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いつの時代、いかなる地域でも、人間という生き物は、巨大な物に超常の存在を見出し、畏敬の念を抱いてきた。
ある国では、大樹を神聖視して崇め奉り、ある国では、山や森そのものに命が宿ると信じ、またある国では、未踏の台地を神々の住まう場所と考え、そこを聖地とした。
そしてこの国、ラヴァリン王国においては、度々マグマを噴き出す火山、そして、その山に住まう赤竜を畏れ、敬ってきた。
王国は、河と河が長い年月をかけて削った河岸段丘と平地、そして、街が築かれた平地への道を火山が絞り、天然の要塞の様相を呈している。
国土は広いとは言えないが、侵略者を寄せ付けないその土地は、実に平和で、穏やかな国である。
だがしかし、そんな国も最近は厳しい立場に立たされている。火山活動が活発になった事で、農地が火山灰に埋まり、それにより農作物の収穫量が減っており、経済的に苦しい状況にあるからだ。
今はまだ、蓄えがあるから何とかなっているものの、このまま収穫量が戻らなければ、遠からず国は傾くだろうと考えられていた。
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火山に湧く水は、地熱で温められ、火を焚かずとも湯として出てくる。
これを利用しているのが、この山に住まう赤竜である。
その湯は、洞窟内で岩が盛り上がり、天然の水槽となっている部分に、実にちょうどいい温度と深さで溜まっている。
赤竜が浸かると前後の脚と尾、それと腹が少し浸かる程度の深さだが、人間が腰を下ろすと肩の辺りまでという絶妙さだ。
一日のほとんどをここで過ごす赤竜と、少し滞在して帰って行く人間が、同じように温まれるここは、実に素晴らしい憩の場であった。
この湯は、万病に効くとされ、その理由は竜神様の加護、要するに赤竜が持つ超常の力によるものだと考えられていたのだ。
しかし、人間達はある時からぱったりと来なくなった。竜神様と呼ばれていた赤竜も、人喰いの怪物と言われるようになった。
(全く、勝手なものじゃわい)
一時期は竜神様と崇め奉り、親しくさせていた人間達。それが今や、怪物扱いである。
そもそもの原因は、無謀な若者が近道をしようと登山道を外れ、滑落事故を起こしたことであるらしい。
この山は、グレンヴァル山は登山道さえ守れば登るのはなんてことは無い山だが、無理に直進でもしよう物なら途端に険しく危険な山となる。
だから、土地勘の無い侵略者を退けるのに、大いに役に立ってくれたのだ。
ただし、登山道を外れれば危険なのは、土地の者とて例外ではない。
木などほとんど生えていない、岩と火山灰土に覆われた禿山だ。人間の身体など、斜面を転がり落ちるうちに骨は砕かれ皮膚は裂け、粉々に砕け散った事だろう。
救助に来た者達は亡骸を見た……のかは分からないが、とにかく、その若者の死因は赤竜に食われた、あるいは見るも無残に殺された事になったらしい。
一度だけ討伐隊が来て、それを一吠えして追い返して以来、人間は一人もやってこない。
おそらく、王国の方で禁足地にでも指定し、規制線を張ったのだろう。
そうでなくば、冒険好きの無鉄砲者くらいは来るはずだから。
とはいえ、静かな老後というのも悪くない。赤竜に主食は、岩の間から湧き出す火山ガスや、火口に溜まったマグマだ。
火山活動が停止しない限り、これらは無くなる事はない。かつて、自分を神と崇めた人間が供えていった、肉や果物が恋しくないと言えば嘘になるが、食えればいいと思えばどうという事もない。
そんな、変わり映えのしない日々が続くのだろうと思っていた、ある日の事だった。