テラーノベル
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頂星(ちょうせい)小学校の6年4組は、学校中から「手が付けられない」と匙を投げられているクラスだった。授業中だろうが給食中だろうが、下品な単語や不快な下ネタが日常茶飯事で飛び交う。担任の熱海先生が怒鳴れば怒鳴るほど、教室は「先生がキレたぞ!」と歪んだ笑い声に包まれるのだった。
主人公の如月翔(きさらぎ しょう)は、そのクラスの中心グループにいた。「おい翔!お前もそう思うだろ!?」と主犯格の夏太(なつた)や高尾がニヤニヤしながら話しかけてくると、翔は「あー、それな!マジでヤバかったわ!」と引きつりそうな顔を必死に笑顔に変えて、大きな声で同調した。
本当は、めちゃくちゃ気持ち悪いのに。
4年生の頃、夏太のターゲットにされて泣いていた真面目な子たちが、一人、また一人と折れていった。拒絶すれば無視され、バイ菌扱いされて居場所がなくなる。生き残るためにみんな笑顔の仮面を貼り付け、脳みそを麻痺させていった。
今や教室は完全に麻痺していた。理科の実験中にストップウォッチが「19:19」になれば「1919チャレンジ成功!」と狂喜乱舞し、窓の外に車のナンバー「4545」が見えれば、かつては真面目だった学級委員長の女子まで「今日の運勢最高だわ!」とお腹を抱えて涙を流しながら笑う。給食の時間には、ポークソーセージを焼きドーナツの穴に何度も突き刺す卑劣な悪ノリを、クラスのほぼ全員が笑顔で見守り、誰も注意する者はいなかった。
(((((ギャハハハハ! ハハハハ!)))))
教室を満たすおぞましいほどの笑顔と笑い声。それは本当に楽しいから笑っているのではない。夏太の泥水に脳を浸され続け、感覚を完全に破壊された結果の「自動的な笑顔」だった。翔の精神はもう、限界に近づいていた。
その下ネタの海に呑まれ、自分を失いかけている最前線に、翔の幼馴染の3人組――賢太(けんた)、翅(つばさ)、弥(わたる)がいた。3人はいつも一緒に下校するほど仲が良いが、今の彼らは夏太の『狂育』によって、堕ちる寸前の精神状態にあった。
賢太の目の光は、今にも消えかけている。夏太の顔色を伺いながら、必死に下品な冗談を言ってグループにしがみついていた。翅にいたっては、すでに完全に目の光が消えていた。感情を殺し、ただのロボットのように、言われた通りの不快な下ネタを淡々と口にしている。唯一、まだ少しだけ目に光を残しているのが弥だった。しかし、彼もまた、周囲の異常なノリに押しつぶされ、今にも泥水に完全に沈みそうになっていた。
(このままだと、みんな壊れる。あいつらの本当の笑顔が、消えてしまう)
放課後、夕日に染まる無人の教室。翔は、クラスで唯一、夏太のグループと距離を置き、いつも静かに本を読んでいた親友の大神蹴介(おおかみ しゅうすけ)の前に立った。
「俺、本当は下ネタなんて大嫌いだ。毎日毎日、あんな汚い言葉ばっかり聞いて、合わせるフリをするのも吐き気がする。みんな夏太に無理やり変な言葉を教え込まれて、心がボロボロになってる。俺……みんなを救いたいんだ。このおかしなクラスを、変えたい」
一気にまくしたてた翔の肩に、蹴介はぽんと手を置いた。
「気づいてたよ、翔。お前が無理して笑ってること。あいつらの下品なノリに合わせるとき、いつも一瞬だけ、嫌そうな顔をしてたからさ。安心しろ、お前を一人にはさせない。賢太たちを夏太の泥水から引きずり戻すんだろ?――俺も協力する。一緒にやろう」
たった一人では戦えなかった。けれど、蹴介がいれば、この絶望的な教室の空気を変えられるかもしれない。翔と蹴介の、静かな反撃が始まろうとしていた。
放課後、いつものように賢太や翅と並んで校門を出ようとしていた弥の背中に、翔の声が突き刺さった。
「おい、弥。ちょっといいか」
すぐ隣には、大柄な大神蹴介が静かに佇み、鋭い視線をこちらに向けている。「賢太、翅。悪いけど、今日は弥をちょっと借りてく。先帰っててくれ」と蹴介が低い声で告げると、二人は夏太の命令に従う人形のように、何も言わずにトボトボと歩き去っていった。
残された弥は、居心地悪そうに自分のカバンの紐をぎゅっと握りしめ、無理にいつもの笑顔を作ろうとする。「な、何だよ二人して改まって。もしかしてさっきの話? あれマジでウケたよなー。お前らもさぁ――」
「もうやめろよ、弥!!」
翔の悲痛な叫びが通学路に響いた。「いつまでそんな顔してんだよ!本当は、全然面白くなんてないんだろ!?あんな不快な言葉、全部気持ち悪いって思ってんだろ!?思い出しなよ、4年の時!夏太に無理やり変な言葉を言わされて、泣きそうになってた時のこと!あの時のお前は、あんな汚い言葉、絶対に笑顔で言ってなかった!」
「……っ、うるさい、うるさいよ……!」
弥の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。「じゃあどうしろって言うんだよ!拒絶したら無視されて、バイ菌扱いされて、居場所がなくなるんだぞ!?夏太の言う通りに『おもしろい』って笑って、同じ下ネタを言っていれば、いじめられないで済むんだ!笑顔の仮面を貼り付けて、脳みそを麻痺させれば、傷つかなくて済むんだよ!!」
弥は地面に涙をボタボタと落としながら叫び返した。「お前だっていつも一緒に笑って、ノリよく合わせてるじゃんか!なんで今さらそんなこと言うんだよ!諦めてよ、もうあの頃には戻れないんだから……!」
その前に蹴介が一歩進み出た。「戻れるさ、弥。翔はな、お前たちを救うために、ずっと自分を殺して仮面を被ってたんだ。俺たちは本気だ。夏太が作ったあの狂った『当たり前』を、俺と翔でぶっ壊す。だから弥、お前はもう無理して笑わなくていい。あいつの泥水に落ちるな。俺たちを信じて、本当の自分を取り戻してくれ」
翔もまっすぐに見つめ返した。「約束する。お前を絶対に一人にしない。だから、もう一度こっちに戻ってきてくれ、弥」
夕日に照らされた弥の瞳に、濁りのない本物の光が灯った。弥は小さく、しかし確かに、二人の言葉にコクりと頷いた。
コメント
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うわ、重い……でもすごくいい話だね。 クラスの空気がどんどん狂っていく様子がリアルで、読んでて胸がギュッてなった。 翔がずっと無理して笑ってたんだって思うと、切なくなるよ。 蹴介の「気づいてたよ」ってセリフ、めっちゃグッときた。 弥の涙も、やっと本音が出せたって感じで、一緒に泣きそうになった。 この先、3人でどう立ち向かっていくのか、すごく気になるよ。 続き、絶対読みたい。
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