが襲った。
「痛い……っ! 無理、無理無理!」
「波が来ています。いきんでください」
「無理だって!」
ベッドの柵を握りしめる。
全身から汗が噴き出し、腰が砕けそうだった。
「赤ちゃん、下がってきていますよ。もう少しです」
「もう少しって……っ!」
また痛みが押し寄せる。
呼吸の仕方さえ分からない。涙が勝手に溢れた。
「頭が見えてきました。次で産まれますよ」
「頭!? どこから!?」
「いきんで!」
「うああああああっ!」
次の瞬間――。
甲高い産声が、分娩室に響き渡った。
全身から一気に力が抜ける。
(終わった……?)
「はい、産まれましたよ」
助産師が、小さな赤ん坊を圭人の腕へ乗せた。
「パパ。抱っこしてあげてくださいね」
「……パパ?」
腕の中には、生まれたばかりの桜がいた。
小さくて、温かい。
(俺が……桜を産んだ?)
理解が追いつかないまま、分娩室の扉が開いた。
「おー、終わったのね。よかった」
「……里奈?」
入ってきた里奈は、いつもとまるで雰囲気が違った。
泣いている桜にも、汗だくの圭人にも、大して興味がないような顔をしている。
「私、こういうのほんと苦手でさ。見てるだけで貧血起こしそうなんだよね」
「里奈……俺……」
「産後はいろいろあるみたいだけど、気の持ちようって言葉もあるし。まあ、ゆっくり休んで」
圭人の表情が凍りついた。
「じゃ、赤ちゃんよろしくね」
「え……?」
里奈は軽く手を振り、そのまま出ていった。
「待って、里奈……!」
追いかけようと身体を起こした瞬間、下半身に鋭い痛みが走る。
「っ……!」
動けない。
腕の中では、桜が再び泣き始めた。
「なんなんだよ……この世界……」
そのとき、枕元のスマートフォンが震えた。
件名:《Re:Birthプログラム体験の開始をお知らせします》
本日より、Re:Birthプログラム体験が開始されました。
“理解”は、痛みの中にある――
交代された人生を、お過ごしください。
「あの時の……メール」
震える手で画面を見つめる。
(夢じゃない)
(ここで俺は――里奈が経験した“産後”を生きるってこと?)
コットの中で、桜が小さな声を上げる。
出産は、終わった。
けれど圭人はまだ知らなかった。
本当に苦しい時間は、ここから始まるのだということを。
#子育て
都築七美
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